捜索の始まり
私はアルカとロベルとトリアだけを連れて、エリネさんと一緒に本格的に安息領のアジトを探しに出かけた。
……とはいえ基本的にはエリネさんが普段薬の材料を探しに行く場所を歩き回るだけだけれども。『バルセイ』でも正確なルートが出てきたわけじゃないし、エリネさんの『幸運』の力に頼ることだから本質的にはただ当てもなく歩き回って早く発見されることを願うだけだ。
「あの……テリア様」
「ええ、どうしたのかしら?」
エリネさんは私に話しかけた。
本来なら身分の低い者が許諾なしに先に高い者に話しかけることはできない。でもエリネさんと一緒に行動しながらそんなことを放っておくとコミュ自体がうまくいかないかもしれない。それにこんな状況じゃなくても私はそんなことが嫌いだしね。それで事前にそんな格式なんか気にしないで気楽に言ってほしいって頼んだ。
エリネさんはまだ少し距離を置いているような気がしたけれど、お互いの顔を知り合ってからはなかなか時間があったからか少し楽に私に接してくれた。
「本当に私の特性で安息領を見つけることができるんですか?」
エリネさんは不安そうだった。でもその不安の方向性は私が思っていたのとは少し違った。それを感じると思わず苦笑いが出た。
「見つけられない方がエリネさんにはいいことじゃありませんか?」
今回の目標は安息領を探すだけでなく、この場でアジトを討伐することまで含まれる。すなわち安息領を探すということはすぐ戦闘が始まるという意味だしエリネさんがその戦闘に巻き込まれるという意味でもある。戦いとは縁のない一般人にすぎないエリネさんとしては望まない状況だろう。実際、『バルセイ』のエリネさんは突然の戦いにすごく困惑し、泣きべそになっていた。
けれど……考えてみれば『バルセイ』でもエリネさんは突然安息領と戦うことになったアルカたちに嫌味を全く言わなかった。
エリネさんは胸の前に両手を合わせて震えていたけれど、私の質問には落ち着いて首を横に振った。
「でもどうせ出た以上はテリア様のお役に立ちたいですよ。私は助けてもらっただけですから」
「私の助けと言っても名前を貸して不良客を追い出す程度でしたけれど?」
「それだけでも私には大きかったですよ。そうでなくても安息領を討伐するのは良いことじゃないですか。良いことにお役に立てれば嬉しいです」
あまりにも奇特な言葉なので笑いが出た。
依然としてかすかに震えているのを見れば今も怖いはずなのに、エリネさんの足取りには迷いがなかった。私が説明してあげた『幸運』の力を信じているのか、それとも守ると言ったから私を信じてくれるのか。どちらにしても私が信頼されているということだから、私にはその信頼に応える義務がある。
そんな気持ちを込めてエリネさんの手を握った。
「ありがとう。何があってもエリネさんには迷惑をかけないようにしますわ」
よし。どうせ成功裏に仕事を終えるつもりだったけれど、もっと心機一転して臨むようにしようか。
「ロベル、トリア。周りはどう?」
「大きな反応はありません。索敵範囲が狭いのでもどかしいですね」
「私の方も特異事項はありません」
今回の目的は安息領のアジトを奇襲すること。でも奴らを探すために魔力を利用して索敵範囲を広げれば、こっちの存在がバレることもある。
特にロベルの特技は『虚像満開』で作り出した幻影が接触したことを自分の感覚で感じる独特な技術。とても有用だけど、逆に相手にバレない方が難しい能力でもある。そのため、今回はロベルの幻影を活用した捜索は私たちの近くに制限することにした。
逆にトリアは『天風』の魔力を応用して風の気配を感じることで広い範囲を探すことができるけれど、精度はロベルの幻影よりは劣る。だから今度はエリネさんの力に頼ることになるだろう。
……あまり意味はないけど、私自身も今は役に立たない。魔力を浴びせれば広域索敵は可能だけど、ロベル以上に目立つからね。
「エリネさん。変わった点などはありませんか?」
「えっと、まだですね? ここまではまだ普段通っていた所ですので」
ゲームではアルカたちが同行したおかげで普段は入らない所まで入っていた。おかげで安息領のアジトに遭遇したわけでもあるし。それでエリネさんが普段行かなかった所に入ると言ってくださいと事前に伝えておいた。でもまだその時にならないようだね。
感覚をできる限り鋭く整えて周りを監視していたけれど、このように歩くだけじゃ少し退屈だ。
「お嬢様。一つお聞きしたいことがあります」
その時、トリアが突然話しかけてきた。
こんな時にこんな風に質問を投げかけるなんて。トリアの行動としては珍しいことだね。
「何かしら?」
「ら……先日おっしゃってくださった件についてですが」
『バルセイ』のラスボスのことね。
エリネさんがいるから具体的に言えないのは分かるけど、逆にそういう状況なのにあえて聞いてみるのはそれだけ気になることがあるからなのかな。
「この前のことは不完全な状態だったので予定より弱かったとおっしゃいましたね。なら完全な状態だとどれくらいの強さなのでしょうか?」
「それぞれ少しずつ違いはあるけど、基本的に大陸一つくらいは簡単に壊せるわよ」
それをわずか数人だけで対処しなきゃならなかったゲームの状況は異常だったけれど、それをやり遂げたアルカたちもかなり規格外だったとしか言えないだろう。
……その規格外を超越するために、私も規格外を追求するしかなかったし。
トリアは静かに物思いにふけった。深刻な悩みの色ではなかった。トリアがああいう時は多分……得失とか状況とかを冷静に計算する時、だったのかしら。
長い悩みの末、彼女が言ったのは簡単な質問だった。
「『融合』の災いは具体的にどのような存在でしたか?」
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