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突入戦

「――――!!」


 何とも言い難い咆哮が響いた。同時に巨大な魔力が急速に接近してくるのが感じられた。


「お嬢様!」


「みんな準備して! イシリン、一応エリネさんをできる限り保護してね。いざとなったら転移させること忘れないで」


 父上の『転移』を使った技術や魔道具なら早い転移が可能だけど、今回はイシリンに任せるつもりだったので魔道具を持ってこなかった。でもイシリンの転移は準備に少し時間がかかる。だからそもそも先にエリネさんを帰宅させようとしたんだけれども。


 でもこうなった以上、まずはエリネさんを守るのが最優先だ。


 決心して魔力を解放しようとしたけれど、その直前に慌てたような声が聞こえてきた。


「こいつまたどうしたんだ!?」


「クソ失敗作の野郎が! また問題だな!」


 ……あれ? バレたんじゃないのかしら?


 今のは私の感覚を魔力に拡張してキャッチした音だったので大きくはなかった。私たちに対する敵意などはなかった。そもそも私たちに気づいたような気配でもなかったし。


『失敗作がまた問題だ』って。……そういうことだね。


「アルカ、ロベル、トリア。できるだけ静かに始末しようね」


 ロベルとトリアは私の指示に黙って同意した。やっぱりもう私と同じ判断を下したようだ。アルカは目を丸くしたけれどすぐ決心した顔で頷いた。


 合図する必要はなかった。私たちは同時に完璧な呼吸で飛び出した。茂みと木に体を半分隠すように低くして魔力も抑えたまま、足にだけ魔力を集中させて。


 近づいてくる存在が誰なのかはすぐに見えた。というか、実は森の茂みと木がなかったら遠くから見えたはずの奴だった。


 巨大なバケモノだった。身長は多分二階建ての邸宅くらいだろうか。全体的な形状は人間型に近かったけれど、筋肉も骨格も歪んだヒドい形状だった。右肩に奇怪な右腕がもう一つ生えていて、顔はまるで巨大なアンパンを拳でつぶしてから牙をむやみに大量に打ち込んだような形だった。


 巨大な魔力の正体があいつだった。動きはぎこちなく硬かったけれど、茂みと木をめちゃくちゃ壊して突進する勢いが威圧的だった。


 その後ろには奴を追って走る人も二人見えた。安息領特有のマントと頭巾をかぶった典型的な姿だった。さっき不平を言っていたのがあいつらだろう。


「お嬢様、アレは?」


「私も初めて見るわ。けれど形状や魔力を見れば……多分ミッドレースオメガの失敗作なんでしょう。理性なしに暴れるのを見ればベータかしら」


 失敗作はもともと形状が一定ではない。でもめちゃくちゃな見た目と巨大な魔力だけは共通事項だ。


 奴のひどくつぶれた顔にざっと打ち込まれた二つの目玉がこっちをまっすぐ睨んでいた。そして森の向こうに私と目が合った瞬間、奴が再び奇怪な咆哮を上げた。


 どうやら奴が先に私たちの方に気づいて暴走するようだね。


「早く始末してすぐ奴らのアジトに攻め込むわ。どうせあの大きな奴を射殺した瞬間、目につくはずだから。ミッドレースの方は私が引き受ける」


 私は〈選別者〉を展開しないまま静かに宣言した。


 もう私たちの存在を隠すことができない距離に達した瞬間、私はミッドレースベータに飛びかかった。やっと安息領の男たちもこっちに気づいた。


 慌てずにすぐ戦闘態勢を取るのを見るとかなり訓練された奴らのようだね。でもアルカとロベルとトリアが早く倒すのができるレベルに過ぎなかった。いや、三人のうち一人だけ出てもすぐ終わるだろう。


 私は〈魔装作成〉で双剣を作り出した。ミッドレースベータが巨大な右腕を振り回した。私は剣でその腕を切断するつもりで一閃を放ったけれど、硬い皮膚を軽く切って攻撃を受け流すだけだった。


 硬いね。


 ――紫光技特性模写『鋭利』


〈魔装作成〉の剣を構成する魔力を『鋭利』に変え、剣自体も鋭く精製した。直後に振り回された左腕をかわすのを兼ねて奴の脇の下を通り抜けた後、背後から両ふくらはぎを深く切った。奴は足の筋肉と骨が切れて前に倒れた。


「―――!」


 奇怪な咆哮と共に、奴の足の傷が急速に再生された。いや、再生というよりは変形というか。足の肉がめちゃくちゃに膨らみ、奇怪な形を作り始めたのだ。


 もちろん待ってくれるつもりなんてないわよ。


 ――天空流〈流星撃ち〉


 倒れた背中に乗り込んで突きを放った。心臓の位置を正確に狙って。でも歪んだ身体は心臓の位置も異常なのか、突かれた部位に心臓がなかった。


 すぐに攻撃を続けようとしたけれど奴が体を回して私を落とそうとした。


 ――天空流〈三日月描き〉


 奴が体を回しながら振り回した腕を左手の剣で防ぎ、右手の剣で斬撃を放った。まだ気配を抑えるために斬撃の大きさも小さく、激しい動きのせいで照準が揺らいで首筋を少し斬るだけだった。奴は苦痛と攻撃されたこと自体への怒りでまた咆哮した。


「ふん」


 三つの腕が同時に私を狙って振り回された瞬間、両手の剣で同時に〈三日月描き〉を放った。奴の腕が全部切られた。再生しようとするかのように切り口の肉がうごめいた。


 もちろんそんな暇を与える私ではない。


 すぐ突進してあごに剣を突き刺した。奴が反応できない速度だった。そのまま脳まで一直線に掘り下げた後、魔力を注入して爆発させた。同時に奴の胸に剣を突き刺し、魔力で内部を探索した。


 ……臓器の位置や機能もめちゃくちゃだね。本当に……呆れるほど。


 ――天空流〈月光蔓延〉


 奴の身体を引き裂いた。そして『火炎』を模写した魔力で余すことなく燃やした。歪んだ形状がこれ以上この世に現れないように。


「……どうぞごゆっくりお休みください」


 戻れないバケモノになっちゃっただけの、何の罪もなくただ犠牲になっただけの被害者。私にできることは苦痛だけが残った肉体から解放させることだけだ。こんなことしかできない自分自身の無力さが嫌い。


 ……本来人間だった存在を惨殺するのに何の躊躇もない自分自身への感想は、今は無視した。

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