イシリンの提案
「あ、そういえばアルカ、現場実習っていつだっけ?」
「まだ数週間ほど残っています。それはどうして?」
「実習が始まる前に相談したいことがあって。……貴方のお父さんを引き込むのはどう?」
「父上をですか?」
「そう」
この世界で呪われた森のことを最もよく知っている人。公式的な記録や公認はいないけど、一人だけ選んでみろって言われたらそれはきっとオステノヴァ公爵なんだろう。
そもそもテリアたちが使う、呪われた森の真ん中にある基地を作ったのが現オステノヴァ公爵だ。その基地の設立目的は呪われた森の研究。そこまで入っただけでなく、基地まで立てて研究した存在はオステノヴァ公爵が唯一だ。彼がどこまで知っているかは私にもわからないけど、少なくともその森をそれほど研究した人間が他にいないことは知っている。
アルカはいい考えだって言うように手をたたいた。
「そうですね! 父上は十年ほど森を研究していたと聞きました。そして森の地理や構造についても、かなり深く探求されたそうです。お姉様が探そうとしているものも父上ならきっと助けてくれるはずですよっ!」
「そしてこれからのすべてのことにもね」
「……あ~……」
アルカは今度は苦笑いした。私の話がどういう意味なのか気づいたようだね。
これからますます困難なことが起こり、権力と権限があればもっと容易になるだろう。そしてテリアはこの国の最高権力集団である四大公爵家の一角に属している。最も引き込みやすい権力が目の前にあるのに、それを掴まないのは無駄なだけよ。
もちろん、テリアが公爵を引き込まなかったのには理由がある。別に彼女がバカだからであるか、あるいは危険なことに家族を引き込めたくないという安易な欲のためではない。ただ話しても信じてくれない可能性が高いという点のためだった。
けれど、これまでテリアは多くのことをしてきた。さらにロベルを通じて公爵家の人を使ったことも多く、オステノヴァ公爵はそのすべてを知っている。そしてテリアはすでに友人たちに自分のすべての秘密を明かした。これまでのテリアの歩みを見守ってきた公爵に秘密を明らかにする覚悟も可能だろう。
「テリアに直接提案するつもりよ。アルカ、貴方も一緒に主張してね」
「もちろんそうしますよ。でもお姉様が受け入れてくれるんでしょうか?」
「話し方次第でしょ」
テリアは論理さえ十分なら何でも受け入れてくれる奴だから、根拠さえしっかり準備すればいい。
そうしてこの話を締めくくり、残り時間アルカの練習を助け続けた。
***
「父上に?」
「そう。テリア、貴方も知ってるでしょ。今回のことは貴方の父上に手伝ってもらえると思うわよ」
「……ふむ」
イシリンとアルカという珍しい組み合わせが私に提案をするってどんな内容かと思ったら、少し予想できなかった話題だった。
父上か。確かに父上は呪われた森に基地まで設置して研究をしていた。以前言われるには、直接森の中を歩き回りながら地理や構造まで確認したという。今回森を調べることに決めた理由を考えると、父上に助けを求めるのは極めて合理的で効率的だ。
ただ気になるのは……。
「父上に『バルセイ』のことを言えって?」
「いい考えじゃないの? これから起こることを私たちだけで解決するのにも限界があるでしょ。貴方も知ってるじゃない」
「それはそうだけど、父上を説得できるか分からないもの」
特に父上が厳しすぎたり、近寄りがたい御方ではない。
対外的にはいろんな意味で恐れられている御方だけど、家庭での父上はとても優しくて良い御方だ。忙しくて屋敷に戻れない期間が長くなると、愛する妻や娘たちに会えないって一人勝手にメンタルダメージを受ける御方だから。むしろそのような期間が過ぎた後に帰宅すると、愛が重すぎて面倒になるほどだ。
けれど、仕事に関わると話が全く違う。特に政治や権力を活用することになれば、適当な根拠と論理がなければ決して動かない。愛してやまない娘が相手でも例外はない。
そんな父上に助けを求めるには、『バルセイ』と前世のことが事実だということをきちんと説得しなければならない。それができなければ、父上は娘の可愛い冗談にただ微笑むだけだろう。
でもイシリンは少し考えが違うようだった。
「一年生の時の邪毒陣や邪毒獣出現事件を予見したことを根拠として使いなさい。そして今回の呪われた森の調査を利用しよう」
「利用って?」
「賭けをかけて。森の調査がどうなるか予測して、それが実現したら貴方の記憶を信じてくださいって言っちゃえ」
「根拠を先に提示するのじゃなく、根拠発見可否を説得の材料として使えということ?」
うーん……それならできるかもしれない。
邪毒陣の発見や邪毒獣の出現には確かに使える余地がある。当時、私が先に何かを予測して行動して発見に至ったことを父上は知っているから。その予測の根拠が私の前世と『バルセイ』の記憶であり、今回もそれを基盤に森を調査するって言ったら。父上も無理のない線で力を貸してくれるはずだ。
「でも森で何を発見するかがはっきりしないわよ。そもそも今回の調査は『バルセイ』になかったことを調べるのだから」
今度は私さえも何かを〝疑う〟ことに過ぎない。明確な根拠がない。だから父上に提示するほどのことも明確じゃない。
でもイシリンは首を振った。
「燃える海と北方の大陸のことを話してみて。『バルセイ』とこの現実の違いを説明して、前にそこらへ行った時に収集した資料も活用すれば何とかなると思うわよ」
聞いてみると私が先に説得される気分だね。
私は苦笑いしてしまった。イシリン、たまに本当に元邪神神なのか疑わしいのよ。あれも始祖様の影響なのかしら?
「わかったわ、一度言ってみるわよ。話してみる程度は何の損でもないからね」
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