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シドの視線

 シド・コバート・ハセインノヴァ。いつも成功の可能性に満ちた俺の名前だ。


 もともと俺は期待されていなかった子だった。性格も暗殺や秘密工作には向いていないと言われており、特性は大地系の最上位である『地伸』。それ自体は強力だけど、ハセインノヴァは暗殺や秘密工作を得意とする公爵家なので相応しくなかった。


 しかし俺はあきらめず、必死の努力ですべての評価を覆した。仕事をする時の精神武装は完璧で、『地伸』は今は最もハセインノヴァに適した特性だという評価を受けている。俺をこき下ろして迫害した兄弟姉妹たちはもう俺を妬んで俺の顔色をうかがうことに余念がない。


 それが俺の誇りであり自信だった。他人が俺を仰いだり嫉妬するのを楽しむのではない。良くない評価だけを受けていた俺の価値を努力で高め、認められたという事実が俺の自負心だった。そのようなことが繰り返され、俺はますます何でもできる人だという自信がついた。


 ……それを最初に否定したのはテリアだった。


 邪毒獣事件当時の頼み。その時は理解できないまま強引に従っただけだけど、今ならわかる。彼女は俺の過ちを『バルセイ』で見て、この現実で同じ過ちを犯すことを望んでいなかったと。そして当時の事件の流れと彼女の知識をもとに考えれば、俺は認めざるを得なかった。


 完璧でない自信は傲慢なだけ。いつか周りを傷つける毒になる。


「……チクショウ。強いの殴られたって走馬灯の真似をしやがって」


 唾を吐きたい気持ちで唾の代わりに言葉を吐いた。唾を吐いたらまた俺の顔に落ちるから代わりに言葉で言っただけだけど、おかげで少し気持ちがすっきりした。


 むちゃくちゃ痛いな、クソっ。悪口や乱暴な言葉はなるべく言わないようにしたけど今だけは仕方ない。


 体を起こして周りを見た。広い部屋の床と壁が真っ黒に焼かれ、遠くにリディアとトリアが倒れていた。そして彼女たちと俺の間の真ん中にキメラが立っていた。


 ……リディア。


 実は邪毒獣事件の時、俺はテリアの頼みに背くところだった。それを防いで俺を責めた者がリディアだった。彼女には明確な根拠があったわけではなかったけど、その時の彼女の態度と結果は印象的だった。


 俺は自分を信じて失敗するところだったし、リディアはテリアを信じて俺を止めることができた。


 その信念の違いはテリアの知識よりも俺にとって印象的だった。俺にとって確信とは自分自身を信じてこそ可能なものであり、他人だけを信じて行動するということは自信がない人の特徴だと思ったからだ。


 その程度の信頼と確信を与えたテリアにも興味があった。だけど、何よりも自分ではなく他人を信じながらもあれほど確信に満ちた態度を堅持できたリディアのことがとても興味深かった。他の人々に比べてテリアたちとの縁が浅い俺がずっと彼女たちと一緒に行動するのもリディアの………いや、テリアたちの姿を見守りたいからだ。


 ……俺を叱っていたリディアの姿が可愛いとか面白いとかは思わなかった。絶対に。


 とにかく、俺に興味と悟りをくれたリディアが倒れていた。そしてキメラはそっちに飛びかかろうと姿勢を取っていた。


 それだけでも腹を立てるには十分だった。全身のやけどと打撲傷の痛みを忘れるほど。


 ――ハセインノヴァ式暗殺術〈鬼の歩み〉


 ハセインノヴァは怒っても咆哮しない。静かに、密かに、誰も知らないうちに。キメラが俺の進撃に気づく前に、刃が奴の首を深く切った。


「クルッ!?」


 キメラは反射的に拳を振り回した。俺の頭があったところを奴の拳が荒らした。しかし、その時すでに俺は身をかがめた状態だった。〈極の線〉の鋭い斬撃が奴の足首を切断した。すぐ再生するとしても、今すぐバランスを崩して倒れることは避けられない。倒れる奴の背中を手のひらで殴った。


 ――ハセインノヴァ式暗殺術〈内破・心臓壊し〉


 魔力の衝撃波が奴の皮膚を通過して心臓を直接打撃した。強化された魔物の心臓はこれほどで止めるものではない。でも奴をしばらく麻痺させることは可能だった。


 その瞬間、赤い宝石の魔弾がキメラの額に命中した。俺は倒れる奴の下から急いで抜け出した。振り返ってみると、上半身を起こしたリディアが銃を手に持っていた。トリアはすでに両足で立ち上がっていた。


「リディア?」


「時間を稼いでくれてありがとう」


 二人とも調子が悪かった。それを見ると俺も興奮でしばらく忘れていた苦痛が改めて感じられた。しかし、俺たちは皆戦闘続行ができないほどではなかった。


 トリアはしばらく倒れているキメラを見て口を開いた。


「大体の構造はわかりました」


「俺も分かる気がするよ」


 トリアの言葉に俺は同意した。リディアも頷いた。


 おそらくキメラは耐熱性が高いわけではない。火に耐えたのではなく、火を吸収して火力を揉み消したのだ。火力による被害を完全に防げなかったのは吸収能力が完璧ではないからだろう。そして俺たちに重傷を負わせた破壊の怒涛の正体は吸収した火の魔力を放出したことだ。


 ちょうどキメラが起き上がろうとしたので、すぐに奴の首を切った。いや、切ろうとした。しかし奴は突然体を横に回して拳で俺を殴った。すぐに体を後ろに身をかわして衝撃を減らしたけど、かなり痛い。チクショウ。


 正体はわかったけど結局対応する方法はない。リディアとトリアの火力が封印されたも同然で、俺にできるのは狭くて深い怪我だけ。あんなに大柄で再生力も強い魔物はハセインノヴァと相性が良くない。もちろん討伐する方法がないわけではないけど……。


 その時、トリアは指でポキポキと音を出して微笑んだ。


「原理がわかったらもう問題ありません。早く殺してお嬢様のもとへ行きましょう」

読んでくださってありがとうございます!

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