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成立

 やっとここまで来たわね。


 私が一息ついていると,ディオスは突然意気揚々として前に出た。


「は! お前なんかアルケンノヴァの名を背負う価値がないことを満天下に知らせることができたぜ! 一ヶ月間ブルブルしろ!」


 経緯はともかく、リディアが決闘を受け入れたのが嬉しいようだった。拙劣な奴。


 でもまぁ、今くらいは我慢できる。どうせ一ヶ月後にはあの虫唾が走る顔が潰れるからね。物理的にも、精神的にも。


 私が〈選別者〉を解除すると、ディオスの取り巻きたちがやっと体を起こした。ディオスは彼らと一緒に立ち去った。


 何人か威圧感に押されて気絶してしまった取り巻きもいるけど……ひどすぎちゃったのかしら?


 リディアはディオスが立ち去った後もグズグズしながら私をちらりと見た。何か言いたいことがある様子だった。


「あの……テリアさん」


「!?」


 あのリディアが先に話しかけるなんて!?


 驚きすぎて思わず口をぽっかり開けてしまった。さっきディオスを非難する時に一度割り込んだけど、その時は状況に誘導されたことに近かったから今とはちょっと違ってたしね。


 私がそうしているとリディアは首を傾げた。しまった、これじゃない。


「はい?」


「さっき、あの……リディアが尋ねたこと……」


 さっき尋ねたこと? ……ああ。


「それは後で教えてあげますって言ったでしょ。リディアさんが私の鍛錬についてきたら話してあげますわ」


「あうぅ」


 泣きべそをかくのが可愛い! ……いや、これじゃないわよ!!


 私が内心そのような葛藤をしている間、リディアはモジモジしながらも口を開き続けた。


「そ、それじゃ……別のことを聞いても……いいですの?」


「私がお答えできることならいくらでも」


「リディアが……本当に勝てると思いますの?」


「もちろんですの」


 きっぱりと話したけど、リディアは全く信用できないという様子だった。


 それもそうよね。今まで一度もそう考えたことがなかったはずだから。ゲームでリディアのルートも、いかに劣等感を克服させて自信を回復できるかがカギだった。言い換えれば、今私はリディアのルートを進めているのだ。


 まぁ、正確に言えば、この決闘はゲームでは過去のことだけだった。実際にルートが進むのは数年後。それでもルートの核心は〝リディアがディオスを克服する〟ということであり、決闘が重要なキーワードであることは同じだ。それなら似たように進行できるだろう。


 ……こんな考えをする私が、まるでゲームの知識を持ってリディアを利用しているようで嫌悪感を覚える。


「私たちは会ったばかりですし、リディアさんが私を信じがたいということはよく知っていますの。そもそも鍛えてくれるとしても、私はリディアさんと同じ学年の生徒ですからね。でも……」


 私はリディアに近づいて慎重に彼女の手を握った。リディアはビクッと肩を震わせたけど、その手を離さなかった。


「私自身ではなく、全能の(マイティ)オステノヴァの名にかけて誓いますの。リディアさんは必ず勝ちます。リディアさんに自信がないなら、私が勝つようにしてあげます」


 リディアは目を丸くした。ここで誓いの言葉が出るとは予想しなかっただろう。


 四大公爵家がその名にかけて約束する誓いの言葉は、自分自身を越えて家柄全体の名誉をかけて必ず言ったことを成し遂げるという意思表明だ。法的な効力はないけど、誓いの言葉を守れなければ最悪、家から完全に追放されるまで重要な意味を持つ。


 いくらリディアが私を信じられなくても、家の名にかけた誓いの言葉は次元が違う問題だ。二人だけで交わした話といってもね。


「なんで……」


 リディアは何か言おうとしたけど、すぐ止めて首を横に振った。


 なぜそこまでするのかと聞きたかったのだろう。でもそれは後で言うとすでに話したから、もう一度尋ねても無駄だということはリディアも分かるだろう。


 しばらく沈黙していたリディアは、やがて頭を上げた。口は依然として不安そうに少し歪んでいたけれど、眼差しはかつてないほど強かった。


「信じて……みます。テリアさんがどんな人なのかは分かりませんけれど……誓いの言葉を無駄にする人だとは……ないと思います。だから……」


 リディアは私が握っていない手を上げ、手の甲に重ねた。まるでお互いに両手を握ったような形だった。


 少し不安そうに揺れながらも、リディアは私の目をまっすぐ見つめながら言った。


「リディアを、勝たせてください……!」


 力のこもった声に、私はそれ以上の力を込めて頷いた。


 


 ***


 


 リディアとの話が一段落した後、私は近くで待機していたトリアに向かった。


「本当に大丈夫ですか?」


「リディアさんには十分才能があるわよ。それを開花させるだけでいいの」


「そちらの話ではありません」


 トリアは手に握ったボロ……みたいになった人を持ち上げた。


「ディオス公子の方のことです。かなり強く脅されたようですが」


「そっちも私に凶器を振り回したから同じよ。そもそもそっちもオステノヴァ公爵家を相手に世論戦や情報戦を仕掛けるのは愚かなことだということくらいは分かるでしょ? その気になれば、四大公爵家の子も何も世論戦だけで社会的に葬られるからね」


 正直、私としては今トリアが持っているあのボロの方が問題だと思うけど。


 私の視線に気づいたトリアはその人をさっと投げつけた。すでに気絶したのか何の抵抗もなくばったり倒れた。まるで死体のようだったけれど、一応生きていた。


「ディオス公子の護衛のようです。お嬢様が〈選別者〉を使った頃から割り込もうとしていたようです。ディオス公子の口を握りしめた時は剣を抜きました」


 いやまぁ、状況は言わなくても分かる。私の仕事が邪魔されないように、トリアがディオスのの護衛を抑制したのだろう。


 ……しかし、数十人もの護衛をすべて打ちのめしてしまったのは問題じゃないかしら。


 周りに散らばっている人々を見て少し飽きていると、トリアがこれ見よがしに肩をすくめた。


「彼らが先に私をいきなり攻撃したから正当防衛です。念のため申し上げますが、私は自分を攻撃した人にだけ反撃しただけです。この人たちが弱すぎてこんなことになっただけです」


「まぁそれは一応後で考えるよ。それより……」


 右後ろに視線を向けると、まるでそれを待っていたかのようにロベルの姿が現れた。


「お呼びですか」


「ロベル、一ヶ月後にリディアとディオスが決闘をすることになったの。私はリディアを支持するわよ」


「はい。状況は把握しました」


「決闘の日までにディオスが持ち込む道具や接触する人について調べてほしいの。別に措置は取らなくてもいいわ。ただどんな道具を持ってきて、どんな人と接触するのか情報だけ伝えればいいわよ」


「処置がなくても大丈夫ですか?」


「必要ならその時にするわ」


 ゲームでもこの決闘でディオスは正々堂々と臨まなかった。多分今は私が介入したからもっと何か手を使うだろう。


 ただ、ディオスは特に頭が良いわけでもなく、優れた参謀を持っているわけでもない。彼がどんな道具を持ち込んだり、誰と接触するのかだけチェックすれば十分だろう。


 その他に注意すべき部分なら……。


「トリア、もしピエリや怪しい人がディオスと接触するのかチェックしてほしいわ。可能性はあまりないと思うけど、万が一のために。必ずしも怪しい人でなくても、アカデミーの外部から誰かが入ってきてディオスや今回の決闘に介入するようなら報告しなさい」


「はい。ラダス卿の方は別に人を付けなくてもいいですか?」


「大丈夫。ディオスがそちらに近づくなら注視する必要があるけど、ピエリの方が先にディオスに近づくことはないと思うわよ。それだけの名分もメリットもないんだからね」


 ゲームではディオスが安息領と接触したりもしたけれど、それは後のことだ。そして彼が安息領と接点を作ることになった契機を考えれば、まだ決闘をしてもいない今ピエリがディオスに接近する可能性はないと見ても良い。


 決闘が終わった後なら話が違うけど、それはその時になって対処してもいい。今はそっちに人材を投入する必要はない。


 今は決闘そのものに焦点を合わせないと。そもそもゲームではディオスが無理やり押し付けて決闘を成功させ、今回の決闘でリディアはディオスが準備した手段を使うこともなく瞬く間に敗北したから。


 安息領と接触する理由はないけれど、それを除いてもディオスがじっとしているはずはない。いや、むしろじっとしていればバカなことやめろってぶん殴っちゃうわよ。


 もし私の予想を超えることが起こっちゃうのなら……一次的にはトリアがそのような可能性まであらかじめ考慮して動いてくれるだろう。トリアさえも考慮できないほどのことは私が考えても無駄だ。


[イシリン、もし良い可能性が思い浮かんだら話してちょうだい]


【しょうがないわね。できるだけ考えてみるわよ】


 一応私がしなきゃならないことはリディアの自信を取り戻させてくれること。それが一番重要なことだ。それさえきちんとできれば、他のことはあまり気にする必要はない。


 では、計画を立ててみようか。

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