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無力化

 私の視線を感じたのか、それとも臨戦態勢の魔力を感じたのか。キメラは頭をもたげた。混濁した瞳と視線が合った。


 その瞬間、キメラが咆哮した。物理的な衝撃が感じられるほど暴力的な咆哮だった。


「来ますよ!」


 左手を広げて魔力を集めた。


 ――『万魔掌握』専用技〈掌握魔装〉


 左手に集まった魔力が弓を形成した。それ自体も『万魔掌握』の魔力集束で作られ、集束の力を持って自ら自然の魔力を確保できる弓だ。私なりに頑張って手に入れた新しい技だけど、実戦で使うのは初めてだ。


 その直後、突然ここのすべての壁と床と天井に奇妙な模様が浮かんだ。そして〈掌握魔装〉の弓が砕け散った。


「……え?」


 失敗? いや、力の使い方は間違ってない。でもなんで?


「お嬢様? どうし………」


「前を見ろ!」


 ハンナが私を振り返ろうとした瞬間、ケイン殿下は彼女に怒鳴った。キメラが突進しようとしていたところだった。ケイン殿下は直ちに結界を展開した。その直後、キメラが突進し始めた。


「早い……!」


 足を曲げて、伸ばす。そして目の前にいた。そのようにしか表現できない速度だった。けれど、キメラの拳はケイン殿下の結界に阻止された。


 やっぱり結界のスペシャリスト……と感心しようとした瞬間、キメラの手から魔力波が放出された。そして結界が崩れた。


「はああっ!」


 結界が突破されたけど、ハンナは慌てなかった。漆黒の大剣が振り回された。最初から全力だった。キメラは腕で刃を受け止めた。刃がキメラの腕を深く切った。でも切断には至らず、むしろキメラの腕にハンナの剣が縛られた。反対側の拳がハンナのお腹を強打した。


「きゃあ……!」


 ハンナは殴られて私の方まで飛ばされてきた。それでも剣を手放さず、飛ばされる衝撃のおかげで剣が抜けた。ケイン殿下が結界兵器を具現してキメラの前を塞ぎ、私は飛ばされてきたハンナの状態を調べた。見るやいなやびっくりした。


「ハンナ! お腹が………!」


 ハンナの腹部は血まみれだった。よく見ると傷自体は深くなかったけれど広かった。まるでキメラの大きな拳が触れた面積すべてが均等に傷を負ったかのように。


 頭に血が上った。


「こッの!」


 ――『万魔掌握』専用技〈万魔支配〉


 一帯の魔力を全部支配する絶技。お姉様の〈三十日月〉に負けたこと以外には一度も失敗も敗北もしたことがない技だ。


 ……なのに。


「魔力が……!?」


 この部屋は外部との魔力の流れが遮断された場所。すなわち私の『万魔掌握』で制御できるのはこの部屋の中の魔力だけだ。自然の魔力を集束して無限の魔力を行使する私にはそれだけでも不利な場所だ。けれど、少なくともこの中にある魔力を制御するには問題があってはならなかった。


 ところが〈万魔支配〉が効果がなかった。確かに技は発動し、魔力を掌握する際の何とも言い表せない独特な感覚もしっかりと感じられた。けれど魔力が思い通りに動かなかった。というか、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()ような感じだった。


 ……固定されたロープ?


「まさか?」


 頭の中に思いがひらめくと同時に、ケイン殿下がこっちに来た。いや、攻撃を受けてここまで押し出された。倒れてはいなかったけど、ケイン殿下特有の結界兵器がぼろぼろに壊れていた。


 結界兵器はそもそも物質じゃなく魔力で構成された結界の核に過ぎないのに、それがどうしてあんなに壊れたの?


 疑問に思ったけど、それを言う前にケイン殿下が私の方をちらっと見た。


「どうやらあいつは私たちを相手にするために用意された奴のようです」


「それはいったい……」


 質問の余裕もなかった。キメラがあっという間にここまで近づいてきたから。ケイン殿下は舌打ちして結界を多重展開した。キメラの手から魔力波が噴き出すたびに結界の糸があっけなく砕けたけど、多重結界を一度に破壊することはできなかった。それでも不利なのはケイン殿下だったけれども。


 その時、ハンナが立ち上がった。


「ハンナ!? 無理しないで」


「傷は広いだけで浅いから大丈夫です。私も加勢してお嬢様を守ります!」


 ハンナは大剣を握りしめ、前に走った。私も見物ばかりするわけにはいかないという考えで再び〈万魔支配〉を発動した。けれど、依然として魔力を操ることができなかった。


 いや、全然ダメなわけじゃないけど………。


「魔力をうまく操作できないようですね」


 ケイン殿下が口を開いた。眉をひそめたままキメラの攻撃を防ぐ途中だったけれど、話すほどの余裕はあるようだった。


「そ、その通りです。確かに〈万魔支配〉はしっかり発動したのに………魔力が重すぎますよ」


「多分この部屋の効果、くっ!」


 ケイン殿下は結界兵器のバトルアックスでキメラの拳を弾き飛ばした。拳自体は弾き飛ばされたけど、結界兵器も壊れてしまった。結界兵器が壊れるたびにケイン殿下が作り直しているけど、もう三回目だ。


 それより部屋の効果って壁と床に浮かんだあの模様のことかな。様式はちょっと違うみたいだけど、イシリンさんの魔法陣と似た感じではある。


 ……まさかあの模様がこの部屋の魔力を捕まえているのかな?


 それなら理解できる。『万魔掌握』の力が発動しなかったんじゃなく、より強い力が自然の魔力を拘束したせいで思い通りに扱えないのであれば。


 ……『万魔掌握』より強い掌握力は天空流の〈三十日月〉だけだと思っていたけど。


 考えている間もケイン殿下とハンナは激しく戦っていた。特に最前線でキメラと対抗して戦う人はハンナであり、ケイン殿下は結界で補助しながらハンナが危険なたびにバックアップしていた。すでにハンナの体には傷が累積していた。


 ケイン殿下の結界と結界兵器も、『剛体』の特性のハンナの丈夫な肉体も。キメラの魔力波が硬さを引き裂いていた。この部屋が私の『万魔掌握』を牽制するのと同じく、キメラを強化する魔道具は結界と身体強化を破壊する力を持っているようだ。


 この戦場は私たちを相手にするために用意された場所だ――それに気づいた瞬間、仕方なく歯を食いしばった。

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