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遅い悟り

 キメラが拳を振り、ハンナが剣を振り回す。速度は互角だった。


 ハンナの『剛体』は身体能力にすべてをかけたと言っても良いほど身体強化だけに特化した特性だ。汎用性は劣るけれど、単なる肉弾戦ならかなりのレベルだ。その力でキメラと互角の力と速度を発揮できる。でも固い防御力はキメラの体に刺さった魔道具に無力化されていた。


 それでもハンナは退かなかった。


「せいやああっ!」


 ハンナは剣を大きく振り回した。力強い気合に相応しい衝撃波がキメラを襲った。キメラが勢いに押されている間、ハンナは縦斬りをした。キメラの腕が魔力波を放ち、剣を防いだ。でも如意黒剣はキメラの魔力波に触れても崩壊しなかった。


 如意黒剣は最強の金属である絶望石で作られた剣。キメラの魔力波にも対抗できるね………!


 ハンナもそれに気づいたらしく、できるだけ剣に頼ってキメラを相手にしていた。剣術が精巧じゃなくてキメラの攻撃を全て受け流すことはできないけど、自分の魔力の再生力でカバーできるレベルに負傷を抑えていた。


 ケイン殿下もうまく戦っていた。結界や結界兵器でキメラの拳を直接防ぐことはできず、結界の物理力さえもキメラの力が崩した。けれど、物理力以外の補助効果まで除去するわけじゃないし、速い攻撃にも通じなかった。それを利用してハンナを結界に強化したり、魔弾をはじめとする魔力攻撃を浴びせる結界でキメラを牽制していた。


 二人とも次善策を探して戦っているのに………私には何ができる?


 私は特性のない魔力を使う白光技さえも『万魔掌握』を使ってきた。例外は『万魔掌握』そのものを発動するための私自身の魔力だけだ。


 ……私自身の魔力?


 頭の中に何かが浮かんだ瞬間、ハンナがまた私の方に飛ばされてきた。ハンナの肩に手を置いた。


「お嬢様? 危ないです。あのキメラは私が何とかしますから……」


「ちょっと待って」


 ハンナの体に魔力を注入した。今思ったことが正しければ、私の望み通りにできるなら……これで確認できるよ。


 ハンナはびっくりしたかのように目を丸くした。


「お嬢様? これは………『剛体』ですか?」


 ハンナの体には依然として浅いけれど多くの傷があった。それが急速に回復した。彼女の『剛体』は強いだけでなく回復力もすごいけど、ハンナは魔力を節約するために回復より速度強化に重点を置いていた。私の魔力が彼女の回復力を補強したのだ。


 ……よし。


「一緒に行こう」


「え!? お嬢様、『万魔掌握』が機能しないって……」


「もう大丈夫よ」


 返事を待たずに先に突進した。ハンナも急いで私の後をついてきた。けれど、私はハンナよりずっと早かった。身体強化すら『万魔掌握』に頼っていた私だったので、本来なら不可能だった現象だった。でも今の私はいつものように動いた。


 ハンナに代わって『無限遍在』の分身でキメラを阻止していたケイン殿下を、その速度のまま通り過ぎていった。右目から紫色の眼光が噴き出した。


 ――紫光技〈選別者〉


 ――『万魔掌握』専用技〈掌握魔装〉


 私の手に具現された剣を力強く振り回した。剣は堅固で確固たるものだった。キメラの拳と正面からぶつかった後はキメラの魔力波に粉砕されたけど、さっきのように維持すらできない状態ではなかった。


 できるよ……!


 しかも、今の激突から感じたことがあった。それを確認するためにまた〈掌握魔装〉で剣を錬成した。キメラは先に拳を振り出し、私は剣でそれを受け流した。今回も剣が壊れた。


「アルカさん、退いてください!」


 キメラが拳を振る瞬間、ケイン殿下の分身が私を後ろに引っ張った。代わりに前に出た他の分身がキメラの攻撃を受けて消滅した。


 ケイン殿下が私に近づいた。


「アルカさん。解法を見つけたんですか?」


 すでに『万魔掌握』が使えないことを克服したということを前提にした問いだった。私は苦笑いしながら〈掌握魔装〉で弓を具現化した。今回も弓は消えることなく堅固に存在した。


「はい。解法と呼ぶのは恥ずかしいレベルですけどね」


「ほう、どうしたんですか?」


「お姉様とロベルの小言が本当に適切でした」


 ハンナがキメラに向かって突撃し、ケイン殿下の分身と結界が彼女を補助した。私は魔力の矢で火力を支援した。そうしながら私が悟ったこと……というか、バカげていた部分を説明した。


 私が幼い頃からうんざりするほど言われた小言。私が『万魔掌握』にだけ依存しているということ。私はそれが『万魔掌握』の無限の魔力を活用した力比べだけに依存するという意味だと思った。実際、ロベルはそのような趣旨で私に話した。けれどお姉様が以前に一度だけ言ってくれたことがあった。


『アルカ。平凡な白光技まで『万魔掌握』に頼っていたら、後で困ることが起こるわよ』


 その時は何を言っているのか理解できなかった。お姉様は自ら気づいてほしいと微笑むだけだった。


 今はそれがどういう意味だったのか理解できる。私は魔力を使うすべてのことを『万魔掌握』で支配した魔力だけで遂行してきたので、()()()()()()()()()()使()()という発想自体がなかった。『万魔掌握』で魔力を集束するのに私の魔力を使うことはあるけど、消耗量は極めて少ないレベルだし。


 私がここで『万魔掌握』を使えない理由は、外部の魔力が強制的に固定されてしまったためだ。けれど、私自身の魔力には何の問題もない。つまり自分の魔力を直接使えばいいのだ。()()()()()()()()()()()()。それを今になって気づいた私がバカとしか言えない。


 ケイン殿下は最後まで聞いて苦笑いした。


「貴方だからできた盲点だったんですね。バカと言うほどではないようですが」


「いいえ、バカです。しかも自分の力についてまだ完全に理解できていないことにも気づきました」


 もちろん私の魔力を直接使うとしても、〈掌握魔装〉で外部の魔力を確保できないということは相変わらずだ。しかし、さっきキメラと衝突しながら感じたことがあった。


 それを利用するために、私はもう一度術式を展開した。

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