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化け物と裏切り

「だがクソ親父がラスボスというのはちょっとおかしいぞ」


 ジェリアは眉をひそめた。


 もちろん彼女のことだから父親が悪役であることを否定しているわけじゃないだろう。正義を論じる前に、彼女は父親との仲がとても良くないから。


 予想通り、彼女が指摘するのは別の部分だった。


「悪役というのは納得できる。そんなのが当然な人間だからな。だがボクが暴走した時の力は団長級だったぞ。ところで君の言う通りならラスボスという存在は団長級よりもはるかに化け物だっただろう? クソ親父が最強の騎士と呼ばれることはあるが、それほどの化け物とは思えないんだ」


「確かに。父上は騎士団の大師匠が全盛期だった時も僅差で優位だったと聞いたよ。今はあの時よりも強くなったのは知っているけど、西大陸全体を侵食技で飲み込んだというゲームの姉君と同格ではなさそうね」


 ジェフィスも一言手伝った。二人とも実の父のことだから根拠があるだろう。パロムは娘と息子だちを直接鍛えさせたから。


 実際、パロムは対外的なイメージをそれなりに抑えているから二人が()()しているのも無理じゃない。


「フィリスノヴァ公爵閣下の特性が何なのかは知っているよね?」


 私の質問にみんなが頷いた。彼は自分の特性そのものを隠さなかったから有名だ。


 彼の特性は『支配』。その名の通り、他者を支配して操る能力だ。いや、他〝者〟だけでなく物さえも操ることができ、戦っている相手の魔道具さえも勝手に奪ってしまう。抵抗できない弱者はパロムに対抗するという意思を抱くことさえ不可能であり、抵抗するほどの強者でも絶えず精神に干渉する支配力への対抗のため力を消耗し続けることになる。


 彼が最強の騎士と呼ばれるのは『支配』の力を除いた純粋な武力のためだけど。


「実はその『支配』に秘密があるの。自分が支配した存在の力を奪うことができるの」


「力を奪う? そんなことができるのか?」


「正確に言えば力の本質や根源じゃなく魔力を奪うのよ。『支配』には対象と魔力の通路を結ぶ機能があるんだもの。対象を自分の魔力で強化させることもできるけれど、対象の魔力を一方的に奪うこともできるわよ」


 この能力の厄介な点は通路がつながっている当事者も知らないということ。そして一度通路が連結された対象は支配可否を自由に転換できるということだ。しかも実際に支配を発動せずに通路だけをこっそり開けておくことも可能で、それを通じて後で突然洗脳することもできる。


 パロムが通路を連結しておいた人と魔道具はすでに数え切れないほど多い。普段も彼は当事者が気づかないほど微細な魔力を強奪し続けて蓄積しており、それを利用した修練で自身の限界をはるかに超える魔力を扱う技術を身につけた。そして有事の際には、すべての魔力を吸い込んで自分の力を増幅することができる。


 私の説明を聞けば聞くほどジェリアの顔から不快感が感じられた。


「ちなみに公爵は自分の子どもたちが生まれてすぐ『支配』の通路を全部つないでおいたわ。つまり貴方とジェフィスもすでに彼の『支配』の影響内よ。幸いゲームのラスボス戦の時点じゃ貴方もすごく強くなっていて支配や魔力の完全強奪には抵抗できたけど、力をある程度取られてデバフがかかったりはしたわよ」


「……クズ野郎」


 パロムのことはこれくらいでいいだろう。


 彼は現公爵であり、一つの騎士団を統率する団長。正体を知っても今の私たちが対応する方法はない。警戒することだけが最善だろう。そもそも彼のラスボス戦は安息領のようなテロとは少し違う形だったし。


 次のラスボスは……話す前に唾を飲んだ。そのボスは私がラスボスについて話せなかった理由そのものだったから。


 でももう話すことに決めた以上、戻ることはできない。


「次のボスなんだけど……トリア」


「はい、お嬢様」


「貴方よ」


「……え?」


 トリアは目を丸くした。でも驚きは長くなかった。


「私もジェリア様のようなケースだったようですね」


「いや、貴方は純粋な敵だったわ」


「私がですか? どうして……」


「十年前、始まりの洞窟に行った時。あの時調査隊に貴方の弟もいたでしょ?」


「それはそうなんですけれども」


 十年前は私が力を自覚していたので何事もなかったけれど、ゲームでは私がみんなを守ってあげられなかった。そのため調査隊は大きな被害を受けた。それが私に向けたすべての侮蔑と迫害の根源だった。


 その時、調査隊員の中には死者も多かったし……トリアの弟もその一人だった。


「貴方の弟が死んだ後も三年間貴方は私の傍を守ってくれたの。だからゲームの私は苦しみながらも耐えることができたわよ。貴方とロベルだけは私の味方だと信じたから」


 けれど、早く両親を亡くしたトリアには弟以外の家族がいなかった。なので彼女は弟を格別に大事にし、二人の仲も良かった。その弟が私のせいで死んだのに私を憎むなと言うのが変だろう。それにもかかわらず、彼女は三年間使用人として憎悪を抑えた。


 けれど、その憎悪は消えなかった。


「その味方が私を暗殺しようとしなかったら、ゲームの私も完全に堕落してはいなかったかもしれないわね」


 わざと軽く言ってみたけれど、トリアが口をぽかんと開けるのを防ぐことはできなかった。


 結局ゲームのトリアは耐えられず、私を暗殺しようとした。暗殺そのものは失敗したけれど、私の精神を完全に壊すきっかけとしては申し分なかった。


 実際に暗殺未遂事件を基点に〝中ボステリア〟の歩みが始まったのだから。


「暗殺未遂事件の後、貴方は逃げたの。そして安息領に入って積極的に協力したわよ。貴方の『融合』はキメラの研究に申し分のないヘルパーだったから」


 復讐の対象だった私が死んだ時はすでにトリアも戻れないところまで行ってしまった後だった。結局ルートの最後に彼女は自分の『融合』で安息領の不完全な研究結果を吸収し……自分が誰だったのかさえ忘れたまま憎悪だけが残ったバケモノになった。


 それがロベルルートのラスボスだったハイレースベータ(トリア・ルベンティス)だった。

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