安全の予想
自分で何かをしようと思う前に、私の口が先に勝手に笑ってしまった。
『隠された島の主人』が何を考えていたのか分かる気がする。かなり驚くべき観点だし、そう思った理由も分かる。確かに心配すべきことなのよ。
数年前だったらね。
「それなら大丈夫。心配要らないわよ」
「本当か?」
「私だけでなく貴方の命までかかったことじゃない。私がそんなことで嘘をつくと思う?」
「……そんな奴じゃないんだな。君の命だけだったら蛮勇をふるっただろうが、他人の命までむやみに扱う奴ではないからな」
そう言いながらも、ジェリアはまだ安心していない様子だった。
まぁ、心配なのは仕方ないだろう。自分の死を恐れる……という気持ちもなくはないだろうけど、ジェリアはきっと私のことを心配しているはずだ。私も同じ気持ちだから簡単にわかる。
けれど、その必要がないことをあえて心配するのは不要な心力の浪費に過ぎない。
「ジェリア。私が前世の話を初めてした日、覚えてる?」
「もちろん。あの時言ったことも全部覚えてるぞ」
「じゃあ、それも覚えてるわね? 私が『バルセイ』でどんな存在で、どんな最期を迎えたのか」
「……忘れるわけがないだろう。その日はボクの大切な親友をそんな扱いした奴らを全部取り出して頭蓋骨を粉々にしたかったからな」
ジェリアはその日を思い出したかのように眉間にしわを寄せた。でもそれを聞いた私は嬉しくて笑いが出た。
「ありがとう。面前で堂々と大切な親友と言ってくれるなんて、恥ずかしいけど嬉しいわ」
「余計に触れるな。ボクにも勢いで言って照れる瞬間くらいはあるぞ。それよりその話はなぜ急に持ち出したのか?」
『バルセイ』で私がどのように死んだかを思い出してみて」
「中ボスとして主人公のアルカと戦い、その戦闘で死んだと言ってたな」
即答だった。言ったことを全部覚えているというのが虚勢じゃなかったようだね。
「そうよ。でもそれを心配する必要があると思う? 私が中ボスになっちゃったり、アルカに殺されたりのをね」
「余計な心配だな。すでに君が堕落する要因自体が消えたから。……待って、まさか?」
「そういうことよ」
『隠された島の主人』が言いたかったのは、おそらく『バルセイ』の大きな悲劇の一つだったはずだ。けれども、その原因がすでに消えた。意図したことじゃなかったけど、結果的にはよかった。
事件の原因がなければ結果も当然起こらない。この現実では私が中ボスにもならず、アルカが私を殺して〝聖女〟の資格を継承する必要がなくなったのと同じく。『隠された島の主人』が警告した悲劇も同じだ。
だから私はその悲劇については言わなかった。『バルセイ』でトリアが私を殺そうとしたことを言わなかったのと同じだ。起きるはずがないことで余計に心を傷つけちゃうことになるから。
「だから心配しなくてもいいわよ。森の調査に行くかどうかは、貴方がやりたいのかで決めていいけどね」
「それでも……」
「大丈夫だってば。それとも他の心配でもあるの?」
「……安息領が出るらしいだ」
安息領か。今回の森調査は『バルセイ』では存在しなかった事件だから、予想外のことが発生する可能性はいくらでもある。しかも今回の調査は特に秘密作戦でもない……というより、今回の調査を皮切りにした森の浄化自体を王家から国策事業として広報している始末だ。安息領もその気になれば介入できるだろう。
もちろん、ジェリアが安息領を恐れているはずはない。
「安息領のせいでひょっとしてあの事件が起こるかもしれないって思うの?」
「可能性を排除することはできないだろ」
「まぁ、可能性がないとは言えないわね。でも大丈夫よ。安息領があの事件を起こそうとしても、あの事件は準備ができていなきゃ起こられないから。今は準備ができていないから、あの事件を起こしたくてもできないのよ」
「だが……」
ジェリアは何か言いたいことがあるかのようにしばらくためらった。
うーん、ああいうのを見ると何か本当に重要なことでもあるのかしら。それともただ不安なだけなのかしら。よく分からないわね。
けれど、私が詳しいことを聞く前に、ジェリアは先に首を振った。
「いや、もういい。君を信じるようにしよう。『隠された島の主人』が『バルセイ』についてどれだけ知っているのかよく分からないからな」
私が強く言ったせいで結局言うことを言えなかったという感じもあるけど……本当に重要なことなら、私の態度とは関係なく言ったはずだ。だから大丈夫だと思う。
でもそれで用件が全部終わったわけじゃないようだった。
「そしてあいつがそんなことも言ったぞ。行くなら必ず君の傍にいれと」
「まぁ、理由は分かる気がするわ。あいつが心配した悲劇は貴方が私の傍にいれば防げるから。貴方と一緒にいるのには何の問題もないし、調査隊で同じ部隊に配属してほしいって頼むくらいは大丈夫」
「そうしよう。どうしても警告を無視するのは気にかかるからな」
「慎重な態度はいいわね」
その問題に対する話はそれで終わりで、その後は平凡に雑談や修練の話をしながら時間を過ごした。
***
……そんな話をしたわね。
結局、私の言葉を受け入れたジェリアは今回の森調査に参加することにした。そしてあの時言った通り私と同じ部隊への配属を希望するのだ。
父上はジェリアの要請を簡単に受け入れた。
「もちろんできるんだよ。実習生たちを分離してもなくても別に構わないから」
「ありがとうございます」
よし。これで万が一の心配もなくなった。
残ったのは呪われた森を調べることだけ。もちろん『隠された島の主人』の警告通り安息領が現れる可能性がある。けれど、今ここにいるのは騎士団の千人隊。百人隊に分かれて散開する予定ではあるけど、その百人隊すら単なるテロ組織には手に負えない相手だ。
しかも呪われた森は邪毒があふれる場所。安息領が邪毒神を崇めたからといって、その肉体が邪毒に免疫であるわけではない。そして地形の有利さは私たちにある。
父上を振り返った。私の視線に気づいた父上は小さく頷いた。
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