三番目の按配
リディア様とシド様と一緒に工場の中を横切っていたところ、それは突然起こった。
「あっ!?」
「集まってください!」
視界が歪んだ。強制空間転移ということをすぐに把握し、無礼を押し切ってお二人を引き寄せた。もし私たちを分断させるのなら危険だから。お二人も状況に気づいて大人しくしていた。
やがて転移が終わった時に見えたのはとても広くてがらんとした部屋だった。まるで戦闘実験をする時に使えそうな場所だというか。
「ありがとう、トリア」
「いいえ、乱暴な行動で申し訳ありませんでした」
リディア様の感謝に適当に答え、ここがどんな所なのかを把握するために周りを見た。探知のための魔力波も放ってみたが、魔力波が完全に弾き飛ばされた。この程度なら魔力の干渉を完全に遮断する機能が備わっているんだろう。
その時、シド様が不機嫌そうに眉をひそめた。
「テシリタって奴は力を見抜く目がとても優れているって言ってたよね?」
「はい、そう聞きましたが」
「どうやらそれは誇張ではなかったようだよ」
シド様はつま先で床をトントン叩いた。そのつま先にシド様の『地伸』の魔力が宿っていた。けれど、本来なら土地を自由自在に扱う力で床の材質まで操縦できるはずだった力が、ここの床には何の効力も発揮できなかった。先ほどの探知の魔力波のように『地伸』の魔力が弾き飛ばされたのだ。
「『地伸』の力が通じない。ここで戦闘が起こったら俺にできることはそれほど多くはないよね」
シド様の『地伸』は地を操作して武器として使うだけでなく、シド様自身が地を経由した移動で神出鬼没に動くのにも使われる。『地伸』が封印されるということはシド様の戦闘手段が大きく制限されるという意味だ。
その時、突然近くですごい爆発が起きた。
「わっ!?」
シド様が驚き、私は警戒した。だがそちらを見て気が抜けた。いつの間にか銃を抜いたリディア様が壁に〈爆炎石〉の魔弾を撃っただけだった。
リディア様は眉をひそめた。
「すごいね。それなりに本気の魔弾だったのに」
壁が少し破壊された。しかし、爆発の規模に比べると破損の規模は非常に小さかった。せいぜい拳一本くらいの大きさだろうか。爆発の瞬間に感じられた魔力反応からみて、強い衝撃に対する耐性があるようだ。
「急にそんなことするなよ。驚いたじゃん」
シド様が文句を言うとリディア様は眉をひそめた。
「こっそり歩き回って驚かせるのが得意なくせに何を言ってるの」
「驚かせたことないんだよ。驚かせる余地も与えずに仕事を終わらせるのがハセインノヴァの美徳だよ」
「ああ偉いね偉いね」
見ていると微笑ましい喧嘩だったが、残念ながらそうする余裕はなかった。奇異な陣が突然輝き、キメラを出現させたのだ。外形はミッドレースアルファ・プロトタイプと似ているが、身体のあちこちに魔道具が挿入された特異な個体だった。リディア様とシド様も敵の出現に気づき、一気に真剣になった。
その時、私はすでにキメラの目の前にいた。
――極拳流『獄炎』専用技〈火山撃発掌〉
先手必勝。手のひらから凝縮された『獄炎』の魔力波を放った。過去のプロトタイプ程度なら一撃で全身が溶けて絶命する威力であり、ミッドレースアルファ完成体程度の耐久性といっても重傷を負うほどだ。若干だが床が融解した。
しかし、キメラはただ皮膚にやけどを負っただけだった。
「トリア、どいて!」
私は急いで身をかわした。直後、赤い宝石の魔弾が雨のように降り注いだ。一つ一つがさっきの壁に炸裂したものよりさらに強い魔弾が弾幕を成すほどの数だった。連続爆発がキメラを壁まで押し出した。しかし、爆炎の熱さも衝撃波もキメラにそれほどダメージを与えなかった。キメラの体に刻まれたのは弱いやけどと擦過傷程度の傷痕だけだった。
その時、キメラの後ろに黒い影がちらついた。
――ハセインノヴァ式暗殺術〈極の線〉
シド様が手にした岩の短剣、その刃先。シド様は極薄な一筋の線に大量の魔力を凝縮し、キメラの首を一気に切った。血が噴き出した。だが刃が深く入ってなかった。
「こいつ堅い、くっ!?」
キメラは突然振り向いてシド様のわき腹をぶん殴った。その衝撃が彼をそのまま吹き飛ばした。シド様は空中で体を回して着地したが、激痛のせいかひざまずくところだった。
「シド! 大丈夫!?」
「くっ……大丈夫よ。暗行服は防御力もある程度あるんだよ」
シド様は戦闘服である暗行服を工場に入ってきた瞬間から着ていた。実は暗行服は暗殺を補助する役割なので防御力が高くはないが、それでも魔道具である衣服として基本的な防御力程度はあるだろう。
それよりキメラの気配が気になる。
「反応が鈍いですね」
話しながら今度は『天風』の強力な空気砲を撃った。キメラは殴られて壁にぶつかった。しかし空気砲の力に弾き飛ばされただけで、有意義なダメージはなかった。
まるでまだ眠っているかのように反応が鈍い。しかし、それに比べて肉体の耐久性が相当だ。多分あれは……。
「リディア様の『結火』が持つ火炎と爆発、そして私の『獄炎』の熱気と『天風』の物理力。その二つに対応するために耐熱性と硬さを補強したキメラのようです。おそらくそのために魔道具が身体に挿入されたのでしょう。シド様の推測が合っていたようですね」
この部屋とあのキメラ。私たちを相手にするために特別に準備されたのだろう。そうでなければ、このように正確に私たちの能力を無力化する形の戦場を準備することはできなかったはずだ。シド様の斬撃が効果が弱いのは漁夫の利に過ぎない。
かなり困った相手ではあるが、私は微笑んだ。
「でも完璧ではないですね」
「どうして?」
「本当に完璧に封鎖したかったら、手段も完璧だったでしょう。ですがそれほどではありません。おそらく、今あるものの中から侵入者を相手にするのに適したものを選んで配置しただけでしょう。それなら勝算があります」
オステノヴァ公爵家の使用人になる前は、このような状況など数多く経験した。ややこしいけど不可能なことではない。
「早く片付けましょう。テリアお嬢様の方が一番危ないと思います」
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