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【とにかく勘が鋭い奴だね。おかげで私だけもっと面倒になった】


 奴はしばらく扉の方を見た。恨む視線でも送るのだろうか。ちゃんと見えないけど。


「セリカ先輩が何を感じたのか気になるわね。邪毒神の貴方にもまともな感情というのがあるみたいだね?」


【疑いがかなりなくなったみたいだね? それでもいい?】


「一応内容を聞いてみないと疑われないわよ。だから話してみて」


【……チッ】


 私は奴の言うことをじっと待っていた。


 正直、今になっては話をしてもしなくても構わないという気持ちが強くなった。一度気が抜けてしまったこともあるし、セリカ先輩に直接聞いてみる方法もあるから。セリカ先輩が感じたことが真実なのか、彼女が嘘をつくのかは別問題として。


『隠された島の主人』は私の考えに気づいたような様子でため息をついた。


【いいよ、言ってあげる。それを信じるか信じないかは貴方の問題だけど】


 セリカ先輩という次善策がある以上、奴が一人で隠すだけでも意味がない。むしろ訳もなく変な誤解や不一致が生じれば本末転倒だろう。


【まぁ、言ったって貴方も一度は聞いた話だろうけど。地球で織部カリンと話をしたんだって?】


「貴方がカリンお姉ちゃんだったってことでしょ?」


【正確には昔の私よ。あの時の私と今の私は違うんだ。……いろいろな意味でね】


 奴はそう言ったけれど、その〝いろいろな意味〟が何なのかは言わなかった。私としては気になるけれど。


【とにかくあの時の私が幸せになってとか言ったんだよね? その気持ちが私の目的だと思ってもいい。私が望むのは貴方が〝正当な幸せ〟を享受すること。それだけよ】


「〝正当な幸せ〟って何を意味するのかは分からないけど、一応それはともかく。私を幸せにすることと今までやってきたことが何の関係があるの?」


【貴方は一人では幸せになれない人だから】


 その瞬間、鋭い眼差しが私を貫いたような気がした。


 決して敵対的な感じではなかった。けれど責められているような気がした。まるで過ちを犯した時、親に怒られるようだというか。


 けれど『隠された島の主人』は母上とは違う。それだけは確実に感じられる。


【今の貴方とは何の関係もない『バルセイ』の悲劇にも責任を感じ、それを誰よりも先頭に立って解決しようとするでしょ。そんな貴方を一人で鳥かごに隔離させて元気に過ごせと言っても幸せになるはずがない。むしろ鳥かごを壊して飛び出してでも事件に向かって突進する奴だから】


 否定はできないわね。今までそんな風に生きてきたから。けれど、それは私がそんな人だから『バルセイ』の事件を解決するのに役立てようとしたという意味だと思う。


 一理ある。私を一人で事件から隔離させても幸せになるはずがないし、放っておけばあらゆる事件に飛び込んで苦労するだろう。だからその苦労を少しでも減らせる選択肢を取る。それなりに合理的な結論と行動だね。


 それをもう少し冷静な観点から見れば、今回のことも納得できる。ジェリアが暴走しなければ私とジェリアが心を痛めることはないだろう。けれどジェリアが暴走してから浄化されれば、急激に強くなった彼女は今後私の強力な助けになる。たとえ失敗してジェリアが死んでも奴の立場では私が悲しむということ以外には問題がない。


 けれど、そのすべてをむやみに肯定するには一つの問題がある。一番根本的な問題が。


「どうして邪毒神である貴方が私のことをそこまで考えてくれるの?」


 カリンお姉ちゃんの時も感じたし、今も私の頭を満たす疑問はそれだった。


 結局奴は邪毒神だ。この世の存在じゃなく、人間ですらない存在。邪毒神の力の大きさや地位は個人差が激しいけれど、神という存在はそれ自体で世界一つくらいは粉砕することができる強大な存在だ。……というのが『バルセイ』の設定で、この世界の学者たちも同じように語っている。


 そんな存在がたった一人の人間であるだけの私をどうしてそこまで気にしているのか分からない。


【……それは言えない】


 長い沈黙の末に奴が出した答えはそれだけだった。私はため息をついたけれど、特に失望はしなかった。すでに予想していたから。


 しかしその時、今までずっとじっとしていたアルカが口を開いた。


「私も一つ聞いてもいいですか」


「アルカ?」


【質問するのは構わないけど、明確な答えができるとは断言できないよ】


「それは構いません」


 何だろう。この子の質問が予想できない。


 それでもアルカの観点からアプローチすれば何か違う答えが出るかもしれない。それを期待したのでアルカを止めなかった。


 けれど、アルカの質問は予想外だった。


「以前、私が初めてお姉様と本気の模擬戦をしたとき。その時、貴方は私の内面世界に乱入しましたよね。後でお姉様が教えてくれました。そこは私の内面であり、私の力の根源だと。他者が介入できず、私の力を制御できる人は私だけだと。ところが貴方はそこに乱入して私の力を勝手に制御することさえしました。どうしてそんなことができたんですか?」


【人間に不可能なことだからといって、神にも不可能だと考えないで。その考え方を早く捨てられなければいつか災いに遭うことになるよ。この世界に関心を寄せている邪毒神は私だけじゃないから】


「貴方は私の力を理解し、アドバイスまでしてくれました。それも神なら誰でもできるということですか?」


【さぁね、他の神にもできることなのかは私も知らないよ。でも私にはできる。私にはそれで十分だったし】


「なぜその時私に介入したんですか?」


『隠された島の主人』はその部分で口をつぐんだ。


 顔がアルカの方を向いているから、彼女を見ているんだろう。でも眼差しも顔も見えないので、何を考えているのか見当がつかない。今まではなんとなく感情の気配のようなものが感じられたけれど、今はそれさえも感じられなかった。


 でも私やアルカが催促する前に、奴自ら口を再び動かした。


【最も簡単で確実に介入の成果を出せるのが貴方だったから】

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