遅々として進まない問答
【邪毒神が人間一人にそんなに献身的だと思う?】
「カリンお姉ちゃんが私に献身的だったと貴方に言ったことはないと思うけど?」
【貴方の前世についてはもう知っているよ。誰とどんな関係を結んだのかも全部】
一応言い逃れか。予想していたことなので驚かなかったけど、少しイライラするわね。
けれど私の表情を見て心境の変化が生じたのか、それとも私が分身を地球に送ったということを知った時にすでに決めていたのか。奴はため息をついてからまた言った。
【私が織部カリンなのかって聞いたよね。答えは……まぁ、半分というか】
「どういう意味?」
【そもそも織部カリンという人間は存在しないよ】
考え方によってはまるで前世の私が病人として見た幻覚だったと受け止めることもできる言葉だった。けれど、その言葉の真意がそんなものじゃないということくらいは私も知っている。そもそも〝半分〟と言った直後にあんな風に言った時点で単純な否定や言い逃れにはならないから。
「カリンお姉ちゃんは貴方の分身に過ぎなかったということ?」
【貴方がそれを信じられるならね】
「嘘なら問答自体が意味がないから一応事実だとして言うわよ。その時、カリンお姉ちゃんとの〈三問の円卓〉ですごく気になる部分があったんだけど」
三つの質問のうち、最も不明確で気になったこと。その後考えてみても答えを出せなかったのはやっぱり一つだけだった。
「貴方にとって私は〝テリア〟なの? それとも〝神崎ミヤコ〟なの?」
前世の私への態度が本気だったら。今の私を注視する行動が本気なら。奴が私を誰だと思っているのか確認しなくちゃ。
地球に行く前は奴が私を〝神崎ミヤコの転生者〟と見なしていると思っていた。でも地球でカリンお姉ちゃんと話した後、確信がなくなっちゃった。あの時カリンお姉ちゃんが前世の私のことを考えてくれた姿が嘘だったようじゃなかったけれど、それだけ〝テリア〟を考えてくれる姿も真剣だったから。
……実は見当がつくところが一つぐらいはある。でもそれはあまりにも憶測だ。それが本当に憶測として終わるかどうかを判断するためにも、今の質問に対する明確な答えが必要だ。奴の直接的な答えであれ、私が答えを類推できるヒントであれ。
【さぁね。どちらにしても意味はないよ】
「意味があるかどうかは私が判断するわ」
【そういう意味じゃない。答えても聞けないということよ】
「また世界のこと? 貴方が私を誰だと思っているかがそんなに重要な秘密なの?」
【世界のバカな行動はそんな基準での動作じゃないよ。そんな分かりやすい基準だったらむしろ迂回するのも楽だったはずだけどね】
『隠された島の主人』がため息をついた。露骨にイライラが感じられるため息だった。これは本気だと思う。
結局明確な答えは得られなかったけれど、得たものが何もないわけじゃなかった。
世界が情報を遮断することが具体的に何のために発生する現象なのかは分からない。でも奴が私を誰だと見なすかがそんなに重要な情報とは思えない。
それでもそれを世界が遮断するということは私が思ったより重要なことがその中にあるかもしれないという意味だろう。それが私の憶測の根拠になれるかどうかは分からないけれども。
まぁいいわ。どうせその答えだけでもある程度考えられるヒントは得たから。
「貴方はなんで私を助けるの? 助けようとしているのは本当?」
【その質問にはもう答えたと思うけど?】
「そんな返事でごまかせると思う?」
【それができなくても貴方に何ができる? そして言っても信じないくせに】
「一応言って。決定は私のことだから」
【私は無意味なことで時間を無駄にするのが嫌い】
「貴方の意図が理解できなければこれから貴方を信じてあげられないわよ」
奴が私の周りの人たちに啓示夢を見せたり、私に直接話しかけた時はどんな形であれ私を助けようとした。結果として現れた以上、それを否定することはできない。今回はジェリアのことがあったけれど、暴走したジェリアを私が浄化できれば彼女が強くなってこれからの仕事が楽になること自体は事実だった。実際にそうなったし。
けれど、奴の行動には私や周辺の人の行動を促すことが多かった。私たちが、あるいは少なくとも私が奴を信じられなくなれば、それだけでも奴の行動が意味がなくなることもある。
それを知らない奴じゃないと思ったけれど、奴の返事は頑固だった。
【どうせ貴方が私を信じようが信じまいが関係ないよ。そこまで考慮して動き方なんていくらでもあるから】
奴の態度は頑固だった。
そろそろイライラする。奴の言う通りに私の判断と反応と関係のない行動を取ることは可能だけど、それを私が受け入れるかのは別の問題なのに。最悪、私の行動と衝突して良くない結果になるかもしれない。
私が諦めるべきかしら? どうせ奴の言うことを全部信じるわけにはいかない。私が納得できる答えが出ても出なくても、ある程度聞き分けることは必要だ。それならあえて返事を強要する必要はないかもしれない。私の方が気をつけなければならないのは同じだから。
問答がここまでになったのは考えてみればジェリアの件のせいだけど、そもそも私は奴の指示通りに動く人形じゃない。むしろ私が主導していた計画に奴が勝手に割り込んだ立場に過ぎない。これからもその関係は変わらないだろうし。こんな悩み自体が時間の無駄かもしれない。
そう一人で悩んでいると、『隠された島の主人』がため息をついた。
【それがそんなに悩むこと? どうせ今までも私が貴方たちにしたことのほとんどは、なくても大きな差はなかったはずでしょ。今回のことだけでも、私が何も言わなかったら貴方たちは何も知らないまま同じ結果を迎えたはずよ】
それは事実だけど、そう言うと逆になぜその程度の行動ばかりするのか聞いてみたくなるのだけど。
けれど、それを口にする前に先に割り込む存在があった。
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