行動開始
――『空間操作』専用技〈広映崩壊〉
周辺を覆う立体映像が現れた。この監獄を含む建物全体の映像だった。
ラースグランデが魔力を動かすと、映像の建物の一部が破壊された。俺たちがいる監獄の横の壁を含めて。その瞬間、俺の目の前の本当の壁が同じように壊れた。何の音も気配もなく。
「……この監獄の壁をこんなに簡単に壊すとは、すごいな」
「見た目より簡単な作業です」
平然と話すラースグランデを見ると呆れた。
ここはこの国でも最も重要な監獄だ。まだ容疑がかかっているだけの容疑者を拘留する所と刑が確定した重罪者を投獄する所が同じ建物にあるが、前者さえも重要だったり地位のある者のための場所であるだけに、建物は内外の保安ともに強力だ。特に物理的な破壊への抵抗力は非常に高いレベルだ。
もちろん容疑者を拘留する程度の位置は相対的に弱い。しかし今の映像で壊れた部分には最深部の重罪者監獄も含まれていた。そちらはあらゆる魔道具で徹底的に強化されただけでなく、空間能力のような特殊な力にも高い抵抗力を持っている。本当にそちらまで破壊されたかは分からないが、実現したならかなりの力だ。
「わたくしは投獄された同志たちを助けに行きます。ディオス卿は……」
「俺もついて行くぜ」
「大丈夫でしょうか? ここでわたくしと同行していただければ完全に我々と結託したと思われるでしょう。取り返しのつかないことになると思いますが」
「はっ、それって狂信的な信仰を押し付けようとテロに明け暮れる奴らの幹部が言うことか?」
「……わたくしは同志たちとは少し動機が違いますので」
ふむ。暗く見える表情を見ると何か事情があるようだ。だが俺の知ったことではない。
「どうせ安息領の襲撃で脱獄したというだけでも仲間に思われるはずだ。むしろ確実な協力関係を構築した方が良いだろう」
「それはそうですね」
ラースグランデは納得して手を動かした。監獄全体の魔力が動く気配が感じられた。
――『空間操作』専用技〈永遠の迷路〉
建物全体の空間が〝分割〟された。一つ一つの単位は部屋一つぐらいの立方体なのか。目に見える変化はなかったが、魔力をたどってみると分割された空間が鮮明に感じられた。
「移動します」
ラースグランデがそう言った瞬間、目の前の風景さえ変わった。依然として建物の中だということは分かったが、近くの場所が突然変わったのだ。
「これは……空間を繋いだのかな?」
「ご存知ですね。普通は魔力を感じてもそこまで突き止めることはできませんが」
分割された空間を好きなように再配置する技のようだ。分割された立方体の空間内部には何の変化もないが、立方体そのものを再配列することで位置を自由に変えることができるのだろう。内部を絶対に抜け出せない迷宮にすることも、自分だけが望む地点に瞬時に移動することも可能な空間コントロールだ。
「常駐警備員の中にも強力な騎士がいるようですが、彼らの力ではこの空間の迷路を突破することはできません。彼らは我々の居場所まで到達することさえできませんので、騎士団が本格的な部隊を派遣するまでは安全なのです」
「でも騎士団の対応は早い。急いだ方がいいぜ」
「問題ありません。空間を適切に配置すればここから外に送る魔力信号も遮断できますから」
「でもここの警備隊は一時間ごとに騎士団と定期連絡を取るんだよ。それが切れたらすぐに部隊が派遣されるだろう」
「問題ありません。次回の定期連絡は約四十分後。目標人数を全員救出した後、ケーキを一切れ食べて抜け出すほどの余裕がある時間です」
ラースグランデは優しく微笑んだ。あんな表情をすると冗談なのか本気なのか区別がつかないね。
「問題は部隊の到着よりその後です。騎士団が異変に気付く前に同志たちを救出してここを抜け出すことは可能ですが、亜空間から出た瞬間すぐに見つかるはずです。そうなれば支援部隊の到着はあっという間なのでしょう」
「脱出した後が問題だということか。それならこの中にいる時、できるだけ準備をしないと」
「その通りでございます」
やり取りの間も空間が動き続けた。やはりラースグランデは遊んでいたんじゃなかったんだね。おそらく脱獄させる者たちの位置を把握し、彼らの空間をこの部屋と連結しているのだろう。思念通信を送る魔力波も感じられたから、連絡までしっかり終えたようだ。
集めてみると思ったより多い。しかも相当な魔力を持つ者も二人ほどいた。他者には最低一対一なら負ける気はしないが、あの二人が相手なら瞬殺されそうだ。……認めるのはムカつくけど。
でもそのような者さえも魔力を封じる足かせのため、大人しく閉じ込められているのが実情だ。
「ふむ、やはりこちらはかなり硬くて複雑に保護されていますね」
ラースグランデは安息領の奴らを閉じ込めた鉄格子と壁を叩きながら眉をひそめた。この空間の迷路は希望する大きさと位置を完璧に指定することはできないのか、閉じ込められた者たちはほとんど投獄された部屋ごと移動してきた。
最初に壁を一部破壊したが、それはおそらく望む通り分割されなかった空間を移動させる時の副作用を防ぐためだろう。 空間を移動させる際に断面に巻き込まれるとそのまま体が分離してしまうので、それを避ける空間がない場合は避難させる余裕を確保するため。 だがそれも必要最低限の措置だっただろう。
ドアを開ける鍵は俺たち当然ないし、壊すのは不可能ではないが骨が折れそうだ。
しかし、ラースグランデほどの強者なら大きな問題はないはずだが……あ、そうなのか。
「俺が壊すぞ」
俺が前に出ると、ラースグランデは首を傾げたいような目で俺を見た。
「大丈夫です。わたくしの能力で壊すのはそれほど難しくありません。どうかお休みを」
「でも結構力を消耗するだろうな。重要なのは今この瞬間ではなく脱出する時に出会う騎士団の部隊だぜ。そちらを相手にする余力をできるだけ残しておくことが大事なことなんだよ。ここの最大戦力であるあんたの力ならなおさら。あんたもそう思っているようだぜ?」
「……正確のご判断なのですが、ディオス卿はそれに配慮する立場ではないと思いました。ご協力感謝いたします」
よし、久しぶりに力を使おうか。
俺はラースグランデが投げた槍をつかんで微笑んだ。
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