当初のプラン
宣言すると同時に、魔道具を召喚する空間の門を開いた。
今回の物は魔力を封じる至高の鎖。騎士団に納品する高位魔力保有者逮捕の拘束具……の失敗作だ。弱いのではなく、強すぎてコントロールが出来ず逮捕用には使えない物だ。もちろん、手加減せずテロ犯を制圧するには非常に良い。
しかし、鎖が安息領の兵士を拘束することはなかった。結界の内側から飛んできた空間の刃が鎖を切り裂いたのだ。
「やっと出てきたね」
「相変わらず地位に似合わず足取りが軽い御方ですね」
「オヴェルパ伯爵家の最後の生き残り。安息領でも君ほど純粋な復讐心で加入した者は他にいないだろう」
「……以前からいきなり挑発からされるのも変わってないのですね」
「そう言う君は変わらなかったのが全然いないな。もともときれいだった容貌はもっと美しくなり、性格はとても悪く毒っぽくなった。昔の君は純粋で可愛い子だったのに」
ラースグランデは眉をひそめた。僕を睨む眼差しに敵意が満ちていた。その一方で、どこか複雑な感情も感じられた。
まぁ無理もないだろう。オヴェルパ伯爵家の皆殺しには悔しい部分があったし、僕はそれを知りながら止めなかったから。
しかしオヴェルパ伯爵に罪があったことは明らかだ。僕はただ伯爵と一部一族の罪で全体を皆殺しにする連座制に反対しただけだ。だからピエリが最後の生き残りであるラースグランデを救命する時、僕も力を加えた。そんな僕にラースグランデは憎みながらも感謝する二重の心を持っていた。
直接会ったのは久しぶりだけど、彼女の感情はあまり変わっていないみたいだね。
「失ってしまった家族を組織の中で探す癖は相変わらずらしいね。家族遊びは楽しいか?」
「貴方たちのせいでその家族遊びも不可能になっていましたが!」
ラースグランデは怒りをぶちまけて両腕を広げた。
――『空間操作』専用奥義〈万華鏡〉
倒れていた安息領の兵士たちが皆消えた。そしてラースグランデの後方に巨大な空間の結界が現れた。万華鏡のように数多くの切り口がきらめく美しい結界だった。
しかし、実体は決して美しくない。あれは無数に重なった空間が絶えず入り混じって座標が無限に変わる死の迷路だから。
彼女の異名を『万華鏡』にした強力な結界。相変わらず素敵な完成度だね。
「いくら空間を断絶して隔離しても『転移』はそのすべてを無視します。ですが『万華鏡』は座標を絶えず撹乱するため、『転移』が通じません。これで貴方は同志たちを狙うことはできません」
「でも〈万華鏡〉が維持されている間は外に出ることもできない。至高の盾だけど同時に究極の監獄でもある。君が僕の弱点を知っているように、僕も君の弱点をよく知っているんだ」
ラースグランデは眉をひそめた。それ以上の言葉はなかった。
[ケイン殿下。騎士たちと態勢を整えた後、戦闘に合流してください]
思念通信でそう伝えた直後、ラースグランデと僕は同時に動いた。
〈万華鏡〉から無数の空間の刃が発射された。僕が空間の力を遮断する魔剣でそれを防御した直後、ケイン殿下の方も参戦した。しかし〈万華鏡〉の影響圏はこの一帯全体。空間の刃が発射されるだけでなく、無作為な座標移動と空間断絶が僕たち皆を一度に相手にした。
「ふむ」
ふと後ろに一歩後退した。先ほどまで僕がいた空間が二つに割れた。その隙を突くように飛び出した空間の刃を避け、続いてハンマーのように平たい断絶の壁を中和し、空間ごとに僕を真っ二つにしようとする断層を魔剣で止め、位置を撹乱しようとする座標移動を『転移』の力で反撃した。
〈万華鏡〉を展開したラースグランデは強い。ケイン殿下と騎士部隊、そして僕を同時に相手にしながらもむしろ優勢なほど。
「……ふむ」
〈万華鏡〉を壊す魔道具なら、ある。でも都心で生半可に取り出しても良い物ではない。その上、使用したとしても充電に時間がかかる物であり、汎用性が高いだけにむやみに使い果たすことはできない。安息領が他の所を襲撃する確率がゼロではないから。
しかもラースグランデはすでに一度その魔道具に敗退したことがある。彼女の能力では対処法を設けることがほとんど不可能な魔道具だから、今も防御自体は不可能だろう。だが一度やられた彼女なら〈万華鏡〉が壊れた以後を準備しておいたはずだ。
[ケイン殿下。少しだけ耐えてください。一緒に時間稼ぎをするのです。本来の作戦通り]
[卿の武運を祈ります]
ラースグランデが優勢なのは事実だが、我々を素早く制圧するほどではない。まぁそれができたら僕も本気を出せばいいだけなんだけど。
そのようにギリギリのバランスを保っていたところ、待ちに待った連絡がついに来た。
[来ました。準備してください]
ケイン殿下に思念通信を伝えると騎士たちの気配が変わった。必死に〈万華鏡〉に抵抗して攻撃を試みた勢いが後退し、堅固で揺るがない態勢で防御を固める隊列だった。
ラースグランデがその変化に反応する前に、僕が先に魔力を解放した。
――『転移』専用技〈生物召喚〉
展開されたのは生命体を召喚する技。呼び出したのはただの人間一人にすぎない。本来ならささやかなものだ。
しかし、召喚されるその一人が規格外の力を持っているなら話は違う。
――天空流〈三日月描き〉
空に現れて降下する人影が巨大な斬撃を放った。
ラースグランデは自分を襲う斬撃を空間の防壁で防いだ。しかしその防壁に飛び込んだ人影が防壁を開けた。紫の雷電を放つ刃がラースグランデに殺到し、彼女は大きく後退せざるを得なかった。
地面に降りた人影が僕を見て微笑んだ。
「ご協力ありがとうございます、父上。ここからは私にお任せください」
すでに両目から〈選別者〉の眼光を放っている娘がラースグランデに剣を向けた。
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