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エピローグ 一段落

 完全復活!


 三日後に完治した私はついにベッドから出ることが許された。初日をまるまる眠りで過ごしたけれど、二日もそのまま横になって世話されながら暮らすのはとても負担だった。


 でもそれももう終わり!


 私を待ってくれたトリアとロベルを振り返りながら爽やかな笑みを浮かべた。


「みんなごめんね。心配かけてしまって」


「よくご存知ですね。次からは気をつけてください。いや、そのまま次を作らないでください」


 鋭い!


 トリアは全然爽快ではなかった。それどころか、疑いに満ちた眼差しで私を圧迫していた。こう言ってもお嬢様はまた突進するでしょう、とその目が言っていた。眼差しで私を刺すように肌がヒリヒリするのがとても怖い。


「今からまた無理をしようとしているんじゃないですか?」


 ロベルの目も何か冷たい。『バルセイ』で私に対する愛情をあきらめ憎悪を抱いた姿を思い出させた。


 怖い!!


 でも今回は私が悪いことをしたわけではないから、私を憎んでいるわけではないだろう。……そうだと信じたい。しかし、気苦労をさせたのは事実なので自信がない。


「いや、やらないわよ! 私もすごく痛かったの! またそういうのは嫌だ」


「だから痛くならないようにもっと強くなると思うでしょう」


 うぐっ!?


 トリアがとても辛辣だ。しかも容赦なく壺に嵌まっている! いや、確かに反省もしなくそう考える私が悪いのかもしれないけれど!!


 私がブルブルしているのを見たトリアはため息をつき、表情を和らげた。


「止めても聞かない御方だということは飽きるほど知っていますからね。代わりに私は自分なりに動くようにします」


 自分なりにというのは一体何だろう。


 何かすごく気になったけど、トリアはニッコリ笑うだけで教えてくれなかった。あ、あれ絶対言わないって顔だわ。


 負担になって話題を変えることにした。


「そういえばまだ聞いてないわね。ジェリアから聞いたの。助っ人が手伝ってくれたおかげで講堂に早く入ることができたって? その助っ人は誰なの?」


「あ、それですか? ラダス卿でした」


「!?」


 初耳だけど!? いや、今初めて聞いたから当然だけど。


 私も少し驚いたけど、隣でロベルがかなり素晴らしいリアクションを見せてくれたため、思わず表情管理をしてしまった。


「あの人が? 急にどうしたの?」


「敷地全体を歩き回りながら安息領を討伐したようです。おかげで制圧が早く終わったと聞きました」


「姉貴、あの人北門の方には来なかったんですが」


「そこまでは私も知らない」


 ……多分対外的なイメージのためだろう。


 引退したとはいえ、かつて伝説的な騎士だった人だ。しかも心理的な理由で引退しただけで、実力はずっとそのままだ。今回のことが起きた時、じっと見守ってばかりいても良いことはない。過去にも何度かそういうことがあったたびに直接乗り出したという記録もあるし。


 まぁ、それが自分が襲撃を指示した自作自演なのかは『バルセイ』でも出なかったから分からないけど。


 北門に行かなかったのは結界を貫いた人……多分ボロスでしょ。彼に会わないためだったのだろう。ボロスはその状況でも躊躇なく話しかける迷惑人間だから。


 私は思わず笑ってしまった。


「ちょうどよかったわ」


「はい?」


「今からその人を訪ねるつもりだったの」


「えぇ!?」


 実は戦闘が終わってすぐ話をするつもりだったけれど、私がその格好だったから。


「急にどうしたのですか?」


「少し話したいことがあって! 説明は後でしてあげるわ!」


「お待ちください! お嬢様! またあんな……!」


 トリアの抗議を無視して、私は速く走った。ただ話をするだけなのに心配も多いわね。


 ……何か違和感を感じたようだけど、気のせいだろう。


 


 ***


 


「おはようございます、テリアさん」


「おはようございます、ラダス先生」


 制服のコートの裾をドレスの代わりにして優雅に挨拶して、ピエリが勧めた椅子に座って彼の顔を見た。いつものように穏やかな笑顔の後ろに何も見えない顔だ。


「今日は何の用件ですか?」


「安息領が攻め込んできた時、人々を助けてくれたと聞きました。ありがとうございます」


「いいえ。私が当然すべきことでした。テリアさんこそ強い魔物を相手にしたと聞きましたが、プロの出るべき仕事を生徒のテリアさんに任せたようで申し訳ない限りです」


 穏やかな会話。しかし、相手が自分を疑うということをお互いに知っている状況ではコメディーが他にない。それにもかかわらず、私たちは見る人のいない芝居を続けるかのように見栄を張る。


「ところで、今日はそれを言いに来たのでしょうか?」


「それもあるし、前に申し上げた件のためです」


「前に……ああ、邪毒陣の犯人のことですか?」


「はい」


 話しながら少し彼の気配を見た。動揺したり顔に何かが現れる感じは全くなかった。やっぱり自ら尻尾を出すほどの人間ではない。


「修練騎士団で分かったことはありますか? 警備隊の方ではまだ情報が足りないようでしたが」


「分かった、というほどではありません。ただ簡単な推測程度です」


「素晴らしいですね。推測に明確な根拠さえあれば、いくらでも犯人を追う出発点になり得ます」


「あはは、それくらいかは分かりません。ただ……やっぱり犯人は内部者だと思いますの」


「やはり情報のせいですか?」


「はい。邪毒陣を撤去してから安息領が押し寄せるまで時間間隔が短すぎましたからね。それに……」


 少しためらったふりをして言葉じりを濁した。もちろん、実際にはすでに言うべきことをすべて準備しておいた状態だ。でもそんなに徹底したイメージを与えたくはないから。


 まぁ、別に意味のないかもしれないけど。でも有利な部分は少しでも隠したい。


「邪毒陣を設置したのが単なる外部者というにはアカデミーについてよく知っているようでした」


「地理的な部分ですか? 確かに安息領の動線を見れば、主な戦力はすぐ中央講堂に向かったようですね。他の場所で暴れたのはエサのような感じでもありました」


「あ、それもありますが、私が言ったのは邪毒陣設置自体についてですの」


「ほう? どういう意味ですか?」


「報告書をご覧になったならお分かりだと思いますが、邪毒陣機動の魔道具があったのは時空亀裂の幻想が展示された部屋でした。しかしそこの正確な位置は外部には知られていません。それにその部屋は亀裂の幻想を映し出す分、実際に少しですが本当の亀裂のある所とつながっています。よりによってそのような場所に異空間を作って機動の魔道具を隠したということは、亀裂の位置についても知っているという意味ではないでしょうか」


 その部屋が本当の亀裂とかすかにつながっているのはアカデミーの上層部と外部の一部の高官しか知らない。私は『バルセイ』に出たから知っているだけ。


 そして、その外部の高官の中には私の父上もいる。つまり、私が本来なら分からないはずの情報を知っていることを示すことで、もっと私の後ろに父上がいると疑うだろう。


「一理ありますね。それでは、その情報を知っている人に候補が絞り込まれるのですか?」


「まだそこまでは分かりません」


「ふふ、それでも大きな成果ですね。対象が絞り込まれば、行動を監視したり、情報を収集したりするのにも良いでしょう。私がお手伝いすることがあれば気軽に話してください」


「ありがとうございます」


 そうして話を終え、ピエリの研究室から出てきた。


 ピエリが自分も監視対象に含まれていることを知っているかどうかは分からない。勤続は古いけれど、アカデミーで彼は時空亀裂と関連した仕事に参加する立場ではなかったから。


 もちろん実際には大英雄の名声を利用して過去の亀裂と関連してどんな交流があったという言及がゲームにあり、亀裂や幻想の部屋に対することも知っていた。しかし表面的に彼の地位は一介の教師に過ぎず、どんな交流だったかはおろか交流があったということ自体も現実には隠されている。


 けれども……なんていうか、ピエリの笑いが妙に気になる。なんとなくどうなっても構わないと思っているような気がした。どうしてそんな気がするのかは分からないけれど。


「お嬢様」


「きゃあ!」


 び、びっくりした!


 思わずビクッとしながら横を見ると、何もなかった所からまるでベールがはがれるようにロベルが現れた。どうやら『虚像万開』の能力で隠れていたようだった。


 彼の特性である『虚像満開』は幻想界の上位能力で、ないことを見せるだけでなく、あることを隠蔽することもできる。敵をだましたり、どこかに潜入するにはこれほどの能力もない。


「急に何なの? もしかして研究室にも入ってきたの?」


「はい」


 ピエリが気づいたらどうするの!!


 そう思ったけれど、よく見ると彼は小さなブローチ型の魔道具を着用していた。空間隔絶を応用して完璧に魔力の気配を遮断する魔道具だった。発動した後、魔力を使おうとするとすぐに解けてしまう物ではあるけど、『虚像満開』で姿を消してから魔道具を発動させればピエリのような者さえも欺くことができる。潜入にはこれほどのものがない。


「なんでついてきたの?」


「また何が起こるか分かりませんから。お嬢様は全快したばかりなので」


「過保護がひど……いや、何でもないの」


 文句を言いたかったけど、その瞬間ロベルが怖い眼差しで私を睨みつけたのでやめた。


「全部聞いたの?」


「はい」


 どうしよう。私にこっちの事情をペラペラと話すバカだと思うならどうしよう。


 心配でびくびく顔色を伺ったけれど、ロベルはむしろそんな私に不思議だという視線を送った。


「どうしたんですか?」


「あの……さっきの話についてどう思うの?」


「何も考えていません」


「え?」


 考えがないって? それはそれなりに意外だけど。


 しかし、ロベルは肩をすくめて大したことないという口調だった。


「お嬢様にはお嬢様の考えがあるでしょう。お嬢様が人を当惑させることはありますが、意味のないことはされないですからね」


「ちょっと待って。当惑させるってどういうこと?」


「本当に説明をほしいですか?」


「……遠慮するわ」


 助けて、イシリン。ロベルが私をいじめる。


【自業自得よ】


 ……味方がいないわね。


 とにかくそんな感じで今回の仕事は終わった。


 けれども、今回のことはあくまで『バルセイ』のストーリーが始まる前にあった過去の事件を一つ予防した程度であり、それさえも完全ではない。当事者のピエリがまだアカデミーにいる限り、別の方法であの事件を起こすかもしれない。それ以外にも、どんな手品を使うかも分からないし。


 ピエリのこと、まだ会っていない攻略対象者たち、そして『バルセイ』の悲劇が本格的に始まった以後のこと――これからすべきことを考えながら、私は心を引き締めた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

テリアが言った事件が気になる! とか、次の話が楽しみ! とか、とにかく面白い! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークを加えてください! 力になります!

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