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目的の喚起

「……ありがとうございます」


 一瞬の沈黙の後、ロベルは微笑んだ。かすかな、あまりにもかすかな表情だったので感情がよく見えないほのかな微笑だった。しかし、それがむしろ何とも言えない魅力を醸し出した。


 あっ、こいつ。自覚なしにこんなことをするなんて。いつの間にか油断できない奴になってしまったじゃない。


 でもゆっくり考えた直後、私の顔に浮かんだのは苦笑いだった。


「……まぁ、そんな時間があるかはわからないけど」


「それは……否定できませんね」


 すでに『バルセイ』のストーリーは始まっている。これからは本格的に安息領と対立することになるだろう。


 実は『バルセイ』のストーリーとはいえ、本来なら今年は大きな出来事はあまりない。『バルセイ』のストーリーは私が十八歳の時点から二年にわたって行われるけれど、最初の一年はほとんど攻略対象者を攻略するパートだから。RPG要素と重要な戦闘シーンがあるけど、安息領が関連した事件は一年を通じて三回程度。だからストーリー通りに進めば、しばらくは余裕があるだろう。


 でもそれほど楽観できる状況じゃないと考えている。私だけでなく、私たちみんなが。


 三年前、ケイン王子の視察の時のアジト。そしてピエリの王都テロ。両方とも『バルセイ』では存在しなかった事件だ。その上、プロローグに該当する現場実習場所の襲撃の規模もゲームより大きくなったし、同時にアカデミーを襲撃することは本来存在しなかったことだ。私たちもそれなりにテシリタの工場を襲撃したし、今後も先手を打って攻撃する計画がいくつかある。


 つまり、今後も『バルセイ』では起きなかった事件が起こるかもしれない。


 私たちからの攻撃はともかく、安息領の攻撃は時期を予測することはできない。だから油断してゆっくり過ごせる時間が少ない。


 ロベルも当然知っている事実だ。けれど、彼は微笑んで私に視線を向けた。


「でも安息領も一年中動きを見せることはないでしょう。しばらく外出する時間くらいはまた用意できると思います」


「まぁそうね。その時になったら一緒に歩き回ってみよう」


「楽しみにしています」


 以前なら顔を赤らめてためらったり、執事として相応しくないことだって難色を示したんだろう。けれど、今のロベルはかすかに笑うだけだった。彼の態度もいつの間にか大きく変わった。これが年を取るということかしら。


 思えば、私が前世の記憶を思い出してからもう十年が過ぎた。十年なら山も変わってしまう時間なのよ。ただの人間が、まして幼い少年が育って青年になるほどの時間が過ぎたから、当然ロベルの態度も大きく変わるしかない。


 けれど、その方向性は『バルセイ』での彼とは少し違っていた。それだけは不思議だった。


「さあ、リディア。俺からもお返し」


 一方、あっちではシドがリディアにプレゼントをあげていた。たとえおまけのような扱いだったとしても、リディアが彼にプレゼントを渡したのは事実だ。だからこそシドの方でもお礼をしようとしているんだろう。


「あら、ありがとう」


 リディアはツンツンとしてプレゼントを受け入れた。けれど、背を向けた彼女の顔は少し上気になっていた。


 ……あれ。リディア、まさか?


「……どういうわけかこんなことになりましたが、そろそろ別の所に行ってみましょう。お嬢様の本来の目的もまだ達成できていませんからね」


 ロベルは言った。


 確かに、それぞれお互いに与えるものはすべて選んだ状態だった。もう計算することだけが残っている。今回の外出の本来の目的もあるし、また休憩の観点からも他店にも寄ってみないと。だからそろそろ移動するのがいいわね。


「リディア、シド。そろそろ行きましょう」


 購入した品物の支払いをすべて終えた後、私たちは外に出た。リディアは出てくるやいなや私の腕にまたくっついた。


「テリア、これから何をするの?」


「まずはもともと買おうと思っていたものを先に仕上げにするつもりよ。ちょうどお店が近いわよ」


 魔道具の製作に必要な道具や簡単な材料を売るお店がこの近くにある。本来の目的はそこだった。ちょうど近くに入ったのは偶然だけど。


 歩いている途中でもリディアは声をかけ続けた。


「何の魔道具を作ろうとしているの? まだ詳しく聞いてない」


「私たちの次の計画を考えてみて」


「呪われた森?」


 私は頷いた。


 呪われた森。私が前世の記憶を思い出した後、修練のために大事に活用した場所だ。間もなく騎士団がそこに人員を派遣する予定だ。ちょうどその任務が今年の現場実習派遣候補の一つなので、実習でそれに参加する予定だ。


「でも騎士団がなんでそこに人を派遣するの?」


「浄化のためよ。『バルセイ』では決心して呪われた森を完全に浄化する作戦を遂行したわよ」


「今回の派遣があの浄化作戦なの?」


「いや、下調べ。まず森の詳しい状態と現況を知ってこそ、作戦をきちんと遂行することができるからね」


「その作戦を助けようとしているの?」


 私はニッコリ笑って首を振った。


 普通ならリディアのように思うだろう。でも私の目標は全然違うだ。浄化作戦を()()()()こと、ひいては作戦自体を失敗させることこそ私の目的だ。


 呪われた森はこの国の南の国境にある。その向こうには他の国がある。そことの陸の往来を呪われた森が遮っている。本来、浄化作戦の目的は不毛地を新しい可用土地として確保し、南の国との地上貿易路を新設することだ。


 けれど、『バルセイ』ではそれを利用された。南の国の首脳部を邪毒神が支配してしまい、邪毒神と安息領の合作が作り出した恐ろしい軍勢がこの国を襲撃した。その戦争は多くの人々を苦しめた。


 戦争を防ぐ方法は簡単だ。呪われた森が浄化されるのを防げばいい。


 いくら安息領であっても、入った瞬間に邪毒に浸食されて死んでしまうほど過酷な環境で軍勢を移動させることはできない。浄化魔道具で持ちこたえることはできるけど、少数でもなく大規模軍勢を通過させるには天文学的なお金がかかる。呪われた森が残っていれば、あえてそのような大金を投資しながらそっちの軍勢を動かす理由はない。


 その上、森の任務に同行することにはもう一つの理由がある。

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