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幻聴

 ……ボクを怖がらせようとする意図なら、立派に成功したとしか言えないんだな。


 ただ聞いただけで冷や汗が流れた。体が冷めたような錯覚がした。思わず目を見開いてしまった。


「……テリアが? 死ぬ?」


 想像がつかない。()()テリアが死ぬなんて。異常な力を持ち、あのピエリを相手にしながらも死ななかった彼女が。そのため、実は実感はあまりなかった。


 それでもボクが感じているのは……恐怖だった。


 テリアの死んだ姿なんて想像できない。それならボク自身の死を恐れるのか? そう思った瞬間、すぐに違うと断言できた。ボクも人間だから死を恐れる心ぐらいは持っている。だがこんなに明確な恐怖感を感じるほどではない。


 その瞬間、突然強烈な頭痛が襲ってきた。


〝すまない。ボクの愚かさが君に……〟


〝ダメ……〟


〝どうか……をころ……〟


 何かが、聞こえる。


 耳ではなく頭の中に響く幻聴だった。ところどころ途切れて何の話なのか聞き取れなかったし、誰の声なのかもよく分からない。だが大きな後悔と悲しみが感じられるということだけは分かった。


 だがそれが聞こえるのはほんの少しだけで、幻聴が消えると頭痛も消えた。


【……どうして】


『隠された島の主人』の声が聞こえた。魔力に変調されたにもかかわらず、当惑した感情がはっきりと感じられる声だった。


【どうして、いまさら……】


「……どういう意味だ?」


 すでに頭痛は消え、心はすっきりしている。ただ正体不明の頭痛と幻聴のせいで気分が悪くなっただけだ。そのため『隠された島の主人』を睨む余裕ができた。


 あの反応が演技でなければ、今の頭痛と幻聴は奴の仕業ではないだろう。だが、それについて何か知っている様子だった。それなら情報が得られるかもしれない。


「今のあれは何だ? 君は何か知っているのか?」


【……言えない】


「貴様……」


【言いたくないわけじゃないよ。言っても伝わらないからよ。テリアに聞こえなかったの? 私の情報の中で重要なのは世界が遮断しちゃうって】


 そういえばテリアに聞いた記憶がある。奴の演技なのか、それとも本物なのかは定かではないが、『隠された島の主人』の言葉を聞き取れない場合があると。


「ヒントをくれることもできないのか?」


【……。さっき幻聴を聞いたよね?】


「どうして分かった?」


【魔力の反応を見た。詳しいことは言えないけど、今貴方が経験した症状が何なのか私は知っている。その症状が発現する時は特定の魔力反応があるんだよ】


「ということは少なくともさっきのそれが何だかはっきり分かっているということだな」


『隠された島の主人』は頷いた。


【ただし、魔力反応だけでは貴方が正確に何を見て聞いたのか分からないよ。でもその現象が起きたということは、高い確率で貴方が()()()()()()()()()()と関係がある】


 経験すること。今の流れなら、それが何なのかは明らかだ。


「ボクが呪われた森に行った時に経験することということか? つまり、君が行くなと言った理由と関連があるということだな?」


【そうかもしれないよ。言葉だけじゃ信じがたいはずだけど、後悔したくないなら信じた方がいいよ】


 奴の声は冷静だった。どこか不愉快に思っているように見えた。


 後悔か。幻聴で感じた感情も後悔だった。もちろん奴自身が認めた通りに言葉だけでは信じがたいが……少なくとも関連がある可能性だけは否定できなくなったな。


 ただし、こんな話なら疑問がある。


「おかしいな。そんな話なら、どうしてわざわざボクを直接呼び出したのか? アルカやジェフィスにしたように啓示夢を見せた方が早くて楽じゃないか?」


【私もそうしたかったよ。啓示夢は単純に便利なだけじゃないからね。世界の情報統制を少しだけど迂回できるよ】


「ところでなぜそれを使わなかったのか?」


 どういうわけかあいつはため息をついた。


【貴方のせいだよ。今の貴方に啓示夢を見せたら、後悔することを早める結果になっちゃうんだよ】


「は? なんでだ? まさかそれも教えられない情報なのか?」


 その瞬間、奴が眉をひそめた……ような気がした。邪毒に隠れて見えないが、なんとなく。


【今の貴方はとても危ないよ。これ以上邪毒に接してはいけない状態だよね】


「は? いや、待って。それはまさか……」


【そう。貴方がバカみたいなことをしたからだよ。さっき胸を触ったのは申し訳ないけど、それは貴方の体調を検査するためのものだった】


 おそらく、いや間違いなく黒騎士の魔道具を使ったことについて言っているのだ。


 その魔道具を使った時、自ら感じた違和感をまた思い出した。以前は黒騎士の魔道具を使ったことがなかったので疑問に思っていなかったが、ひょっとしたら変な手品が使われたのかもしれない。それは安息領の物だったから。


 本当にその魔道具が問題だったのなら、ボク自身が危険になるのは理解できる。呪われた森は邪毒があふれる所だから。浄化の魔道具を着用している予定であっても、万が一の事態というものがある。だがテリアまで死ぬこともあり得るというのが理解できない。


「邪毒に浸食されるのが問題なら、死ぬのはボクだけはずだが?」


【……】


『隠された島の主人』の返事はなかった。


 言葉が詰まった……のではないだろう。そんな粗末な奴ではないはずだ。では……単に邪毒中毒になって死ぬのではなく、もっと深刻な何かがあるということか?


「一つ聞きたいな。一応君の言うことがすべて事実だとしよう。それならボクが呪われた森に行けば、君の言ったことが起きれば絶対悲劇が確定するのか?」


【それは違うよ。ただ……】


 あいつはそこでまた話を止めた。何か悩んでいる様子だな。頭を下げて、何か呟いているような気もするし。耳を傾けて聞いてみると、【きっと……いや、でもさっきその現象を経験したということは……ひょっとしたら】とか呟いていた。ボクはじっくり待った。


 約五分の沈黙の後、あいつはまた顔を上げた。

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