『隠された島の主人』の意図
みんなとの話を終えて数日後。私は『隠された島の主人』の分身体がいる場所を訪れた。同行は私の使用人であるロベルとトリア以外はアルカとジェリアだけ。イシリンも竜人の姿で顕現した状態だ。
【そっちから訪ねてくるなんてどうしたの?】
『隠された島の主人』は軽快に手を振った。まるで久しぶりに会う友達のような軽さだった。奴特有のシルエットのような真っ黒な外見でなかったら思わず手振りを返したかもしれない。
でも今私は親しくしてあげる気分じゃない。
「言いたいことがあって訪ねてきたの」
【ふーん。マルコ、出てて】
奴は私たちを案内してくれたマルコを手を振って追い出した。……それなりの幹部だろうに、ただ案内役の部下みたいな扱いを受けているわね。
奴が手をみんなるとうちの人数分の椅子が現れた。
【それで、何が言いたいの?】
私たちが皆座るやいなや、奴が先に話しかけてきた。表情は見えないけれど、なんとなく笑っているような気がした。喜びではなく、嘲笑に近い。
「私が何のために来たのかもう分かっているような気がするわね」
【まぁ予想はしているよ。それでも直接聞くまでは確実じゃないよ】
「ジェリアに言ったことについて話したくてね」
『隠された島の主人』はジェリアに警告した。呪われた森に行くなって。曖昧な言葉だけだったけれど、安息領がジェリアを暴走させることをすでに知っていたのだろう。
言葉の内容が曖昧だったのは構わない。こいつはいつも世界の干渉とか何かのせいで詳しいことは言えないという態度を堅持してきたから。今更指摘するほどのことではない。
問題はジェリアが森に同行することを確実に防ごうとしなかったという点だ。
もしジェリアが森に行くのを防ぐことだけが目的なら、もっと確実に警告することができただろう。でも奴はジェリアを強硬に阻止するどころか、克服すれば強くなれると話した。力を切望していた当時のジェリアにそんなことを言っちゃったらどうなるかはあえて言うまでもないだろう。
実際、ジェリアは結局私に奴の言葉を全部伝えなかった。もちろん一番大きな過ちは彼女の言うことをまともに聞かず問題ないと油断した私にある。けれど『隠された島の主人』の態度がもう少し強硬で積極的だったらジェリアも私を再び説得しようとしたかもしれない。
そんな話を要約して言うと奴は肩をすくめた。
【警告したかったのは事実よ。直接戦ってみて分かると思うけど、手ごわい相手だったはずだから。死ぬ確率が高かっただろうし】
「でもそれだけじゃなかったわね?」
【なに? どうせ私を完全に信じなかったでしょ?】
もちろんそうだけど、今後のためにも必ず把握しなきゃならない。奴が本当に望んでいることが何なのかを。
今まではそれでも奴が私たちに害を及ぼしたことがなかった。今回のことも厳密に言えば私たちを傷つけようとしたものじゃなかったかもしれない。でも邪毒神の本当の問題は意図がいいかないかではない。
邪毒神は考え方が人間の基準とはかけ離れている場合が多い。甚だしくはそれなりの善意が人間には全く異なる結果をもたらすこともありうる。意図自体が邪悪な場合がほとんどだけど、自分だけの正義が人類に災いをもたらすこともありうる。
『隠された島の主人』の干渉はこれまで良くも悪くも無難だった。人間的だと言ってもいいほどだった。だからこそ私も少し奴の意図を疑わなくなったという自覚はある。
今回、奴がジェリアを積極的に防げなかった理由。最も無難な可能性はジェリアが強くなることを狙うことだろう。まさに今のように。けれど本当にそれが正しいのか、他の意図はないのかを確認しないと。
『隠された島の主人』は小さく鼻を鳴らした。
【まぁ、一応事件が起きないといいなと思ったのは本気よ。危ないのは事実だから。でも事件を克服できれば、これからがはるかに容易になると思った】
「だからわざわざジェリアの暴走を誘導したってこと?」
【正確にはどっちでも構わないと思っただけよ】
「ひょっとしたらジェリアが死んだかもしれないわよ。いや、死ぬ確率が圧倒的に高かったの。私が少しだけミスしたらジェリアを救えなかったでしょ。私も死んだかもしれないし」
私自身が死ぬのはどうでも構わない。けれどジェリアがその格好で死んじゃうのを防げなかったら、死んでも目を閉じることができなかっただろう。
でも『隠された島の主人』は大したことないように答えた。
【貴方が死ぬことくらいは防げたはずよ。カラオーネ砂漠に私の信奉者を何人か潜入させておいたからね。貴方たちが戦っている間、他の所で私を召喚する儀式を行っていた】
「貴方の力でジェリアを救える?」
【全部助けてあげるとは言ってないよ】
「……は?」
【私が貴方を注視しているということは貴方も知っているはずだけど】
それは知っている。
私の周りの人たちに啓示夢を見せたり、信奉者たちを動かしたり。私の周りでのそのような行動はすべて私と関係があった。そして奴の過去と推定されるカリンお姉ちゃんは私のために行動すると言った。
そんな行動がどこまで本気なのかは分からない。でも結果的に私には大きく役立った。ジェフィスが生き残るのにも大きな役割を果たしたし。
【そもそも私はこの世界が好きじゃない。強いて言えば大嫌いな方よ。私の目的と関係がなかったらこんな世界なんか滅亡しても構わないよ】
「じゃあどうして私を助けたの?」
【さぁね。どうしてかな? とにかく私は貴方以外の存在がどうであれ構わないよ。ただ死んじゃえば貴方が悲しむから助けただけよ。そして失敗したとしても私には残念なことはない。世界の時間を戻してやり直せばいいんだから】
そういえば『隠された島の主人』は時間を戻す権能を持っているという推測があった。
私が眼差しが鋭くなったことを自覚した瞬間、『隠された島の主人』が再び鼻で笑った。
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