本格的な脱出
極穿槍ダウセニス。家での地位が危うくなったが、父上はこの槍を回収しなかった。
ここに投獄される時に奪われたがラースグランデが回収しておいたようだ。多分別の場所にいたはずなのに。それにこれを盗んだことがバレたら、すぐに騎士団が原因を調べるために動いたはずだが……出る前までは騎士団の介入がないと自信を持っていたのだから、厳重な警戒とシステムを突き抜けて盗み出したということだろう。いろいろとすごい。
「下がっていろ。今から壁を壊すぜ」
壊すべき壁と鉄格子を睨みながら、槍に魔力を通わせる。
今の俺なら決闘当時のリディアくらいは勝てるだろう。もちろん今のリディアが相手なら分からない。負けるつもりはないけど、根拠もなく勝つという自信を持つほどのバカではない。
あんな間抜けな小娘を認めるものではない。しかし実際に出た結果を否定することは結局自分自身の役に立たない。どうせ次にまた叩きのめせばいいだけだ。
――鋼鉄槍道〈分かれ道〉
ターゲットの最も脆弱な部分を見抜き、そのすべてを同時に貫いた。ダウセニスの強力な貫通力を槍の先に集中し、範囲を狭めることで威力を極大化した突きで。あっという間に無数の穴があいた。そしてその中にわざと魔力を残した。
――白光技〈共鳴破砕〉
残留した魔力が共鳴して破壊的な魔力場を形成した。それが監獄の強力な保護の魔力を破壊した。完全に無力化することは不可能だが、残った力では魔力場自体の破壊力を防ぐことはできない。
「感謝しております。そしてお手数をおかけして申し訳ありません」
「慣れないな。今は協力関係だけど一時敵対していた組織の最高幹部がそのような態度では俺も接しにくいぜ」
気分は悪くない。でもよりによって相手が相手だから不便なのは本気だ。敵対とかなんとかは言い訳だが、俺を簡単に殺せるほどの強者があんな態度で俺に接するというのが不便だ。もちろんそれを率直に言うのは自尊心が許さない。
ラースグランデは苦笑いした。
「申し訳ありません。以前から性格が性格ですので」
「それはあんたがかつて貴族だったからかよ?」
オヴェルパ伯爵家はもともと名望のある貴族だった。だが、ある事件によって一族のほとんどが処刑され、唯一の生存者だった当時の当主の令嬢が安息領に加担した。
俺も詳しい事情はわからない。でも当時処刑の不当さを力説し、令嬢の逃避を助けた人がピエリ先生だったことは知っている。もともと処刑対象だった令嬢の追撃が中断されたのも大英雄ピエリが直接説得したためだ。
まぁ、その時の令嬢が安息八賢人の座まで上がることを知っていたら追撃が中断されなかっただろうが。考えてみればピエリ先生が変節する前からラースグランデは安息八賢人だったから、彼が安息領に加担することをラースグランデが斡旋したのかもしれない。
ラースグランデの表情が少し暗く見えたので、俺は慌てて付け加えた。
「敏感な質問だったら謝ろう。俺が無神経だったんだ」
「いいえ、大丈夫です。もうずいぶん前のことですから」
いい表情じゃないんだけどな。
しかしラースグランデはそれ以上言わず、代わりに安息領の奴らへと向かった。ラースグランデの直属の配下たちはひざまずいて感激し、彼女の直属ではない奴らも八賢人が直接来たという点に感謝していた。彼女の協力者である俺にも。
結構人気があるんだな。理解はできる。配下に対する態度も丁寧で優しかったから。八賢人の中には配下を好き勝手に殺す狂人もいるから、あんな者は愛されるしかないだろう。
「全員確認しました。これから脱出しましょう」
「どうやってここを抜けるつもりかよ?」
「わたくしの『空間操作』で建物を包んだ亜空間の迷路を破ります。ただ入ってくる時はわたくし一人でしたのでこっそり行動できたのですが、今はこれだけの大人数。事実上、亜空間自体を破壊するのと変わらない規模になるでしょう。小さな穴から脱出しようとすると時間が長くかかるでしょうから」
「どちらにしても騎士団ならすぐ駆けつけるんだな?」
「その通りでございます。衝突は避けられないでしょう。だから二つに分かれます」
ラースグランデが魔力で映像を作った。王都タラス・メリア全体の地図だった。
「わたくしは外で潜伏中の同志の半分を率いてタラス・メリア西部を攻撃します。安息八賢人のわたくしが直接兵力を率いて行動すれば、騎士団でも戦力を集中するしかないでしょう。その隙に残りの半分の同志たちが脱獄した同志たちを率いて逃げます。ディオス卿はそちらにご同行ください」
「助けなくてもいいか?」
「永遠騎士団の本隊が来るならわたくしも手に負えませんが、いくら騎士団でも本隊が直接動くなら時間がかかります。早く派遣できる規模の部隊くらいなら、わたくし一人でも防げます。おそらくわたくしが稼げる時間は一時間くらいでしょう。その程度なら皆さんを逃げさせるのに十分です」
「なるほど。あんたがよければ異論はない」
あんなに言うのにあえて助けを貫徹するほどの義理もないし、そもそも俺が同行しても大きな助けにはならないだろう。
「では始めます」
ラースグランデの空間操作で俺たちは建物の外壁にたどり着いた。窓から外を見ると亜空間の歪んだ風景が見えた。それを構成する強力な魔力も。正攻法でアレを突破するのは騎士団長クラスにしか可能なことだろう。
しかし、ラースグランデのような空間能力者には正攻法など必要ない。
――『空間操作』専用技〈空貫穿孔〉
亜空間に巨大な穴があいた。俺たち皆が一度に過ぎてもいい大きさだった。
「すぐ出発しましょう。事前に樹立した作戦通り迅速に動けば成功できます」
私の社会での仕事のせいで、明日は更新できなくなる可能性が高いです。
確率で言えば70%程度だと思います。
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