主人公
「ロベル、もしかして手加減してくれるつもりじゃないよね?」
「ご心配なく。その必要がないということは僕が誰よりもよく理解しています」
ロベルはそう言って魔力を高めた。周りを振動させるほど強力な魔力だった。
その姿を見た生徒たちがざわめいた。
「ちょっと、あいつまさか本気で戦うつもり?」
「あんな可愛い公女様にできるわけないだろ!?」
「まさか、乱暴にはしないでしょ。あの公女様もオステノヴァじゃない」
「いや、でもあのテリア様の妹じゃないか」
何も知らないね。思わず笑ってしまった。
一方、アルカはそのざわめきが自分を過小評価していることを知ったかのように頬を少し膨らませた。その姿に「可愛い」とか「愛らしい」とかの感嘆が聞こえてきた。
うん、そうよね。あの可愛い子が私の妹です皆様!
一人でうぬぼれていると、突然イシリンが声をかけた。
【貴方も本当にのんきだね。普通は少し嫉妬もするよ?】
[何言ってるの。アルカは私の誇らしい妹よ]
【まったくもう】
しかし、みんなアルカの愛らしさだけに感嘆するだけで、模擬戦に対しては心配する意見だけがいっぱいだった。
一方、ロベルはすでにこの一年間実力をみんなに認められた。簡単に言えばこの学年で最強者は私、ナンバーツーがロベルになっている。そしてロベルとその下の生徒との格差はすでに相当なレベルだ。
すなわちみんなが見るには今の状況は「圧倒的なナンバーツーが可愛くて愛らしい女の子を相手に力を発揮しようとする状況」だ。戸惑うこともあるだろう。
しかし、そのような雰囲気は次の瞬間逆転した。
――白光技〈魔装作成〉
突然アルカの周りで魔力光が輝いた。瞬く間に純白の魔力武装が百本近く作られた。ほとんどは剣や槍だったけど、たまに弓や撤退、銃のようなものも見えた。
その光景に生徒たちの雰囲気も一気に沸き起こった。
「え、何だあれ!? 確かに十歳だと聞いたのに!」
「〈魔装作成〉を一本でもなくあんなにたくさん作るなんて、あの年なのに!?」
「オステノヴァ公爵家って一体どんな家なの!?」
ふふっ、やっと分かったみたいだね。
まぁ、〈魔装作成〉であれほどたくさん作り出す姿は私も公的に見せたことないからね。できるけど。
雰囲気が変わったことを感じたアルカが意気揚々とした顔をした。可愛い。
「行きますっ!」
アルカは勢いよく叫び、魔力武装を率いて突進した。ロベルも彼女に応えるかのように地面を蹴った。
ロベルの拳に金属音を響かせながら壊れていく魔力武将。しかしアルカは気にせず、新しい魔力武装を次々と生み出した。ロベルもロベルで強化した身体能力を十分活用して粉砕した。それだけでなく、拳や足が何度もアルカを狙った。アルカは避けたり、魔力剣で防いだりした。
――極拳流〈刃蹴り〉
大きく振り回された足が刃のような衝撃波を放った。アルカの魔力武装が大量に壊れた。するとアルカは魔力をより大きく圧縮した双剣を握った。
――天空流〈三日月描き〉
魔力斬撃が〈刃蹴り〉を相殺した。
続いて突進したアルカがロベルのわき腹や肩などを狙って次々と剣を振り回した。ロベルは魔力を皮のようにかぶせた腕で防いだ。続くロベルの反撃はアルカの剣に防がれた。
「いやぁ!」
――天空流〈雷〉
その名の通り、雷のような斬り下ろしだった。ロベルは両腕を交差させて防いだけど、衝撃を受けきれずに姿勢が崩れた。その隙にアルカの〈流星撃ち〉が突っ込んだ。
――極拳流〈撃ち蹴り〉
かかとから魔力を噴射した高速蹴りが剣を流した。アルカは反対側の剣でもう一度追撃しようとした。ロベルは崩れた姿勢を戻さずに地に転がって距離を広げた。
そしてアルカが追いかけるより早く体を起こして再び駆けつけた。直後、慌てたアルカが振り回した剣を流し、至近距離でアルカの腹部に向かって固く握った拳を放った。
「うっ……!」
アルカは周りに浮かんでいた魔力剣を利用して防いだけれど、剣ごと押されてしまった。しかし、その間にも周りに浮かんでいた魔力武装が一斉にロベルに向いた。
――天空流〈ホシアメ〉
ドドドド、武器が雨のように降り注いだ。ロベルはそのほとんどを前方に突進して避けた。避けられなかったものは拳で破壊した。でもアルカは剣を捨てて別の武器を握った状態だった。
それは弓。
矢に込められた魔力は私が使うものと比べても遜色がないほど莫大だった。矢が飛ぶ衝撃波だけでも地面がめちゃくちゃに破壊された。
――極拳流〈一点極進〉
魔力が凝縮された拳が矢を相殺した。しかし続いて飛んできた魔力剣がロベルを牽制した。その間アルカはより多くの魔力を一つの矢に凝縮していた。多すぎる魔力が凝縮されて空間が振動し、地にひびが広がった。
あの矢は……。
私が少し戸惑っている間、アルカは矢を弓に装填した。ロベルもまた、それに対抗して拳に魔力を限界まで凝縮した。
――極拳流〈頂点正拳突き〉
二人が極度に凝縮した魔力がついに解放された。
圧倒的な破壊力が空気を切り裂いて……。
「はい、そこまで」
……間に割り込んだピエリは両方を素手で完全に相殺した。
「いくら二年生でもそこまでやってしまえば練習場の結界が耐えられません。二年生を相手にそれを心配したのは私も今日が初めてなのですが」
ピエリは少し困った顔で笑いながら「これくらいなら実力確認は十分できました」と言ってやめろと手招きした。アルカとロベルはそれに従って腕を下げた。
終結が宣言されたけれど、生徒たちは静かに見守っていた。……いや、違う。これはただぼーっとしているだけだ。
その考えを証明するかのように、アルカがすべての魔力武装を消した瞬間、大きな歓声が沸き起こった。あまりにもあれこれ入り混じって何と言っているかは分からない。でも生徒たちに瞬く間に囲まれたアルカが恥ずかしがるのを見れば悪い言葉ではないだろう。
「ただいま参りました、お嬢様」
ロベルが私の元に戻ってきた。彼に話しかけようとする生徒もいたけれど、ロベルはそれを全部適当に聞き流した。
「お疲れ様。どうだったの?」
「前もすごかったですが、この一年でまた急激に成長されたようです。お嬢様と同じくらいすごい成長速度だと思います」
それはそうだろう。なんといってもアルカはRPGゲームの『バルセイ』の主人公であり、この世界の〝主人公〟なのだから。
この世界にはゲームとは別に〝主人公〟という概念がある。圧倒的な才能と運に恵まれた人。短ければ百年、長ければ千年に一度現れるという絶対的な才人。
現代の〝主人公〟としてアルカはその気になれば誰よりも強くなれる。私が邪毒の剣というチート武器を得たのも、その〝主人公〟の成長速度に何とか勝つためだ。
【貴方は違う方向に暴走しているけどね】
[ひどいわよ本当に]
……しかもアルカの持つチートは〝主人公〟としての才能だけではない。
「ただ少し残念なことがあるとしたら……まだ『万魔掌握』に依存する部分が大きいです。技巧や技が劣る部分を魔力量だけを信じて力で押し付ける感じです」
「まぁそれは経験と年齢差を考えると仕方ないでしょ?」
「それはそうですが、僕は特性を使わずに白光技だけ使いましたから。特性を使いながらも互角だったという点でまだ残念です。成長速度を考えると、数年後には僕より強くなるとは思いますが」
冷静な評価に苦笑いしてしまったけれど、実は彼の言う通りだ。
『万魔掌握』。アルカの特性であり、始祖オステノヴァ様が持っていた二つの特性の一つ。その能力は、周囲にある自然の魔力を自由自在に扱うことだ。
本来、個人が使用する魔力は自然の魔力を受け入れて体内で加工したものだ。魔力量の限界は身体が加工して保存できる量に決定される。
けれども、『万魔掌握』は自然の魔力をそのまま制御することで身体の限界にとらわれず、実質的に無限の魔力を扱うことができるようになる。チートにチートを重ねて無限の魔力を作り出した私とは違って、そちらは真の無限だ。
さらに、これは『万魔掌握』の二つの能力の一つに過ぎない。もう一つの能力も格が違う。今のアルカはその能力をまともに使うことはできないけれど、騎士科としてずっと頑張るとそっちの能力も急速に成長するだろう。
ちなみにアルカの能力を知った時、母上は心から喜んでくれた。まぁ、結論的にうちの姉妹が始祖の能力を分けて持っているから、世界はともかく家の歴史には類例がない大事件ではあるよね。
私の立場では世界権能を二つも持っている始祖の方がバケモノのようだけどね。世界権能とは一つの系列の頂点に属する極限の能力であり、下位能力では絶対に勝てない究極の力だから。
世界権能はただ一つの例外を除いて全て名前に〝世界〟が入る。浄化界の究極能力である私の『浄潔世界』が良い例だ。そして名前に〝世界〟が入っていない唯一の例外がアルカの『万魔掌握』だ。
……『バルセイ』でアルカが最初に武器を握ったのは十五の時。あの時と違ってこんなに早くから修練を始めたアルカなら、〝主人公〟の能力でゲームの自分をはるかに上回るだろう。
「お姉様!」
私の元へ駆けつけてくるアルカを見ながら、私は今後のことを再検討し始めた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
アルカ強い! とか、テリアが戦うのも見たい! とか、とにかく面白い! とお考えでしたら!
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