受容と次
「分かりました。協力しますよ」
エリネさんは悩んだ末、そう答えた。
私は純粋に嬉しくて微笑んだ。
「いいですわ。じゃあまず早いうちにエリネさんのお宅に案内してください」
「えっ?」
エリネさんはびっくりした。
これが驚くべきことかと思って首を傾けると、エリネさんは慌てて言った。
「私の母を治療してくださるのが先ですか? テリア様のご用を先に処理するのじゃなく?」
「ああ、それでしたね。もっと急ぎの方を処理した方がいいと思っただけですの。私の用件は今日でも一ヶ月後でも大差ありませんけれど、貴方の母上様の治療は早ければ早いほどいいでしょうから」
私の浄化自体は問題ない。『浄潔世界』はたとえ百年間蓄積され変質した邪毒だとしても瞬く間に消し去ることができるから。私の特性が『浄潔世界』ということは対外的には秘密だけれど、その程度の邪毒を浄化して除去するだけなら『浄潔世界』より一段階下程度の浄化能力でも十分できる。
けれど、問題は邪毒を浄化した後のことだ。邪毒病は侵食された邪毒が残留し変質して体を壊す病気だから。浄化が遅れれば遅れるほど治療負担が大きくなる。まだ取り返しのつかないレベルじゃないから大変なことにはならないけれど、早い方が費用と時間を節約できる。
そのような内容を秘密の部分だけ除いて伝えるとエリネさんはうーむとうめき声を上げた。
まぁ、彼女の質問の本当の意味が何なのかは私も知っている。私の用件を処理する前にまず平民への補償から支払うのが意外だったのだろう。性格の悪い貴族だと自分の用件から強要した後に約束した補償を無視してしまうこともあるからね。そんな貴族でなくても普通は自分の用件を優先する。
けれど私はただの人間としてエリネさんに接しているので、もっと急ぎの方を先に処理するという合理的な決定を下しただけだ。
エリネさんも私の態度と私に対する噂からどの程度見当がついたのか、言わなくても自分で納得したかのように頷いた。
「ありがとうございます。都合のいい日にちを教えていただければ余裕を作ってみます」
「貴方が望む通り選んでもいいですわ」
「……テリア様。これまでの提案だけでも平民には十分恐縮で負担になることを理解してください」
エリネさんは苦笑いした。彼女だけでなく私の後ろで待機していたロベルとトリアが頷く気配も感じられた。その反応を見て私の方も苦笑いが出てしまった。
「分かりましたわ。ロベル、私にスケジュールがない日の中で一番早い日付はいつ?」
ロベルが確認してくれた日付を聞いたエリネさんもちょうどその日が大丈夫そうだった。すぐに約束をした。
「ありがとう。これからよろしくお願いします」
「いいえ、感謝は私の方が言うべきです! お母様を治療してくださるなんて……」
私は念のためエリネさんが負担を感じないようにと強く言ってからお店を出た。
道を歩いている間、ロベルは話しかけた。
「お嬢様。本当にあの人の特性がそんなに立派なんですか?」
「立派というにはややこしい特徴がちょっとあって曖昧だけれど……有用であることは確かよ。エリネさんに同行を頼まなきゃならないというのが難点だけどね」
「巻き込んで守ってあげられなければ意味がないですからね」
「そうね」
エリネさん自身の生存力は『幸運』が何とかしてくれる。でもそれだけを信じて彼女を放置するのはイメージ的に良くない。それに『幸運』の能力にも当然限界がある。
彼女を巻き込むということはそのような危険に陥れる可能性があるという意味だ。当然それを容認することはできない。
「お嬢様。エリネさんが同行するのはいいのですが、具体的な人数構成はどうなさいますか?」
「そうね。まぁ、私たちみんなで行く必要はないんじゃない?」
今回攻撃するのはゲームでもエリネさんのサブクエで出た所だ。ゲームではアジトの常駐戦力はかなり強い方だったけれど、今の私たちにとって脅威になるほどではない。私一人でも余裕を持って殲滅できるから。
でも敵も備えている可能性がある。いや、〝ある〟じゃなくて十中八九と見なければならないだろう。すでに安息領も『バルセイ』から出たように行動しないということも確実視されている状態だし。
でも気になる方がもう一つある。そっちを調べる人員を配置したいんだけれど。ふむ……どうしよう。
悩んでいたらトリアがため息をついた。
「まさかまたお一人で突撃なさるおつもりではないでしょう?」
「違う。もうそんなことするつもりはないわよ」
「ですが人員を他の場所に分配しようとなさるでしょう」
うぐっ。
やっぱり私のことをよく知っているわね。それに横からロベルも至当だと言うように頷いているし。
「どうせみんなでそのアジトを攻めるのはオーバーパワーなんだから。今できる他のことを一緒にしておくのもいいじゃない」
「ですが敵がどのような対応をするかわかりません。万全を期すことも必要なものです」
「やりすぎは無駄よ。今の私たちのレベルならなおさら。このような状況じゃ事案を並列に処理した方が有利でしょ」
傲慢を除いても、今の私たちの力は非常に強大だ。『年の割に』じゃなくありのまま。
多少の偏差はあるけれど、少なくとも騎士団の百夫長に近いレベルだ。しかもすでに百夫長のレベルさえ超えた人もいる。『バルセイ』ではこの時点で十夫長と似たレベルだったから今私たちがどれほど有利な高地にいるかは言うまでもない。
そしてその中でも私とジェリアは別格だ。
〈五行陣〉に到達した今の私はピエリと一騎打ちをしても負けない。勝利に自信はないけれど、少なくとも勝算を占うほどにはなった。そしてラスボス化の影響で〈冬天世界〉と『冬天覇剣』を覚醒したジェリアも私と似たレベルだ。
率直に言って私自身も驚愕したほど、今の私とジェリアはバケモノだ。そんな私たちが一つの目標にどっと押し寄せるのは浪費そのものだ。
トリアもそれを知っているので、私の言葉に積極的に反論できずため息をついた。
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