帰郷
これはいつぶりの帰郷なのかしら。
この頃は邸宅に帰ったことがなかった。オステノヴァ公爵領の邸宅で生まれた私にとって、故郷とはすなわち公爵家の邸宅と領地そのもの。というわけで久しぶりに故郷の土を踏むこともあって、思ったより感傷的な気分になった。
私の傍にいたアルカもそれを感じたようだ。
「そういえばお姉様は久しぶりに帰宅されますね。父上も母上もとても寂しがっていました」
「お二人には申し訳ないことをしてしまったわね」
「自覚されていれば結構ですよ」
アルカってば。いつの間にか私をあんなにからかうことに慣れてきたわね。
今回の帰郷に同行したのは妹のアルカと私たちの使用人だけ。友達を紹介しようかと考えたりもしたけど、今回は別に必要ないようで省略した。しかも父上のことを負担に思う人もいたし。
……人の父親に失礼でしょ、それ。
とにかく、久しぶりに実家に来た。父上と話すのが目的だから、父上の帰りに合わせて。多忙な父上は邸宅に泊まることが珍しい。なので日程を合わせるのにちょっと苦労した。
「いらっしゃい、テリア。すごく久しぶりだね」
邸宅に着くやいなや母上が私たちを迎えてくれた。公爵夫人にもかかわらず、邸宅の外まで出てくださった。母上の優雅で美しい姿を見ると、家に帰ってきたという実感が湧いた。
「母上、帰ってきました。その間ご無沙汰しておりましたでしょうか」
「フフ、私はいつも元気よ。けれどご無沙汰の挨拶に違和感を感じないほど貴方の顔を見なかったのは残念だったわ」
「申し訳ありません。あれこれやることが多かったですの」
「知っているわよ」
母上は気兼ねなく私を抱きしめてくれた。母上の胸は相変わらず暖かかったけれど……以前は母上の胸に顔を埋めていた私が、今は母より背が高くなっていることに少し妙な気分になった。母上も女性にしては背が高い方なので差は少なかったんだけど。
……いや、別に帰宅がそこまで遅れたという意味なんじゃないわよ? ただ母上とこのようにハグするのがとても久しぶりで、ハグのおかげで改めて年月の流れを実感しただけだから。
ハグを終えた後、母上は私の頬を優しく撫でた。母上がいつも塡めている手袋の感触がかゆかったけど、その手に込められた愛情が感じられたので気持ちよく感触を感じた。でも母上はただ愛情を表現するために私の頬に手を出したのじゃなかった。
母上と目が合った。母上が何を見ているのかを私が気づくのと同時に、母上が優しく微笑んでくれた。
「本当に……早かったわね。それだけでも貴方がどれほど苦労したか分かるわよ」
「そう言ってくださるだけでも元気が出ます」
やっぱり母上はご存知なんだ。まぁ、母上なら知らないはずがないわね。顔だけ見ても私が今どんな状況なのかはっきり見えるから。
私の次はアルカの番だった。彼女は自分から先に母上に飛びついた。
「母上! 行ってきました!」
「フフ、アルカはいつも可愛いわね。テリアも貴方をもう少し見習えばいいのに」
母上とアルカの挨拶は平凡だった。ハグの後、お互いを見つめ合って微笑むこともいつもあったことだ。けれどそのように眺めていたところ、アルカは突然目を丸くして母上の顔をじっと見つめた。そしてしばらくして。
「……あ!」
アルカの遅い驚愕に私と母上は同時に苦笑いした。
「テリア。すぐ旦那様を見るの?」
「父上はどこにいらっしゃいますか?」
「書斎で働いているわよ。貴方も知っているでしょ、彼は仕事が多いから。実は今帰ってきているのも久しぶりに貴方を見ようと無理して時間を作ったわよ。その代わりとして家でも働く羽目になってしまったけれども」
母上はため息をついた。
父上と母上は結婚してすでに数十年が経ったけれど、依然として情熱的にお互いを愛している。けれど父上は忙しい。母上も父上と一緒に過ごせる時間が少なくて残念なんだろう。
「すぐにお会いできるのであれば、まずご用件から申し上げたいと思います。父上と母上との時間はその後でよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。貴方が重要なことだと言ったから、旦那様も絶対に先に時間を作ってくれるはずよ。旦那様の仕事も残りわずかだけど、久しぶりに会う娘の用件なら何より優先だからね」
「ありがとうございます」
「フフ、ありがたいことはないわよ」
私たちはすぐに父上の書斎に向かった。途中で会う使用人たちとも嬉しく挨拶しながら。前世の記憶を思い出す前の私が迷惑をかけた使用人もたくさん残っていたけど、みんな私を見るやいなや優しく微笑んでくれた。
なぜか、アルカは意気揚々と胸を張った。
「やっぱりお姉様はモテるんですね!」
「そうね。ありがたいことよ」
人気があるのじゃなく、ただ仕える家の一員だからよ……と言いたいんだけど、さすがの私でも謙遜に限りがある。いや、それ以前に、こんな問題での過度な謙遜は私のことを好きでいてくれる人たちにも無礼な行為だ。
そんなことを考えているうちに書斎の扉の前に着いた。
いざ到着してみると緊張するわね。前世と『バルセイ』のことはすでに一度話したことがあるけど、その時は半分くらいイシリンが無理やり押し付けたことであった上、感情も平坦じゃない状態だったから。冷静な状態で私が意図して話をするのはイシリンの時を除けば初めてだ。しかもその対象が父上だなんて。父上という点は大丈夫だけど、オステノヴァ公爵という点が問題よ。
しかし、今さらキャンセルしたくなるほどではない。
「ご主人様。テリアお嬢様がいらっしゃいました」
邸宅の執事が扉をノックしてくれた。父上が入ってこいと言った。母上が先に書斎の中に入り、私がすぐ後を追った。
実に、実に久しぶりに会う父上の顔がそこにあった。
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