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テリアの提案

 もちろんエリネさんの特性も万能ではない。例えばエリネさんが一人で安息領の真ん中に飛び込んだりすれば『幸運』も彼女を守ることはできない。


 しかし『幸運』の真価は自分が望むことが叶うように周辺のいろいろなことを制御すること。似たような目標を持って一緒に行動する者がいれば、その者にも同じ力が作用する。非常に限定的で思い通りに制御することはできないけれど、うまく活用すればものすごい効果を発揮する現実操作に近い力だ。


 ……もちろん望む〝結果〟を出すだけで、過程まで好きなようにコントロールすることはできないからたまにすごく困る時もあるけれど。


『バルセイ』でエリネさんの力で安息領のアジトを発見したのも実は『痛くなく平和に暮らしたい』という願いが不思議に作用した結果だった。主人公たちと一緒に行動する=今なら平和を乱す者たちを討伐できる=だから今発見して一網打尽しよう! という奇跡の論理だった。


 でもその仕組みを知っていれば、完璧じゃなくてもある程度予想はできる。


「そのアジトを探す時、エリネさんに手伝ってもらえればいいなって思いまして。今回だけじゃなく、今後も似たようなことがあれば協力をお願いするかもしれません。その代わり、貴方の母上様の病気を治しますわ。今まで通り薬で症状を抑えて延命するのじゃなく完治を」


「か、完治……お母様の病気が何なのかご存知ですか?」


「むしろ私が聞きたいですわね。エリネさんは母上様の病状についてどれくらい知っているのかしら?」


 エリネさんは少しどもりながら必死に説明した。私はじっくりと最後まで聞いてから確信した。やっぱりエリネさんもちゃんと知ってるわけじゃないんだなって。


 エリネさんの母親の病気は邪毒病だ。過去にある事件に巻き込まれて邪毒に浸食され、それを治療できず悪化したのだ。リディアのメイドであるネスティに似たケースというか。


 厳密に言えば最初のスタートはネスティより微弱だった。けれど治療の時期を逃したまま長い年月が経って悪化したのが原因だ。


 私はそれを説明した後、エリネさんを安心させるために微笑んだ。


「貴方の母上様くらいの病状なら、かなり高位の浄化能力者が必要ですの。すでに身体に定着して変質した邪毒を消すのは曖昧な浄化能力じゃ不可能なんですわよ。それに、邪毒をなくしたとしても壊れた体の状態は戻ってきませんので追加の治療が必要ですの」


「……少しですが知っていました。それで完治は諦めていました」


 長い間変質した邪毒を完全に消してくれるほどの浄化能力者は非常に高い。治療を受けるには男爵級ほどの貴族でさえ家が大変になってしまうほど。平凡な平民に過ぎないエリネさんがそんなお金を用意できるはずがない。


 せめて『幸運』の力で無償で治療してくれるほどお人好しの浄化能力者に会うことができたら良かったはずだけれど、そのような浄化能力者には会うことさえ容易じゃない。どんなに『幸運』であっても世界全体を動かすわけじゃないから。


 だからこそ、私が手伝うことができる。


「今まで言ったことがありませんけれど、私の特性は浄化能力ですわ。いくら長く定着して変質した邪毒でも完全に消せるほどの。死なないほどの邪毒病ならどんなに古く悪化しても私の力ですべて消すことができますわよ」


「……!」


「その後の治療は私にできる領域じゃありませんけれど……費用と人を支援するのは簡単なことですの」


 何の代価もなくこのような支援をすることは良くない影響を及ぼしかねない。でも正当な助けを借りて提供する代価なら大丈夫よ。


 エリネさんは少しためらっているようだった。


「本当にそうしていただけるとありがたいことですけど……どうしてそこまでしてくださるんですか? ただの平民が耐えるにはとても大きすぎる助けです」


「少し申し訳ありませんけれど、公爵家の立場から見れば大したことない助けですわ。私が直接浄化してあげるのなら浄化能力者を斡旋する費用もかかりませんし」


「公爵令嬢が直接手伝ってくださった方がお金より大変じゃないですか?」


「……それは否定できませんわね」


 思わず苦笑いが出てしまった。


「危険手当って思ってくださいね。守ってあげる自信はありますけれど、とにかくテロ集団と戦うことになることに同行をお願いするのだから。それに先程も言った通り、次にまた助けをお願いするかもしれません。それまで含めた補償だと思ってください」


 実は今度また同行をお願いしたら、その時はまたその時の恩返しをするつもりだけれども。


 エリネさんの表情はいっそう落ち着いた。公爵令嬢が無条件に助けてくれるよりは、むしろ正当な条件で取引をした方が安心できるだろう。正当かどうか判断する知識はないだろうけれども。


 おそらく不安がないわけじゃないはず。安息領のアジト位置だけを探す程度なら大丈夫だけど、その場ですぐ衝突が起こったら本当に保護されるか確信がないはずだから。私は彼女が無事であることを知っているけれど、エリネさん自身はむしろ確信がないだろう。


『バルセイ』ではサブクエが失敗してもエリネさんの『幸運』のおかげで全員生還する。その上、ストーリーの進みと共にあらゆる悲劇が王国を荒らしてもエリネさんは屈せず生き残った。


 ……『バルセイ』をただのゲームだと思ってプレーしていた前世の私は、商店NPCを生かしておくための便利な設定だと思っただけだったけれども。


 それでも公爵令嬢が直接提案する以上、大きな危険はないと考えられるだろう。私を守るために公爵家もじっとしているはずはないし、エリネさんの『幸運』ならその庇護の中に隠れて一緒に生き残ることぐらいは容易だ。正確にはそのように保護してくれそうな人に会わせてくれることからが『幸運』の力だ。


 そう考えるとエリネさんに初めて会ったことからが『幸運』の影響かも。エリネさんは母親の完治を望んでいるし、こうしてまた私に会って提案を受けることまでが『幸運』の力かもしれない。


 まぁ、真実がどうなのかは私も知らないけどね。

読んでくださってありがとうございます!

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