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証明

「私がアカデミーで邪毒陣を見つけたこと、覚えていますの?」


「君が一年生の時のことだね」


「はい。『バルセイ』ではその邪毒陣がアカデミーの邪毒獣出現事件の原因と推定されていました。結局それはブラフィングでしたけれど……邪毒陣自体は実際に設置されていました」


「邪毒獣……ごめん。アカデミーにそんなバケモノが現れたのに何の役にも立たなかったんだ」


 父上の眼差しから悲しみが窺えた。家族をこよなく愛する父上だから、私とアルカが死ぬかもしれなかったということにずっと心が痛かったんだろう。


 でも私は父上を説得するためなら、その痛みを刺激することもできる人間だ。


「いいえ。私が邪毒獣の出現を先に申し上げたなら、父上もご存知だったと思います」


「そういえば、先ほど邪毒陣がその事件の原因だという推定があったと言ったね。ということは、君は最初から邪毒獣を防ぐために行動したということかい?」


「はい。父上の協力を得ることができたなら、喜んで父上にも申し上げたはずです」


 その時は言っても信じなかっただろう――遠まわしにそう言った。父上もその意味を理解して苦笑いした。


「でもその時は適当な根拠を提示できなかっただろうし、僕は君が不安を感じているとだけ思って慰めて終えたかも。そして事件が起きた後になってようやく、僕が娘の言葉を信じられなくて娘を殺すところだったと後悔しただろうし」


「……結果的にはそうなったのでしょう。けれど、そうなったら父上は確実に信じてくれたはずです」


「やっと理解できるんだね。あの時、君とロベルの動きは少しおかしかったんだ。でも邪毒獣の出現をすでに知っていたし、ピエリの仕業だということまで把握したなら、すべて説明になる。それが『バルセイ』の記憶の力だったということだね」


「信じてくださるんですの?」


「……まだ少し足りない。今までは奇跡的な情報収集で何とかできるレベルだ」


 そうだろう。これだけで納得してくれれば、私も心を楽にしたはずだ。


 私は黙って手を差し出した。あえてそうする必要はないけど、視線を集めるためには象徴的な動作一つくらいはあった方がいいだろうから。


 差し出した手から魔力が膨らんだ。魔力は私の手から解放された後に形を作り、美しいけど独特な竜人少女の姿になった。イシリンだった。


 母上は眉をひそめ、父上は探索するような視線を向けた。突然現れた存在を警戒するのは当然だろう。それにここは公爵家の邸宅。もしイシリンが私と関係なく一人で現れたら、家の衛兵がイシリンを制圧しようとしたはずだ。


「テリア。あの子は?」


「〝イシリン。一人寂しく消え失せた貴方がもし、この世界でも生きていくことを許してもらえるなら……〟」


 私がその言葉を口にした瞬間、父上は驚愕で目を見開いた。それだけでも説明は十分だった。


 母上はイシリンという名前の意味が分からないので首をかしげるだけだった。でも父上は違う。オステノヴァ公爵家が研究者の道を歩んだことからが、イシリンのためだったから。


 始祖様の遺志とイシリンについて知ることになるのは当代の公爵だけ。先ほど私が引用したのは始祖様が自分の後継者に残した言葉。そして、それは家族にさえ極秘事項である。だから母上でさえ知らない。そして私も本来なら知らなかったはずだ。そのため、イシリンは存在自体が一つの証拠であるわけだ。


「……驚いた。その名前を知っているなんて」


「これくらいでいいですの?」


「証拠としては十分だよ。もともと、今この世の中でそれを知っている人は僕一人だけだったから」


 父上の言葉に母上が頷いた。


 公爵夫人の母上も知らないことを私が知っているということは、どこかで情報を得たということ。多分母上はまだ知らないと思うけど、イシリンに関する情報を得られるのはこの世でたった一ヶ所だけだ。けれど、そこは存在自体が秘密の所なので私が接近できない。私も『バルセイ』にそのような場所があると言及されたのを見ただけで、実際にそこがどこなのかは分からない。


 証拠として利用されたイシリンには少し申し訳ないけど――と思っていたけれど、突然父上がイシリンに視線を向けた。否定的じゃなかったけど、どこか厳しい視線だった。


「ただ……今は邪毒が全く感じられないんだ。テリア、彼女が()()イシリンであることを確認させてくれるかい?」


「疑い深い奴だね」


 イシリンが腕を組んだ。


 ……どうしてその部分で私を見て納得したように頷いているのか分からないわね。さらに、その姿を見守っていた母上まで苦笑いした。


 母上が口を開いた。


「テリア、外ではあれこれ疑っているようだね」


「私が父上に似ているということですの?」


「多分」


 ……まぁ否定はしないけど。


 それより父上が要求したことをどう見せたら……あ。


「イシリン。元の姿に戻ってくれる?」


「まぁ、それが一番確かだね」


 イシリンは体の形を変えた。今の彼女の本来の姿……邪毒の剣で。不吉にねじれた魔剣から邪毒が漏れた。実は放出される邪毒の量は恐ろしいほどだけど、私が表に『浄潔世界』の魔力で幕をかぶせておいたので何の被害も生じていない。


「それは……始祖様の浄化神剣。イシリン様の魂を吸い込んだという。それなら本当に……」


 父上がイシリンに様付けをするなんて。妙な気分だね。


「イシリンは邪毒を生成し続けることができます。そして私の能力は『浄潔世界』なんですわよ。それでイシリンを連れてきたんですの。助けてもらおうと思って」


「……我が家の使命そのものであるイシリン様を魔力バッテリーに使うなんて。先祖たちが見たら気絶するだろうね」


「でも父上は気絶しませんでしょ?」


「個人的な感想はともかく、客観的には効率的だから」


 また竜人の姿に戻ったイシリンが非常に微妙な表情で私を見た。私がどうしてこんな人間なのか完璧に理解したというような表情はやめてほしいわよ。


「本当の邪毒の剣なのか検査してみます?」


「もうやってた」


 いつ!?


 検査されたイシリンでさえ驚いていたけれど、父上は平気だった。いや、正確には本音が窺えない顔でイシリンを見た。


「一つ、お聞きしたいことがあります」

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