脱出と阻止
浄化されていない邪毒の斬撃がテシリタの防御を破壊した。これまでのギリギリの突破とは違う、完全に防御を破ってその向こうに到達した感触がしっかりと感じられた。テシリタの姿も氾濫する邪毒に完全に鵜呑みにされて見えなかった。
しかし、この程度で終わる奴じゃない。
――天空流〈三日月描き〉
邪毒の剣で巨大な斬撃を放った。力をただ全力で放出するだけの先ほどとは異なり、凝縮され鋭く精製された斬撃が氾濫する邪毒を切り裂いた。
でも斬撃がテシリタに到達する前に、巨大な魔力が膨らむ気配が感じられた。
――神法〈魔法創造〉・〈神の懲罰〉
破滅の閃光が閃いた。氾濫する邪毒も、その次に放った斬撃もすべて爆発するように散らばって消滅した。瞬間的に邪毒の剣を体の前に立てて防御した。イシリンそのものである邪毒の剣の力のおかげで正面直撃は避けた。
けれど、閃光の余波だけで右腕が爆発した。
「うっ……あ……!?」
「お嬢様!!」
歯を食いしばって、魔力で右肩の感覚を遮断した。でも大量の魔力で右腕を修復しようとする試みは失敗した。テシリタの魔力の残響が再生を妨げていた。
「……やったな貴様」
まるで地獄の底から恨みの塊が這い出てくるような声だった。
テシリタも元気ではなかった。右肩から股間付近まで斬撃の傷痕が残っており、他にも氾濫する破壊力を全身で浴びたため全身から血をいた。魔女の帽子とマントは跡形もなく消え、服も……うーん、ちょっとギリギリだね。
でもテシリタの魔力は依然として鋭く輝き、魔法陣の規模と速度は相変わらずだった。
「安息領のナンバーツーのオレを邪毒でこんな格好にするとは。二度とない屈辱だ。賞讃してやるぞ、小娘」
テシリタの目が怒りで燃えていた。さっきまでの余裕と油断がほとんど消えた眼差しだった。
閃光が三度輝いた。さっきと同じ破滅の閃光だった。イシリンが最初の一発を阻止するために全力を尽くした。けれど二回目でイシリンの力が完全に相殺され、三回目は邪毒の剣身でやっと受け流した。今度はギリギリながら完全に受け流したけれど……邪毒の剣からピキッと音がした。イシリンは短い悲鳴を上げた。
「邪毒の剣にひびが入った!?」
「何を今更。力を失って剣に魂が閉じ込められた元神なんかを壊せないと思ったか?」
テシリタの傲慢な視線が私を貫いた。
あれは本気の目だ。自分にあれだけの傷を負わせたことへの怒り、そしてそれが可能な相手を敵手として認める判断。傲慢な余裕がなくなり、油断のない敵意が魔力を爆発させた。
「きゃあ……!」
強烈な衝撃が私たちが戦っていた広い部屋を破壊した。それほどの衝撃だから私も無事であるはずがない。けれど爆発直前にロベルが私の前に来て防御膜を展開してくれて、私もその防御膜に力を加えた。おかげで私たちはなんとか持ちこたえた。でも目の前に展開された光景が私たちから言葉を奪った。
空が、見えた。
どうやら私たちがいた所は工場の最上階だったようだ。テシリタが吹き飛ばしたのはその最上階全体だった。テシリタ自身の魔法で強化された工場は私さえも壊すのに時間がかかるけれど、テシリタはただ力を放出しただけで階を完全に吹き飛ばしたのだ。
でもその時、私に思念通信が届いた。
「……!」
ロベルと少し視線を交換し、頷いた。
テシリタは私たちの無言のコミュニケーションを気にしなかった。ただ腕を上げて魔力を展開するだけ。
「もう殺して……」
「用事終わったわ!」
ロベルと共に魔道具を起動した。転移の魔道具だった。テシリタが目を丸くする姿が一瞬見えたけど、すぐ目の前の光景が一変した。
先ほど受信した思念通信はテシリタが避難させた人員の追撃と生け捕りおよび設備破壊を完了したという内容だった。私とロベルがテシリタと戦っている間、他のみんながそれぞれの戦闘を終えた後テシリタの魔法の痕跡を追跡したのだ。疲れた様子が感じられたのを見ると、そっちもかなり侮れない相手に会ったようだ。けれども、誰も脱落はしなかった。
私たちの目的はテシリタとの戦闘じゃなく、工場の無力化だ。すでに目的が達成された以上、命がけでテシリタと死闘を繰り広げる必要はない。
転移が終わり、みんなの姿が見えた。一人も欠かさず撤退に成功した……って思ったのに。
「ここは……」
「危ないわよ!」
反射的に振り向いて邪毒の剣を振り回した。私の力とイシリンの力が入り混じった斬撃が風景を染めた。
突然飛んできた巨大な魔力の塊は、それだけでは相殺されなかった。そもそも相殺できるとは思わなかった。だから受け流すことだけが目的であり、それは成功した。でも破壊力の影響が地面を荒した。
顔を上げると工場が見えた。距離は少し遠かったけれど、まだ私たちは工場周辺から抜け出せずにいるのだ。
そしてその工場の上に……巨大な魔力の形状があった。工場よりも巨大なそれはテシリタの姿をしていた。その巨大な形状が私たちを睨みながら口を開いた。
「くだらない転移の魔道具などでオレから逃げられると思ったか、ネズミども。笑止きわまりない」
心の中で悪口を言う暇さえなかった。巨大な、あまりにも巨大な魔弾が突然飛んできたのだ。魔弾というより隕石の直撃に近かった。
「はあああ!」
他の人の行動を待つ余裕なんてなかった。邪毒の剣と『天上の鍵』の力が隕石のような魔弾を弾き飛ばした。やっと成功したけれど、魔力の余波が私たち全員を押さえた。私以外のみんなが地面に倒れてしまった。
テシリタは興味深がる目で私を見た。
「幼いガキの可愛らしいしぐさがなかなかだな。その力に誇りを抱いて死ね」
鋭い殺意が完全に私に向けられた。多分テシリタの目に他のみんなは見えないだろう。どうせ彼女が本気で私を攻撃すれば、他のみんなは余波だけで殺されるから間違った判断ではない。
「て、テリア……」
押さえつけられて動けないくせに、みんなの心配そうな視線が私の背中に刺さった。
……大丈夫。まだ方法はあるわよ。
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