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注目の理由

『バルセイ』で呪われた森の浄化作戦を開始した理由。それは森がだんだん弱くなっていたからだった。


 呪われた森は遠い過去に邪毒災害が発生した場所だ。その影響であまりにも濃い邪毒が広い森を完全に掌握し、今でも残っている場所。それが呪われた森の正体だ。けれど森の邪毒はただ多いだけで、無限ではない。そして邪毒を放っておけば、この世界が少しずつ自浄してなくする。


 イシリンが封印されていた洞窟はイシリンがいたため、邪毒が供給され続けた。反面呪われた森にはそのような供給がない。そのため、森の邪毒は長い間少しずつ消えていき、現代に至っては過去に比べてかなり弱くなった状態だった。そのためバルメリア王国上層部は弱くなった森を大規模に浄化して正常化させることにしたのだ。


 けれど、今生の森は違う。なぜか弱くなっていった森の邪毒がまた濃くなったのだ。まるで邪毒を供給する何かが現れたように。


【その時期が本当に変だったわね】


 イシリンが私の中で言った。私は小さく頷いた。


[呪われた森の邪毒がまた強くなった時期は、ちょうど燃える海や北方の大陸を邪毒神が占拠した時期と一致したわよ]


【それで森の邪毒をまた強くしたのが邪毒神の仕業じゃないか。そう思っているでしょ?】


[そう。それを調べないと]


 今の浄化作戦はきっかけが少し違う。弱くなっていった森がまた強くなったのを見て、いつか森の邪毒が氾濫して周辺を襲うことを警戒している。そのために無理をしてでも森の危険を除去しないとという意見が台頭し、そのための事前調査が今回の調査任務だ。


 正直、本当に邪毒神の仕業なのかは私も知らない。私も森の邪毒がまた強くなったということは先日知ったところで。それを調べるためにも、今回作る魔道具は重要だ。


 私一人で行くならいらないけど、みんなと一緒に行くためには必ず。


「行きましょう。用事を終えた後にもう少し自由時間を持つから」




 ***




「テリアさんの意見は確かに一理あるね」


 アカデミーの教室を借りて書類を整理していたところ、ふと私の口から言葉が流れ出た。


「何だ、ケイン。疑っていたのか?」


 ジェリアは眉をひそめた。相変わらずテリアさんに対しては敏感な奴だね。私は苦笑いした。


「疑ったんじゃないんだ。呪われた森の邪毒をまた強化したのが邪毒神の仕業だという判断に根拠になる要素を探しただけだ」


「その根拠を探るためにテリアが現場実習場所をそこに決めたのだが。ところでもう見つけたのか?」


「あ、期待するほど大げさなことではないよ。ただ、ある程度参考にはなるだろう」


 ジェリアに資料を差し出した。高い上空から呪われた森全体の魔力反応を観測した大規模な術式の結果資料だった。ジェリアは資料を綿密に調べ、眉をひそめた。


「森の中心部の邪毒反応がとても濃くなったな。しかも結界に見える反応があるんだと?」


「そう。先日燃える海や北方の大陸の素材を調べた時に発見したものと似た反応だよ」


 この術式を動員するために父上を説得するのに苦労した。人員と魔道具を準備するために資金も膨大につぎ込んだし。それでも邪毒神の反応()()()()と推定するのが限界だったが、その程度だけでも調査を進めるのに参考にするには十分だろう。


「やっぱりテリアさんはすごいね。情況だけで森が疑わしいということをキャッチして調査を決めるなんて。いくら『バルセイ』の情報というメリットがあるとはいえ、その情報を活用する瞬発力と判断力は尊敬している。私も王子として見習いたい」


 心からの感嘆だった。ジェリアなら友達への好評を誇りに思うだろう。


 ……と思ったが、なぜかジェリアの反応が少し微妙だった。しかも視線を避けてるし。


「ジェリア?」


「……うむ。浮かれているのに申し訳ないが、実は森の調査を提案したのはボクだ」


「え?」


「いや、提案したという表現は間違っているんだな。実際、テリアは君が思ったように優れた知性で森を候補リストに入れた。だがその段階では森はまだ候補地の一つに過ぎなかったぞ。その中で最終決定を下す時、森に行こうとボクが強く主張したのだ」


 ジェリアが呪われた森の調査を主張した?


 ちょっと意外だね。私は候補地のリストを知らないが、ジェリアが森に特に注目する理由があったのは驚くべきことだ。それともリストで適当な場所が森しかなかったのだろうか。


 特に問題はないが、ジェリアの態度が気になった。照れくさそうにグズグズしている姿とは、彼女があんな風に振る舞うのは珍しいことだから。


 ……いや、ちょっと待って。


「ジェリア。まさか森に行こうと主張したのが……森を今の状態に保つこと自体が目的だからか?」


「……バレてしまったのか」


 ジェリアは彼女としては珍しく頬を掻いて笑った。


 森を今の状態に保つ。ジェリアにとって、いやテリアさんの友人たちにとってその意味は明らかだ。森の過酷な環境と魔物が溢れるという特徴を修練に利用すること。その事実を初めて知った時は気が狂ったことだと思ったが、実際にそこで強くなっていく皆を見てみると結局認めるしかなかった。


 その上、そこの基地に設置された拡張結界は激しい模擬戦用途で非常に有用に活用されている。拡張結界はそこでなくても用意できるので、主な理由は外の環境だろうが。


 一言で言えば、ジェリアは非常に有用な修練場所を守るために森の浄化を阻止しようとするものだ。


「……君ね」


 そんなわけが本当にジェリアらしいと思いながらも、私は呆れてため息をついた。ジェリアは苦笑いしながら口を開いた。


「すまん。ボクの欲を優先した結果になったな」


「いや、すまないことではないよ。どうせやるべきことではあるから。ただ……少し心配になるだけだよ」

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