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久しぶりの出会い

 大げさだわね。


 半分本気でそう思ったけれど、一方では理解できない立場でもなかったので思わず苦笑いが出た。


 今私がいる所は繁華街の平凡なお店だ。エリネさんと会うために今彼女が働いているお店を訪れた。同行はロベルとトリアだけ。


 それなりにお金持ちや貴族の相手が慣れているお店だとしても、四大公爵家の令嬢がこのように直接訪れるというのは大事件だ。しかもここは私が我が家の名前で直接庇護するお店の一つだからなおさらだ。


 今私が座っている場所もお店の中じゃない。本来なら職員しか入れない裏の別室だ。


「お待たせして申し訳ありません」


 背の高い中年男性が部屋に入ってきた。かなり自然な態度だったけれど、緊張した様子を完全に隠すことはできなかった。このお店の店長さんだ。


「エリネを連れてきました」


「ありがとうございます。ちょっと私たちだけで話させてくれませんか?」


 店長さんは丁寧に頭を下げた後、部屋から出た。


 ここはそれなりに高級レストランだ。アカデミーに在学中の貴族生徒たちをよく客として接待してきた場所であり、私が何度か訪問したこともある。なので私の突然の連絡にも慌てなかった。


 けれども、今ここで働いているエリネさんと個人的に話したいと伝えた時は店長さんも戸惑った。公爵令嬢がそのように平民をお名指ししたこと自体が珍しいことだから。


 ……まぁ、実は大したことないけれども。ただエリネさんと話す時、プライベートな場所を用意したかっただけで。


「おはようございます、テリア様」


 エリネさんが入ってきた。彼女は店長さんよりも緊張していたけれど、初めて会った時よりは余裕があった。王都に上京したばかりの時とは違って、今は多くの人に会った経験があるからだろう。


「お久しぶりですわ。お元気でしたか?」


「テリア様のおかげさまで平穏に過ごしました」


 エリネさんは優しく微笑んだ。


 前よりは確実に余裕ができたようでよかった。まだ初めて会った時のような状態だったらいろいろ面倒だったはずだから。


「座ってくださいね。今日の用件については事前に簡単に伝えましたから知ってますよね?」


「はい。私の助けを受けると聞きました」


 私はできるだけ穏やかに見えるように笑ったけれど、エリネさんはさらに緊張した様子だった。


 まぁしょうがない。公爵令嬢がいきなり助けを求めると言ったら、どういうことなのか不安だろう。私に対するイメージが良くなるように努力はしたけれど、身分の壁が大きすぎるから。


 けれど、これからのためにはその壁を壊す必要がある。


「難しいことじゃありませんよ。そしてもちろん補償もありますの」


「補償……ですか?」


「ええ。エリネさんの母上様のことなんですけど」


 その言葉を口にした瞬間エリネさんの肩が上下した。


 ゲームでのエリネさんのサブクエは母親のための薬の材料を手に入れること。そのサブクエが出るのはまだ先のことだけれど、原因であるエリネさんの母親の病気は数年前からあった。


 そもそもエリネさんはサブクエを依頼する前から材料を直接手に入れた。エリネさんがいろんなお店を転々としながら必死に働くのも母親の薬代のためだし、お金が足りないたびに直接薬の材料を手に入れた。


 ゲームでは安息領の暗躍や魔物の急増などで一人で出るのが危険になり、サブクエを依頼することになった。今はそんな状況じゃないけれど、接点を作る言い訳はある。


「たまに母上様の薬の材料を採集しに行きますわね? そのことと関連したものですわよ。お願いと補償、両方とも」


「両方ともお母様に関係してるんですか?」


 エリネさんは首を傾けた。


 補償ならともかく、私のお願いまで関わっているというのは意外だっただろう。補償だけだったら我が家の力で薬を提供するとか、もっと効果のある新薬を研究してあげるとか……どっちにしてもオステノヴァ公爵家の評判に相応しい何かが期待できるはずだけれど、お願いのことは見当がつかないだろうから。


「正確には私のお願いは貴方が薬の材料を探しに行く場所についてですわ。今度そこに行く時、私も同行してもいいのかしら?」


「はいっ? テリア様がいらっしゃるんですか? あの、えっと……失礼でなければ……」


「こんな個人的な場では気楽に話してくださってもいいですわ。ひどすぎる格式の方が私には不便なんですわよ」


「……どうしてテリア様がわざわざいらっしゃるんですか?」


 私は襟を指先でそっとつかんで見せびらかした。この瞬間のためにわざと公爵令嬢らしい服じゃなくアカデミー騎士科の制服を着た。


「エリネさんがどこで薬の材料を採集するかは知っていますの。別の件でその地域を調べていたら近くに安息領のアジトがある可能性が発見されたんですわよ」


「あ、安息領ですか!?」


 エリネさんの顔色は青ざめた。


 まぁ当然の反応だろう。自分がよく行っていた場所が実はテロリストの巣窟の隣だったと言われたらね。


 私はエリネさんを安心させるために急いで付け加えた。


「まだ活発に利用されている所じゃないと思いますわ。けれど完全に捨てられた所でもないですの。オステノヴァ公爵家としても、そして将来の騎士を目指す騎士科の生徒としても放っておくわけにはいかないんですの」


「そうですか。テリア様が行かれる理由は理解できました。ですけど私がお手伝いできることがないようです」


「実はエリネさんの特性が何なのか知っていますわよ」


 エリネさんは緊張したかのように唾を呑んだ。


 エリネさんの『幸運』は活用によっては莫大な利益を得られる特性だ。でもそのため、その力を狙って接近する人も多い。エリネさんもそのような人々に何度か苦しめられた後は、自分の特性をできるだけ隠している。


 皮肉なことにエリネさんがこれまで大きな問題なく平和に生きてこられたのも、安息領のアジトが近くにある場所を出入りしながらも無事に帰ってきたのもその『幸運』のおかげだけれども。


 でもそんな彼女さえもまだ自分自身の力を完全に理解していない。

読んでくださってありがとうございます!

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