オステノヴァ公爵
オステノヴァ公爵、ルスタン・マイティ・オステノヴァ。この国を支える五家の一つであるオステノヴァ公爵家の現当主。また研究者としては歴代最高のオステノヴァと呼ばれ、できないものが全然ない万能の才人として名声が高い。
必要な時には圧倒的な判断力で万事を解決する父上は私の憧れだ。けれど、あまりにも秀逸で優れた能力と冷徹な理性は恐ろしいほどだ。それも含めて、父上はいろんな意味で私の恐怖の対象でもある。
その『いろんな意味』の一つが何なのかというと。
「テリアーーーー!」
年甲斐もなく、職位に相応しくなく娘に飛びつく親バカの負担感だ。
「落ち着いてください、旦那様」
「ぐえッ!?」
母上の鉄拳が父上の顔を正面からぶん殴った。父上はみっともなく倒れた。母上の冷たい視線がそんな父上に突き刺さった。
「公爵の威厳を守りなさい。テリアが生まれてからこの話をしなかった年がありませんわよ」
「せっかく愛らしいテリアに会ったのに仕方ないじゃない」
「普段外から見える姿の一パーセントだけ家でも見せてください。まったく」
外では惚れてしまうほど素敵で立派なのに、と呟く母上にはわからないだろう。通りすがりのように呟いた褒め言葉に父上が目を輝かせているのを。
金髪と金色の瞳を持つ美青年の外見。外見だけ見れば、成人になったばかりの青年だと言っても納得できるほど若かった。服装はそれなりに高い生地を使った高級品だったけれど、邸宅の中だからか邪魔な装飾がなく単調だった。けれど、そんなことさえも父上の美貌と一緒ならラフな魅力になってしまうほどだから、美貌というのは本当に恐ろしい。アルカの可愛らしさも父上に似ていると思うと納得できる。
まぁ、私も娘として父上を愛しているのは事実だし。ここでは父上に手を差し伸べておこうか。
「お久しぶりです、父上。お会いするのが楽しみだったんですの」
「久しぶりだねテリア! 本当に会いたくてたまらな――ゴホン。よく帰ってきた」
父上はまた私に飛びつこうとしたけど、母上が鋭い眼差しで睨んだためやめた。お二人とも相変わらずだね。
「飛びつきたいのなら後で私にしてくださいね」
……いや、母上のツンデレムーブはさらに進化したようだ。
とにかく、公爵家らしくない大騒ぎはそれで終わった。父上は書斎の机に戻り、一層落ち着いた顔で私を見た。
「で、テリア。重要な用件があると言ったよね」
ゾッと。
空気が一変したのを感じ、私とアルカは同時に唾をごくりと呑んだ。
やっぱり歴代最高のオステノヴァ。感情の転換が恐ろしいほど早い。落ち着いて淡々としている外見だけど、ただ一つのミスも許さないという殺伐さが感じられた。
もちろん、私への殺伐さではない。ただ娘の言葉を何一つ逃さず分析し、最善の助けになるために真心を尽くすことが、不本意ながら相手を緊張させるだけだ。
「はい、父上。そして母上にも。申し上げたいことがあります」
「言ってみなさい」
唾をもう一度呑んで、深呼吸を深く一回。そう心を整理した後、私は話を始めた。
この世界にテリアとして生まれる前、私は異世界の人間だったということ。そこで死に、テリアとして生まれ変わったということ。その世界には『バルセイ』というゲームがあったことと、そのゲームの内容がこの世界と私たちの……アルカの話だったこと。そして『バルセイ』の内容の中で私とアルカと関係があるいくつかの事実。
『バルセイ』のすべてを語ることはできない。説得できるかはともかく、単純に内容が多すぎるから。そのため、今必要なものだけを簡略に伝えた。
最後まで聞いた後、母上と父上の反応は違った。母上は少し驚いたようで、そして私の悲劇を悲しんでいる様子だった。そして父上はどうかというと……何も感じられない表情で、静かに私を見つめていた。
父親としての愛情に満ちた視線とは全く違う眼差し。まるで品評のように感じられたりもした。多分父上の頭の中では私の話が事実かどうかを綿密に分析しているはずだから、間違った感想じゃないだろう。
やがて父上が口を開いた。
「簡単に信じるには難しい話だが、根拠を聞く前にまず一つ聞きたい。今急にその話をする理由は何なのかい?」
これは予想していた質問だ。内容の信憑性も問題だけど、なんでこんな話をするのかも重要な問題だから。
でも私が答える前に、父上が先に正解を口にした。
「君の言う通りなら、今はもうあの『バルセイ』という話が始まった状態だね。……早く話せなかったことは理解できるよ。そんな話を簡単に信じてくれるとは思えないし、適当な根拠を提示するのも難しかっただろうからねぇ。しかし、今それを僕に言ったということは、それだけの目的があるということだよね。僕の……オステノヴァ公爵の権力は良い口実になるはず。ちょうど君が言ったことの一部は公爵の権力があれば本当に役立つだろうから」
「やっぱり父上はすごいです。全部その通りです」
「久しぶりに会った可愛い娘が全然可愛くない話をしちゃって悲しいねぇ。誰に似てあんな子になったのかよまったく」
「貴方ですわよ貴方。何を白を切っているんですの?」
「でも美しい顔は貴方に似ているじゃん」
「……お二人。愛情表現は後でお二人で別々にしてくださいませ」
私がツッコミをすると、父上は咳払いをした。
「そう、テリア。意図はわかった。しかし、簡単に信じがたい話だね。君も知ってるよね?」
「はい」
「可愛い娘の言葉だとしても、何でも信じてくれるわけではないんだよ。まして公爵としての権力を使う問題ならなおさら。理解してくれると信じている」
「もちろんですの。私も同じ立場だったら同じ結論を下したでしょう」
「ありがとう。そんな君だから、僕を説得するための準備はもうできているよね? 言ってみなさい」
ここからだ。
言い出した以上、必ず父上を説得して協力を得ないと。
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