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ギリギリのやり取り

「避けたというのは適切ではないですねぇ。そう言えばまるで怖くて遠ざけたようではないですか」


 ディオスは大したことないふりをした。


 しかし俺は彼の眼差しが鋭くなったことを逃さなかった。多分俺の言葉が少し気に入らなかっただろう。意図したことではあるけど、こんなに簡単にだまされてしまうと気が抜けるね。


 ……こんな奴がリディアをあんなに苦しめたんだ。


「不機嫌でしたらお詫び申し上げます。特に良くない意図で言ったわけではありません。普段から何も考えずにしゃべるって怒られる方なんですよ」


 俺はわざと困ったふりをして笑った。ディオスはそんな俺を見て細目をした。でもあまり深く考えたのじゃないか、すぐに表情を戻してからまた笑った。


「はは、それは大変ですね。影に潜むのが得意なハセインノヴァならそんな習慣を直すのも難しいでしょう」


 それとなく無礼な言葉を口にするね。先に挑発した俺の言うことじゃないけど、やっぱりこいつの性格は良くないようだ。


 ……もう少し突いてみたらどうだろうか。


「ですが自分の能力を証明するのが目的なら、あえて黎明騎士団を避ける必要はないんじゃないですか? 公爵であり騎士団長の御方の息子なら当然注目されるべきですが、特別待遇でも蔑視でも自分の実力で打ち破ることは可能ですからね。実際、今の騎士団長であるアルケンノヴァ公爵閣下もわざと平騎士として入団してから周りのすべての偏見を実力で黙らせ、団長の座まで就いた御方じゃないですか」


 実力に昇進して重責に就く。言葉には簡単だけど、ある意味父親の影響力がある騎士団なのでより一層〝自分の実力を完全に認められる〟ことがさらに難しくなったりもする。


 現アルケンノヴァ公爵も爵位継承紛争が激しかったと聞いた。その状況を正面突破するために選んだ方法が騎士として確固たる地位を固めることだった。さらに彼は先代騎士団長だった自分の父親に決闘を申請して倒せ、幹部としての行政能力まで立証することで爵位を継承する前にまず騎士団長の座に就いた。


 そのすべてをそのまま真似しろというのは苛酷だろう。さらに今の彼は自分の失策のせいで元の座が危うくなった。でもそのような状態だからこそ黎明騎士団で幹部の座を占めることに意味がある。


 ディオスはそれを知らないほどのバカではなかった。


「……残念ながら騎士団でもデマを信じる人が結構いましたねぇ。とんでもない言い訳で文句を言ってくる者もいるようです。余計にうるさくなるより、ひたすら自分自身の精進に努めたいんです」


「噂話にはすべてそれなりの理由があります。その理由が真実か悪意かは場合によって異なり、高位貴族は存在するだけで様々な噂と耳目を集める存在ではありますが……四大公爵家くらいの大物なら強力な理由があると思います。公爵家の一員を攻撃するほどの力があったり、そうできるほどの理由が個人にあったり」


「この状況が俺のせいだということですか?」


「ただ個人的な疑問です。噂や話を聞いただけで、実際に何がどのように起こったかはわかりませんからね」


 もちろんそれだけではないんだけど。


 俺はアカデミーに遅れて編入したけど、俺が来る前に何があったのか分からないわけではない。リディアが編入してしばらくの間、ディオスと取り巻きの奴らが何をしたのかすべて知っている。アカデミーをはじめとする重要機関には常にハセインノヴァの情報源が隠れているからだ。ハセインノヴァが知らないのは四大公爵家の内部だけだけど、それさえも決心して情報を探そうとすればいくらでも集めることができる。


 ディオスはあからさまに不愉快そうな顔をした。


「アルケンノヴァに最も大きな利益をもたらすことができる者は誰か。公爵に相応しい有能な者は誰か。価値や能力に応じて、最も適した者が公爵になるのは当然のことです。そのための適当な行為を曲解して貶める奴らが愚かなだけです」


「……適当な行為、ですか。聞くところによるといろいろなことがあったと思いますが」


「は。役に立たず無能なモノがただ幼いという理由で可愛がられていれば警戒するのは当然のことです。僕は我が家のために行動しただけです。それを低劣に非難する奴らこそ全員職位と権限を剥奪して追い出すべきです」


 ……冷静に、笑いの仮面をかぶって。俺の本音を漏らさずに奴の情報を引き出させ。


 理性はそう言っていたけど、いつの間にか俺は拳をぎゅっと握っていた。


 家のために? 本気でそんなたわごとを言うのか? 実の妹をそんなにいじめて虐待したことがそんな言葉で正当化できると思うのか?


 当初、アルケンノヴァ公爵がリディアを寵愛したのは彼女の才能をわかったためだと聞いた。そのようなくせにディオスの虐待を放置した公爵の顔も一発殴りたいところで、当事者であるディオスがあんなにたわごとをしゃべると感情が調節できなかった。こんな激情が俺の中にあるということが俺自身でも驚くほど。


 その感情をそのまま吐き出す直前、誰かが俺の後ろ髪を引っ張った。


「もういい。バカみたいに何してるの?」


 リディアだった。俺に制止されて今までじっと見守っていた彼女だったけど、俺たちのやり取りはずっと聞いていただろう。そして結局近づいてきて俺を引っ張って代わりに前に出たのだ。


 すれ違った瞬間、彼女の唇が小さく動いた。声は出しておらず動き自体も小さかったけど、何を言っているのかははっきり分かった。


〝ありがとう〟


 リディアはその一言だけを残してディオスを睨んだ。ディオスは堂々と舌打ちしたけど、態度でも優位に立ちたいかのように不快な嘲笑を見せた。


 でも口を開くのはリディアの方が早かった。


「その嫌な顔は相変わらず厚かましいね、クズ。戦いに負けた犬のように逃げてもご飯はちゃんと食べて生きているようね?」

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