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堕落と悪党

「私がもう少し早く死んであげたら貴方もそこまで転落しなかったかも」


 わざと冗談のように軽く言ってみたけれど、誰も笑ってくれなかった。笑ってあげられない話だと自覚していたけれども。


 その中でも当事者であるトリアの表情はひどかった。


「お嬢様、もしかして……ラスボスのことをおっしゃらなかったのは私のせいでしたか?」


「正確には貴方とジェリアのせいだったわ。他のラスボスのことを話しながら二人だけ言わなきゃおかしいじゃない」


 実際、トリアはジェリア以上に実現可能性のないラスボスだった。今の彼女は私を憎むことも、安息領に加入することもしないから。しかも彼女のラスボス化は安息領の計画すらなかった。憎しみに狂ってしまった彼女の独断的な暴走だった。


 でも実現可能性がないという言葉だけでは納得してくれなかっただろう。なので私は最初からラスボスのこと自体を曖昧に飛ばしてしまう方を選んだ。今考えてみれば本当にバカみたいな判断だったけれども。


 トリアはうつむいて歯を食いしばった。彼女の拳がぶる震えた。


 私はトリアに近づき、彼女の手を両手で包んだ。


「ゲームの貴方が私を殺そうとしたのは理由があった行動だったの。そして今この現実とは何の関係もないでしょ。だから気にしないで」


「ですがお嬢様。私のせいでお嬢様は……」


「……トリア。私にこの話を率直に打ち明けたことを後悔させないでちょうだい」


 トリアの肩が上下に跳ねた。でも彼女の表情は依然として納得とは程遠いものだった。


 心情は理解できる。私もゲームの悲劇を……私自身が犯した数多くの過ちを強く感じているから。それが現実じゃないことを知りながらも、その心をまだ捨てられずにいる。


 まして今のトリアは私を大切にしてくれる人たちの一人。たとえ現実の話じゃないとしても、私を殺そうとしたしそれが私の堕落の引き金を引いたってことを聞けば当然動揺するだろう。


 でも私の言葉の意味を理解したかのように、彼女は一度じっと目を閉じて頷いた。


「かしこまりました。お嬢様がそうおっしゃってくださるのなら。……ですが誓って今の私はそんなことをしません」


「知ってるわよ。貴方も私の大切な人なんだから。そして貴方も私のことをそう思ってくれていることも理解しているわ」


 幸い、重い話はこれで終わりだ。いや、正確にはもう一つ残っている。でもそれは少なくともラスボスが私たちの中にいるという話じゃないからいい。


「残ったのは二人だね。一人はピエリよ」


「それは特に驚かないですね」


 アルカがそう言うとみんな頷いた。私はその反応に苦笑いしてしまった。


「後に安息領はミッドレースオメガに覚醒できるカプセルを作るわ。ピエリはそれを食べた後に自分の『倍化』でオメガ化のカプセルの力と自分自身の適応力などを全部増幅してハイレースオメガになるの」


 ハイレースシリーズの中でも唯一無二のオメガ成功作。それがラスボスピエリだった。いざ実験が成功したのじゃなく彼自身の『倍化』を利用した便法だったけれども。


 ピエリについてはやっぱり大きな反響はなかった。それさえも彼が単純な悪役や中ボスの範疇を越えたラスボスにまでなったことに少し驚いた程度。それも聞いてみるともっともらしいという納得の方が強かった。


 そして最後のラスボスだけど……私はリディアに視線を向けた。


「最後のラスボスはディオスよ」


 ディオス・マスター・アルケンノヴァ。リディアの兄であり、彼女を長い間迫害した主犯。


 この現実では私が前に出たので彼を早く打倒することができたけれど、お互いに積もった恨みは侮れない。六年前の決闘以後、仲が良くなるどころか憎悪の領域に入ったほど。ディオスの方は逆キレだけど。


 今でもリディアは私の言うことを聞くやいなや鼻で笑った。


「は、本当に救いようのない人間のクズだとは知っていたけれど、それほどだとは思わなかったね。リディアに家の恥とかってタワゴト言ったくせに自分が恥になったじゃない」


「でも……ディオス様は先日まで生徒だったじゃないですか。救える方法が本当にないんですか?」


 アルカは少し悲しそうな顔で言った。


 アルカも十年前のディオスの乱暴とリディアに犯したことで彼のことを本当に嫌っているのに、ラスボスになるというから同情するようだ。やっぱり優しい子ね。


 私は全然同情しないけど。むしろ目の前に彼がいるなら、私の手で切り倒しても平気な自信がある。昔から私は人間だとしても悪い奴らを殴り倒すことに全く抵抗がなかったし。


「百パーセントとは言えないけど、『バルセイ』の内容だけ見ればできなかったわよ。彼は結局自分の欲と利己心のために没落したしそれを自ら直そうとする気持ちもなかったから。チャンスも何度もあったけど自分で捨てて破滅に進んだだけよ」


「あのクソ野郎、今どこにいるか知ってる?」


 リディアは尋ねたけれど私は首を振った。


 ディオスはアカデミーに在学中でも、時間が経つにつれて次第に少しづつ行方をくらましていた。今は卒業してアカデミーを離れ、事実上行方不明になっている。アルケンノヴァ公爵家も長男の行方を探そうとあらゆる方法を動員しているけど結局失敗した。


 私もバカじゃないので人を使って彼を監視し続けていた。アカデミーにいた時は彼がどこへ行ったのかもほとんど把握していた。でも彼は卒業してから私の監視網さえ抜け出して行方不明になってしまった。


 結論だけ言えば彼は自分より優れたリディアと自分を選択してくれない父親に対する恨みで安息領に飛び込んだ。行方不明になったのも完全に安息領と行動を共にするからだ。


 結局彼はハイレースオメガになろうとしたけれど、精神を保ったまま肉体がバケモノになってしまうハイレースガンマになった。そうなってもリディアを殺そうとしたのがリディアルートのストーリーだった。

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