ラースグランデの戦い
[作戦を変更いたします]
好戦的な言葉とは違って、静かな思念通信が聞こえてきた。
[全員、結界破壊に集中してください。できるだけ早く結界に穴を開けて抜け出すことを目指します。皆さんの戦力なら騎士団が増員を送る前に逃げることは可能でしょう]
[王子と騎士たちはどうしますか?]
[わたくし一人で相手します]
ラースグランデの部下はその一言で納得した。そして結界を壊すために向かった。
いや、ちょっと待ってよ。一人であの部隊を相手にすることを納得するって? 部隊の規模も大きいし、空間能力者もいるんだぜ?
[待って、本当に大丈夫かよ? 一人であれを相手にするって?]
[端的に申し上げますが、わたくし以外に他の人がいる方が邪魔なのです。だからディオス卿は気にせず結界破壊に合流してくださいませ]
ラースグランデは返事も待たずにケイン王子の部隊へと突撃した。
ちょっと気になるが、ラースグランデの言う通り俺が加勢しても邪魔になるだけだろう。強いて加勢するほどの義理もないし。
***
「第二王子殿下! 『万華鏡』が来ます!」
「総員、対応準備! 事前に計画した作戦通りに動け!」
ラースグランデは安息八賢人の中での序列は低いようだが、戦闘力で順位をつけるならその序列は高い。騎士団との交戦回数が八賢人にしては多いだけにデータは豊富だが、データがあるとしても油断できない。
だからこそ突撃してくるラースグランデの姿をずっと注視していたが――瞬間、私のすぐ後ろから魔力が感じられた。振り返ってみるとすでに目の前まで殺到してきた空間の刃が見えた。
「殿下!!」
私がギリギリで身をかがめる瞬間、ガイムスの〈空間中華〉が刃を消滅させた。しかしラースグランデはその程度は予想していたように平然としていた。
――『空間操作』専用技〈空間振動〉
空間そのものが揺れる強力な波動が爆発した。ラースグランデの位置は部隊の中心近く。そこで巨大な振動が発生して近くの騎士たちを吹き飛ばし、その余波で全体の隊列が乱れた。
しかし騎士たちは迅速に魔力を展開した。飛ばされた者たちはむしろ上空に飛行してラースグランデを包囲する形で配置され、地上の騎士たちも空間能力を中和する魔道具や能力を持った者たちが先頭からラースグランデを睨んだ。
「空間能力を活用した急激な移動と範囲攻撃。すでに全部知っていることだ」
「知られているにもかかわらず、わざと見慣れた行動を取ってあげたのです」
――『空間操作』専用技〈空間の刃〉
空間を切り裂く小さな刃が無数に現れた。一部はガイムスと騎士たちの対処で無力化したが、刃は絶妙に制御されて隙を突いた。あっという間に手足に怪我をした騎士が続出した。
「生半可ですね」
何人かの騎士が突撃したが、彼ら全員の腹部付近で小さな〈空間振動〉が爆発した。衝撃が彼らを吹き飛ばした。遠距離攻撃はピンポイントで展開された空間の防壁がすべて防ぎ、ラースグランデの攻撃は正確に騎士たちを倒した。
近くにいる人たちだけではなかった。遠くにあるところでも突然空間が振動して騎士たちを吹き飛ばし、その余波で隊列が乱れ攻勢が弱まった。事前準備と作戦のおかげで収拾は早かったが、その程度はラースグランデには意味がなかった。
――『無限遍在』専用技〈遍在分身〉
私は無数の分身を生み出して突撃した。もちろん私自身も結界兵器でバトルアックスを具現して先頭を走った。
――バルメリア式結界術〈王の引率〉
――バルメリア式結界術〈粛清の刑場〉
味方を補助し強化することに特化した結界と敵を押さえつけて粉砕する攻性結界を重ねて展開し、結界魔獣を解放して結界の力に加えた。
過去の邪毒獣の力を見て、奴を相手にするには何が必要なのか悩んだ末に考案した戦法。もちろん私一人で邪毒獣を相手にすることは不可能だ。でも部隊と連携すれば、討伐はまだしも阻止することは可能だろう。
「相変わらず生半可なのです」
ラースグランデは〈粛清の刑場〉の力だけをピンポイントで破壊した。そして〈王の引率〉で強化された騎士たちと私の分身たちの攻撃をすべて体の動きだけで避けた。まるでその程度の攻撃などにはあえて力を使う必要もないと言うように。
私の目の前に到達したラースグランデが空間の刃を振り回した瞬間、私はバトルアックスでそれを受け止めた。
「もちろん知っている。だから対応法を考案した」
しかし、バトルアックスは平凡な刃のように防御した。いや、むしろ空間の刃の方が壊れた。
「ほう。空間を操作する魔力そのものを台無しにしたのですね」
空間操作そのものを防ぐのは同じ空間能力でなければ不可能。しかし操作の媒体は結局魔力。それも操作される空間の外縁側を魔力の膜が覆う形だ。その魔力自体も特殊なので干渉しにくいが、操作される空間自体に干渉することに比べれば簡単だ。
「余裕は今だけだ!」
改めて〈粛清の刑場〉を、今回はラースグランデに集中して出力を引き上げる形で展開した。今回は結界魔獣の力で強化する程度ではなく、結界の主体自体を結界魔獣にした。さすがのラースグランデでもこれを突破するのは容易ではないだろう。
「今だ!」
騎士たちは直ちに指示に従った。
――バルメリア制式術式〈戦術共鳴陣〉
部隊全体が巨大な魔力の共鳴を発動した。この程度の人員規模なら魔力出力を数十倍に増幅させることができる。そこに私の結界術を応用した増幅式まで重なって展開した。
そのすべての戦力が〈粛清の刑場〉の圧迫に閉じ込められたラースグランデに浴びせられた。
だが、そもそもこれほどの出力の〈粛清の刑場〉だったとすれば普通は立っていることさえ不可能なのに、ラースグランデは平気で立っていた。
「なかなか悩んだ跡が感じられますが――」
ラースグランデの左手が振り回され、強烈な魔力が彼女から爆発した。
「意味のない時間の無駄なのです」
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