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他の可能性

【非常に高い確率で悲劇になるはずよ。でもその確率が百パーセントじゃないと思うよ】


「悲劇にならなければ……どうなるんだ?」


【……それは】


『隠された島の主人』はいまだに迷っていた。


 そろそろムカつくぞ。言いたくないのなら、むしろ明確に拒否すればいいのに。そうすればボクの気持ちは不愉快になるだろうが、どうせ邪毒神を相手にできることもない。


 ……あいつの言動があまりにも人間的で逆に疑わしいな。いったい何を望んで何をしようとしているんだろう?


 だが息苦しく待つ時間は意外と長くなかった。


【いいよ、言ってあげる。どうせここまで言っておいて今さら隠すのもバカみたいだから】


 するとあいつは何か大きさ覚悟したような様子で真剣に言い続けた。


【非常に希薄な確率で、もしすべてがうまく解決されれば……貴方は強くなるよ。驚異的なレベルで】


「は?」


 強くなる。気持ちいい響きだが、ボクは喜びより疑問を先に感じた。


 いったいあいつの言う悲劇とは何だ? それを克服すれば驚異的に強くなると? 克服できなければボクもテリアも死に、克服すれば強くなるということは……強力な魔物でも現れるということか? アカデミーに現れた奴よりもっと強い邪毒獣とか。


「いったい何が起こって克服すれば強くなるのか分からないな。だが……その強くなるとはどれくらいのレベルだ?」


 ……こんな話をする中でも力に興味があるとは。ボク自身だが本当に可愛らしくない性格だな。


 想像がつかないから楽しみでもないが。それでも驚異的なレベルだと表現したのを見ると、結構強くなれるんだろうな。それでテリアの役に立つなら悪くないこと……。


【今のテリアに匹敵するレベルになるよ。テリアも貴方に勝つために奥の手を全部使うほど】


 ………………?


 今、何を聞いたんだろう。


 テリアに匹敵? 誰が? ボクが?


 バカな。ボクも天才と呼ばれるほどの才能とそれに相応しい力を備えていると自負しているが、テリアは比較対象に論じられる存在ではない。彼女とボクの間に越えられない壁があることは明白だから。だからこそ、ボクは本当の意味で彼女を乗り越えることをいつの間にか諦めていた。


 そんなボクが……テリアに匹敵するレベルになるんだと?


【でも心に留めておいて。その可能性は本当に希薄な可能性だよ。そして克服できなければ、死が貴方たちに近づいてるよ。だから慎重に――】


「……どうやら、行かないことを真剣に考えなければならないようだな」


 思わず呟いたら、『隠された島の主人』の手が不自然に止まった。顔は見えないが、あいつが当惑しているのが丸見えだった。


【え? 急にどうして?】


「ボクとテリアの間には越えられない格差があるぞ」


 当たり前のことを聞くな。人に迷惑をかけることだぞ。


 まぁ、ただ面倒くさいだけなら邪毒神にしてはとてもありがたいことだがな。実際に迷惑をかけることはないから。


「その格差を超えるくらいなら、とてつもないことが起こったという意味だろう。それこそ行くべきではなかったと後悔するほどでな。ボク一人で死ぬのなら蛮勇をふるうこともできるが、テリアまで命が危険になるほどならそうはいかない」


 何が起こるのかわからないので、強くなる原理がわからない。だが、何であれ相当なことだということは分かる。友人の死という危険を冒してまでギャンブルはできない。


 ……もちろん『隠された島の主人』の言葉がすべて事実だと仮定した時の話だが。


【……そう思ってくれたらよかった。でも結局行くことに決めたら、私が今から言うことを肝に銘じてちょうだい】


『隠された島の主人』は厳しい口調で話した。なんだか娘を心配する母上のような気がして、ボクは思わず苦笑いした。


【呪われた森に着いたら、テリアの傍から絶対に離れないこと。浄化魔道具の効力が途切れないようにうまく対処すること。そして行く前に、行くと決める前に……テリアに相談してね】


「行ってもいいかテリアに聞けというのか?」


【貴方自身の心、そしてどんなことがあったのかテリアに言って。そうするならテリアも判断できるようになるから。……多分すべてを話すなら、彼女は絶対行くなと言うだろうけど】


「それはボクに言ってはいけないことだろう?」


 ボクが結局行きたいと思うなら、テリアにすべてを話さないかもしれないからな。


『隠された島の主人』はボクの指摘を理解しているかのように頷いた。


【実はたくさん悩んだけど……克服できれば、貴方が今その仕事を経験した方がいいかもしれないと思った】


「なぜだ?」


【一生危険を抱えて生きていかなきゃならないかもしれないから。もう貴方の体は危険の種を抱いてしまった。それをなくすのは短期間ではできないよ。その間ずっと〝あのこと〟が起きる可能性を抱いたまま生きていくことになるはず。もちろん貴方の体を正常に戻すまで守ることは可能だけど……多分それまでどこかに閉じ込められて治療だけ受ける状況になると思うよ】


「とても息苦しい人生になるだろうが、それが本当に必要なことなら拒否はしないつもりだ」


【でも万が一の事件が発生すると、今それを迎えるよりも大変なことになっちゃうよ。〝あのこと〟は時間が経つにつれてもっと脅威的なことになるから】


「だからいっそ今爆発させてしまおうということか」


 今は少なくとも『呪われた森に行けば事件が発生する』ことを認知した状態。それなら意図的に物事を起こすことができるということで、少しだが統制できるようになる。それがもっといいかもしれないということだな。


『隠された島の主人』はため息をついた。


【けれど当然最善は何も起こらないことよ。それだけは肝に銘じてね】


「……覚えておこう」


 疑問も、納得できない部分も多い。しかし、少なくとも得たものがない出会いではなかった。


 その事実にそれなりに満足しながら、ボクは『隠された島の主人』とのやり取りを終えた。

読んでくださってありがとうございます!

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