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ラスボスについて

「いいわ、話すよ。ただ聞いて気分が悪くなる人がいても、もう責任取らないからね」


「お姉様。思いやりは徳目なんですけど、やりすぎるのは悪いですよ」


 うぐっ。


 アルカが呆れたような顔で言ったので私は足から力を抜けそうになった。可愛い妹にあんな目で見られれば悲しくなるのよ。


 でも動揺する私をみんながただ「またか」と言うような目で見るだけだった。一体これが何回目なのか分からないわね。……うん、諦めよう。私が悪かったのだから。


「まず一つだけ言うわ。隠しルートのラスボスについては言えない」


「今になってまた秘密なのか? ったく、君はなぜいつも……」


「ちょっと、ちょっと待って! 今回は本当に重要な理由があるんだから!」


 ジェリアが私に向かって放ったうんざりした声を私が上塗りした。だって今回だけは本当にまともな理由があるんだもの。


「隠しルートのラスボスは、……ちょっと特別よ。出現条件と討伐方法が確実に決まってるんだもの」


「『バルセイ』で言えばまだストーリーの序盤の段階ではないか? ボクはもうラスボスに一度なっていたが」


「貴方は条件さえ整えばいつでもできる状態だったからね。まぁどうせ覚醒するなら早くしてくれたのが良かったけれども」


「良かったと? ボクが言うのはアレだが、君も死ぬところだったと思うんだぞ」


「ゲームの貴方は侵食技で西大陸全体を飲み込んだわ。それ一発で西大陸が滅亡したし惑星気候が狂ってしまったんだけど?」


 簡単にジェリアの口を黙らせてからみんなの顔を見比べた。やっぱりまだ完全に納得していないみたいだね。


「他のルートも同じよ。条件が整えばジェリアのように早い時期に現れることもあるの。けれど隠しルートだけは違う。きっかけになる事件があるけど、その事件がゲームより早い時期に起きる可能性はほとんどないと思う」


「だから言わなくてもいいということか?」


「それだけじゃない。隠しルートのボスは……私も他の攻略法が思い浮かばないわよ。ゲームのような攻略法は再現できるけれど、みんなが正体を知ってしまうと過程が歪んでしまうかもしれない。それだけは避けたいわ」


 隠しルートのラスボスはただ強くなるだけじゃ防げない。だからといって他の人に任せるには強すぎて……()()()()()()()()()()()()()。ゲームより弱い時期にラスボス化したジェリアの時と違って、まぐれは期待できない。絶対に。


 みんな不満はあるけど一応納得してくれた様子だったので、私は次に進んだ。


「まず大前提だけど。一人以外はみんな禁断の力を手に入れた存在だったの」


「ボクみたいに?」


「そう。黒騎士の魔道具の他にも安息領が作っているものがあるじゃない」


「レースシリーズのことですね」


 冷静な声が割り込んだ。ケイン王子だった。


「そのキメラはローレースとミッドレースに分かれていますが、もっと強いラインナップがあってもおかしくないでしょう」


「そうですわ。最強のキメラであるハイレースがありますの。そしてアルファとオメガについてもご存知ですわね?」


 アルファは魔物を合成して作ったキメラ。そしてオメガは人間に魔物を合成して強化した存在。正確には合成の〝成功作〟だ。


「同じラインナップでもアルファとオメガにはものすごい差があります。平凡な人がローレースオメガになっただけでも、三人がミッドレースアルファを相手にできるほどですの。しかもオメガはベースになった人間が強ければ強いほどもっと強くなります」


「王都テロの時はベータという存在も報告されていたと思いますが」


「アルファとオメガ以外はいずれもオメガ実験の〝失敗作〟……つまり犠牲になった人間ですの」


 ベータは自我も知能もすべて失った最悪の失敗作。そして外形が壊れてバケモノになっても人間としての自我と知能が残ったタイプであるガンマと、ベータを改造してリサイクルするために誕生したデルタがある。


「失敗作といっても、彼らは人間にキメラの因子が注入された存在。アルファより強いですの。特にガンマとデルタは最大出力だけはオメガと似たレベルです。これまで現れたのはローレースだけでしたけれど、ミッドレースのオメガや失敗作はかなりの脅威になるでしょう」


「かなりの脅威とは〝ラスボスではない〟という意味ですね」


 さすがケイン王子。核心を正確にキャッチするわね。


「正解ですわ。六人のラスボスのうち三人がハイレースでした。そうでない三人の一人がジェリアでした。ジェリアはハイレースじゃなかったのですけど、強いて言えばハイレースベータに近かったと言えますわね」


 ちなみに隠しルートのラスボスもジェリアと似たケースだ。そっちはハイレースでも黒騎士の魔道具でも関係ないけれども。


 ずっと聞いていたリディアが手を上げた。


「一人は禁断の力を得ていないって言ってたよね? その一人は純粋に自分の力だったの?」


「ええ、そうよ」


「それは誰?」


「パロム」


 フルネームでもなく、ただのファーストネーム。でもそれを口にするやいなや席の空気が凍りついた。みんなの視線がジェリアに向けられた。


 パロムの名前はあまりにも有名だ。バルメリア王国どころか、全世界に彼を知らない存在は見当たらないほど。そもそも()()()()()()()()()()()だし、バルメリア王国内なら田舎や貧民街の人々さえも知らないわけがない。


 ……そう、パロムは。




「パロム・フュリアス・フィリスノヴァ公爵。……ボクのクソ親父がラスボスの一人だということだな」




 ジェリアは重々しく言った。


 この国の五人の最高権力者の一人。王国の北部を支配する古い支配者。現月光騎士団長であり、史上最長期の騎士団長歴任者であり、バルメリアの……いや、この世界最強の〝人間〟。


 禁断の力などなくても六人の〝災殃〟の一人として堂々と名を連ねた、バケモノの中のバケモノ。そして権力まで備えた存在。


 ある意味では隠しルートのラスボスよりも難しい難敵だ。

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