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対抗の希望

「はあああっ!」


 浄化神剣の出力を最大に高めてから振り回した。きらびやかな輝きが〈冬天世界〉を明るく照らした。ジェリアが吐き出した強大な邪毒が一瞬にして消滅した。


【いったた】


 イシリンは小さく音を立てた。元邪毒神である彼女は浄化神剣の光彩が直撃しても消滅しないけれど、かなり痛いようだ。ごめんなさいけど少しだけ我慢してね。


 ジェリアは自分の邪毒が消滅したことに不満そうに眉をひそめた。けれど、彼女の魔力と氷は衰えていなかった。浄化神剣の破壊力がある程度削られたけど、それ以上の出力で押し付けようとするように魔力と氷が膨張した。


 今度は浄化神剣の出力を減らし、邪毒の剣の力を発揮した。莫大な邪毒が噴出し、〈浄純領域〉に浄化された魔力と邪毒が入り混じった。莫大な魔力が一つの刃に圧縮され、ジェリアの氷と魔力を切り裂いた。


 その瞬間、ジェリアの『冬天覇剣』から魔力が湧いた。


 ――狂竜剣流『冬天世界』専用技〈氷竜昇天〉


 雪と氷が入り混じった巨大な嵐が起こった。


〈竜王撃〉に『冬天世界』の魔力が加わった絶技。巨大な氷雪の嵐が氷竜のような形を作り出した。それが私を巨大な口で飲み込もうとした。


「なめないで!」


 ――テリア式天空流奥義〈夜空の満月〉


 浄化神剣の力が眩しい魔力の球体を生み、邪毒の剣の邪毒と紫光技の魔力が球体を包む嵐を作った。それが〈氷竜昇天〉を正面から受け止めた。


 ジェリアは二つの技が相殺されるのを見て眉をひそめた。


 邪毒に浸食されたジェリアには本来の意識がない。けれど、彼女の戦闘本能と判断力は生きている。一体どんな原理なのかは私もわからないけど、だからこそもっと面倒だということだけは確かだ。


 でもそんな彼女だから、私が攻撃を相殺させたのが不思議だろう。外見の力の差は明白だから。今のジェリアはピエリやテシリタよりも強いからね。


 けれど、彼女は知らない。私がどれほど安心しているのかを。


【この程度なら〝時間制限〟はなんとか合わせられるかしら?】


[確信はできないわ。でも希望はあるの]


〝時間制限〟――それはラスボスジェリアのもう一つの特徴だ。


『バルセイ』でジェリアルートのラスボス戦の目標は討伐ではない。邪毒に浸食されたジェリアを浄化して元に戻すのだ。


 ボス戦の構造も独特だった。ジェリアボス戦は計三フェーズで構成されるけど、フェーズ変化条件がボスのHP減少じゃなかった。フェーズごとに時間制限があり、時間を満たすたびに次のフェーズに移る方式だった。


 そのフェーズが象徴するのはジェリアの侵食程度。


 第三フェーズになっても制限時間を超えてしまえば終わり。取り戻せなくなったジェリアを殺して防いだり、暴走するジェリアにみんな殺される。どちらにしてもバッドエンドだ。


 しかも今のジェリアは『バルセイ』の姿で言えば最初から第二フェーズだった。制限時間がもっと差し迫っているという意味だ。


 それでも私は希望を抱いていた。


 ――狂竜剣流『冬天世界』専用技〈氷竜昇天・尖竜〉


 莫大な邪毒が津波のように噴き出した。同時にジェリアの〈氷竜昇天〉が一つに圧縮され、巨大な斬撃となった。とっちでも都市一つは吹き飛ばせる威力だった。


 ――テリア式天空流『浄化神剣』専用技〈純白の月光〉


 破壊的な浄化の斬撃が邪毒の津波を吹き飛ばし。


 ――テリア式天空流『邪毒の剣』専用技〈赤月の影〉


 焦熱の斬撃がジェリアの斬撃を相殺した。


 爆発する水蒸気と魔力が私たちを押し出した。けれど私もジェリアも全く下がらなかった。私たちの魔力は同時に爆発した。


 ――『冬天世界』専用技〈剣の吹雪〉


 ――『浄潔世界』専用技〈無限の聖槍〉


 ジェリアが放ったのは無数の氷の刃だった。それに対して私が放ったのはたった一本の魔力槍だった。


 けれど、魔力槍は邪毒の剣とジェリアの邪毒を吸い込んで大きくなった。それが臨界に達した瞬間、槍は二つに分裂した。それを繰り返していつの間にか槍は無数といっていいほどの数へと増えた。無限に増殖する聖槍が〈剣の吹雪〉を破壊し続けた。


 砕ける氷の破片の隙間を横斬り、ジェリアに迫る。


「貴方は知らないでしょ、ジェリア」


 刹那の瞬間に無数の剣撃が交差した。


「今の貴方も安息八賢人より強いけど」


 疑う余地のない必殺の剣撃を、同等の必殺が打ち返す。


「『バルセイ』のラスボスだった貴方はもっとすごかったの」


 それが十回、百回、千回。普通の人は見ることさえ不可能な速度で斬撃が乱舞し、周辺すべてが余波で壊れた。


「だってあの時の貴方は……暴走する前から圧倒的だったから」


 金属の無数の衝突音と氷が砕ける音のため、私の声はよく聞こえなかった。でもジェリアには届くと信じて言葉を放ち続けた。彼女は意識がない状態だけど……ゲームの彼女はあの状態でも深層意識の中でずっと罪悪感を感じて苦しんでいたから。


『バルセイ』の終盤のジェリアは今のジェリアが暴走する直前よりはるかに強かった。そのためラスボスになった時の力も圧倒的だった。今の彼女が()()()カラオーネ砂漠を支配するのとは格が違った。




 ゲームのラスボスジェリアの〈冬天世界〉は、この西大陸全体を飲み込んだから。




 西大陸は一瞬にして滅亡した。さらに〈冬天世界〉が近隣海域まで支配し、そのため惑星の気候自体がおかしくなってしまった。


 防げなければこの惑星を滅ぼしてしまうかもしれない大災害。それが『バルセイ』のラスボスだ。


「そんなラスボスに比べると……今の貴方は本ッ当に弱いんだから」


 安心させるというよりも挑発に近い言葉を吐き出し、堂々と微笑んだ。


 私の力の出力はジェリアに届かない。速度は遅いし、力も弱い。


 でも彼女が邪毒に浸食されている以上、莫大な邪毒を使う以上……『浄潔世界』と浄化神剣という絶対的な相性の加護がある。イシリンの力もある。


 ある意味、ジェリアが今ラスボス化したのがかえって良かったかもしれない。


 しかもこの戦いは私一人だけのものじゃないわよ。

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