感情のあやしさ
それを聞いた瞬間、私は我慢できず眉をひそめてしまった。
憎い。この流れでその対象が誰なのかはあえて推測する必要もないだろう。アルカが申し訳なさそうに泣きべそをかいているのを見てもそれは明白だ。
けれど、それがアルカの本心であるはずがない。
この子と直接交流した年月は短いけど、テリアの中で長い間この子を見てきた。だからこそ自信を持って言える。さっき『バルセイ』のことを気にしないと言ったのはアルカの本心だった。彼女は本当にテリアの堕落と私の存在を結びつけていなかった。ところが突然何かが起き、彼女は強烈な感情を感じたまま座り込んだ。
それが不本意であったことは明白だった。もしこのすべてが私をあざ笑うための演劇なら、むしろ騙されてあげるのが礼儀じゃないかと思うほどだった。とにかく彼女自身も今の状態が不本意だろう。
私が眉をひそめたのは彼女の感情への不満のためじゃない。彼女にこのように気を使わせた誰か、あるいは何かに向けた敵意だった。アルカは大切な友達であるシエラの子孫であり、今の私の友達であるテリアの大切な妹なんだから。
「ご……ごめんなさい、私は……」
「大丈夫。本気じゃないってことくらいは知ってるわよ」
アルカはわけの分からない憎しみを感じながらも、一方ではそのような気持ちを抱いていることを申し訳なく思っていた。私としてはむしろその気持ちだけでも感心してありがたいのに。
しかし、一方では苦笑いが出た。
「私のことを本気で恨んでもいいわよ。私自身、それについて責任を感じているから」
「で、でも……」
「貴方がどんな子なのかはよく知っているの。そんな気持ちを感じてもおかしくないというのも。だから本当に大丈夫」
アルカは姉をとても愛している。そのため、ただ話として聞いただけの『バルセイ』のことにもすごく怒ったり悲しんだりした。そして彼女の反応を最も激しく引き出したのは当然テリアに関するものだった。
『バルセイ』のテリアにはハッピーエンドがなかった。しかも彼女の一番正しい結末は他でもないアルカの手で死を迎えること。そんな結末をアルカが納得するはずがない。できるなら、すべてをなかったことにしたがるだろう。
「貴方が私のことをどう思っていようが、私が貴方を悪く思うことはないわ。だから憎みたいなら好きなようにしてもいいわよ」
「そんなことするはずがないでしょう!」
アルカは興奮して立ち上がった。強い意志が瞳の中で輝いた。混乱していた様子はかっとした感情に押されて消えた。
でも彼女は叫んだ直後、不審そうな表情で自分の身を見下ろした。
「え……?」
「どうしたの?」
「消えました。そのイライラする感情が」
「……そう?」
だんだん怪しいわね。
ひょっとして『隠された島の主人』の介入じゃないかと疑ったけど、邪毒は感じられなかった。元邪毒神だった私はテリア以上に邪毒や邪毒神の気配に敏感だけど、そんな私の感覚でも何も感じられなかった。それなら少なくとも『隠された島の主人』が直接介入したわけじゃないだろう。
いや、そもそも外部の介入なんて全く感じられなかった。私の感覚は本気を出せばテリアさえも凌駕するほどなのに。それがあまりにもおかしかった。
……ふむ。一つ試してみたいわね。やってみようか?
「まぁ、今は無視しよう。わけの分からないことをずっと気にする必要はないからね」
「大丈夫ですか?」
「後でテリアに言ってね。『バルセイ』と関連があるかもしれないから。それよりやっていたことを続けないと」
そう言うと、アルカは決心を固めた顔で頷いた。そして剣を持って姿勢をとった。切り替えが早い点は気に入ったね。
私はわざとアルカを挑発するために好戦的に笑った。
「かかって来なさい。少なくとも私の鱗一枚くらいは切ってみて!」
アルカは正直に突撃してきた。
――天空流〈三日月描き〉
アルカが放った斬撃を、私は腕で防いだ。アルカは目を丸くした。
〈三日月描き〉は精巧に細工された魔力の斬撃。切削力だけは奥義級の技だ。テリアだったら、側面から壊したり避けたりすることは可能でも正面から相殺するのはとても難しかっただろう。
でもアルカの技量なら、私の鱗の防御力だけでもなんとかなる。
「曖昧だね」
アルカの剣を握りしめ、握力で破壊した。練習用剣とはいえ、アルカの魔力が集束されて強化された剣であった。でも私の魔力に打ち勝つことはできなかった。
「ふっ!」
手のひらで魔力を放出した。その衝撃がアルカを吹き飛ばした。私はすぐに彼女を追いかけて手を振った。アルカは〈魔装作成〉で剣を作って防いだけど、力で圧倒され体勢が崩れた。
その後も私は竜の鱗に覆われた腕を何度も振り回し、アルカは〈魔装作成〉の双剣で対応し続けた。腕と剣が衝突するたびに魔力が爆発し、アルカの剣が壊れて飛び散った。私の腕の鱗は傷すらついていなかった。
「せいやぁ!」
それが気に入らなかったのかしら。アルカは眉をひそめながら剣を振り回し続けた。そして私がずっと平気で防御すると、だんだんかっとなるのが感じられた。
そのような攻防の中で、私は一人で静かに考えた。やっぱりさっきのあれはアルカの不本意だったと。
行動を直接ぶつかってみると、どんな感情で動いているのか大体わかる。詳しいことは分からないけど。その感覚から判断すると、今アルカが抱いている否定的な感情はせいぜい子どもらしい悔しさと意地だった。さっきの尋常でない憎しみは少しも感じられなかった。
さっきのあれはいったい何だったんだろう。それがアルカ自身が感じた感情だったとすれば、今それがきれいに消えたのがおかしい。けれど、外部の介入というには何も感じられなかった。
……どうやらもっときちんと調べる必要があるだろう。
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