リディアとディオス
こんなに近くで兄様を見るのは本当に久しぶりだね。
さっき遠くから初めて見た時はすぐに頭に血が上ったけれど、実際にこのように近くで話をすることになると何の感情も起こらなかった。私自身も驚いたくらい。
……これはシドのおかげだろうかしら。
『バルセイ』の情報もあるし、ケイン王子殿下の結界の反応もあるだけに、兄様から情報を得る必要がある。シドが私を制止した時素直に従ったのは彼が兄様と接点がないだけに冷静に情報を引き出させることができると思ったからだ。
でもなぜかシドは怒っていた。
彼が兄様の前で初めて口を開いた時からすぐに感じた。平静を装ってはいたけれど……いや、〝装っていた〟と表現すべきくらいだったというか。意外だったが、気分は悪くなかった。
〝ありがとう〟
シドが何のために怒ったのかは私の推測にすぎないけれど、それが本当かもしれないって思っただけでもありがたかった。そのように考えたら兄様なんかどうでもいいって思った。
でも兄様にいい言葉を使ってあげる理由はない。
「ふん。見ないうちにずいぶん図々しくなったな」
兄様は相変わらず偉そうな顔をしていた。
前はあの話し方を聞くだけでも腹が立ったんだね。でも今は何ともない……というよりも、むしろ哀れだという気さえした。
「図々しいのが誰なのかは考えてみる問題だよね、そうじゃない? みっともなく負けちゃったくせに諦められずデマをまき散らし、それさえ通じないから逃げたのがどこの誰だったっけ? そんなくせにめっちゃ図々しいよ」
「ふん、運良くちょっと勝ったくらいで大声を出すな。貴様なんかいくらでも打ちのめされるぞ」
「じゃあ今すぐやってみようかしら? 正直リディアは全然構わない」
虚言じゃない。
私は露骨に魔力を高めた。私の周りの気温があっという間に熱くなった。さすがの兄様も私の露骨なデモ行動には少し戸惑っているようだった。
まぁ、これが常識的でない行動だということは私も知っている。このような場で堂々と相手をクズと呼ぶのも、魔力を高めて脅かすのも貴族の礼儀や常識に合った行動じゃないから。私の後ろにいるシドも私を再び止めるべきか悩んでいるようだった。
でもテリアが教えてくれたんだ。どうすれば冷静に相手をバカにすることができるのか。
「なに? バックを信じて堂々としようとしたくせに、いざリディアが受け止めてあげようとしたら怖いの?」
「たわごとを……」
「バルメリア王国騎士団はいくつかの事項に関しては即決処分ができるよ。どんな場所でも」
私が突然言った言葉に兄様は反応しなかった。どういう意味なのか理解できなかったんだろう。
もちろん私は理解を待ってくれるほど慈悲深くない。そんなに甘い行動をするなら最初から口も出さなかったはずだから。
「まだアカデミーを卒業していないけれど、すでにリディアも正式に騎士の資格を取得している状態よ。だから騎士団の特例条項を行使できる。たとえば――」
私は話を続けながらシドに密かに思念通信を送った。
[今このやり取りを聞いている人全員の感情と心理状態をチェックしてちょうだい。今すぐ]
この程度ならシドも私の意図を理解するだろう。
……シドにこんな信頼を感じているっていうのはなんか妙な気分だけどね。
「安息領と結託した者を即座に制圧するとか」
話しながら兄様の首筋に向かって手を伸ばした。魔力まで込めた本気の速度だったけれど、兄様も素早く反応して私の手を跳ね返した。
しかし私の言葉は周りの雰囲気を凍りつかせるには十分だった。
王族主催の宴会に安息領と接している者が参加したという事実。しかもその対象は公爵家の息子。貴族の中にも安息領と結託した者がいるということは誰もが知っている事実だけど、それを探し出して逮捕するのは容易なことではない。まして高位貴族なら関与したと疑われるだけでも巨大なスキャンダルになる。
兄様は呆れたように眉をひそめる程度だったけれど。
「何を言っているのかと思ったら、またとんでもない強引さを主張するんだな。周りから良くしてもらって何のたわごとでも構わないと思っているのかよ?」
「たわごとなのかどうかは捕まえて調べてみるとすぐに現れるようになっているよ。いやらしいくらい邪毒の匂いがぷんぷん漂っているからね」
兄様は相変わらずしらを切っていた。
でもそれはどうでも構わない。どうせ今日の本命は兄様じゃないから。
私たちの目的はこの場にいる人々を調査して安息領の関連者を捜し出すこと。『バルセイ』の知識のおかげで安息領と結託したということを明らかに知っている兄様なんて今さら追及する価値もない。
すでに周りから気後れしたり視線を避ける者が多数見えた。ナブロン伯爵を含めて。これほど堂々と安息領について言及して騎士団の特例まで宣言した以上、安息領の関連者なら気になるしかないだろう。
兄様とのやり取りそのものを餌にするのが私の本当の目的だ。
「リディアが何の根拠もなくこんなことを言うんだと思うなら、まぁ構わないよ。そのまま破滅すればいいだけだから。そんなバカを味方に引き入れた安息領も愚かな奴らに過ぎない」
「ふふふ、なかなか偉そうだねぇ。だから逆に聞いてみよう。もちろん俺は安息領などとは何の関係もないが、たとえ関係があったとしてもこんな場所に気楽に来ると思うのかよ? それこそバカ極まりないぜ」
兄様はまるで自分をさらけ出すかのように両腕を広げた。
「いくらでもやってみろ。何も見つからないだろうからなぁ。邪毒だと? 常識が足りないんだな。安息領の奴らを討伐する仕事をしているとその程度の痕跡は当然残るぜ。そして騎士団の特例はあくまで相手が本当に安息領である場合にのみ該当するんだ。罪のない者ならその過ちはそのまま貴様のことになる。王族の宴会で暴れた罪まで合わさってさ」
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