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二番目の按配

「すごかったです、姉君。やっぱり姉君の成長力もすごいですね。正直、姉君についていけるとは思いません」


「……それほどではないぞ」


 ジェフィスがボクに近づいて称賛の言葉をかけたが、ボクは渋い気分だった。


 胸の真ん中に妙な違和感が感じられた。吐き気もするし、興奮が感じられるような……矛盾した感じが入り混じった妙な感覚。強度は弱いが慣れていた。黒騎士の魔道具を使った時の感覚と似ていた。


 しかし今は黒騎士の魔道具は使わなかった。万が一のために持ってきてはいるが、魔力で封印しておいたので手続きを経てこそ使用できる。つまり、今回の戦いでは確実に使わなかった。それでもその魔道具を使った時の感覚が弱く再現された。


 魔道具の影響がボクの中に残っているのか? それともボクの力に邪道が混ざって永久的に変質したのか? どちらかはわからないが、魔道具を使わないときにも影響が出るのはいい傾向ではないだろう。


 一人で考え込んでいたら、ジェフィスは頭の上に疑問符が浮かびそうな表情で首をかしげた。


「姉君? 何かあったんですか?」


「何でもないぞ。それよりこの部屋から出る方法を考えないと」


 ごまかして目を壁の方に向けた。キメラを倒したのはいいが、灼熱の魔力を吐き続ける結界はそのままだ。今は敵がいないため〈冬結界〉の負担も減ったが、当初キメラはこの部屋で待機していた奴ではなかった。相手がまたキメラを召喚する前に、まずここから脱出しないと。


 それをまとめて説明すると、ジェフィスも納得したように頷いた。


「次のキメラが召喚される前に脱出する方がいいですね」


「そうだ。でもここはドアも窓もない密閉空間だな。方法が見つからないなら壁を壊して出るしかない」


 さっきのようなキメラが召喚され続けたら、ボクとジェフィスは魔力の枯渇で死んだだろう。しかし、そのキメラは特殊なケースのようだった。少なくともローレースのように量産するのは不可能だろう。それとも単にボクたちに気を使う余裕がないのかもしれない。


 余裕がなくなった理由は……テリアのせいとか。


「……方法を探す時間ももったいないぞ。すぐ壁を壊すようにしよう」


 剣を握って前に出た。ジェフィスはため息をついたが、反対はしなかった。彼がテリアからプレゼントされた双剣である終連剣が魔力を輝かせた。


 ボクたちは誰が先と言うまでもなく壁に向かって突進した。




 ***




 突然の空間歪曲と場所変形。敵の仕業であることは明白だった。


 広いけど何もない部屋だった。いや、天井もものすごく高くて部屋という表現は不適切かもしれないね。けれど、他に何と呼べばいいか分からないよ。


「アルカお嬢様、後ろに下がってください」


 ハンナは私を守ろうとしているかのように前に出た。彼女の手が震えていた。突然の状況が怖いのだろう。ハンナは実戦経験が少ないから、そういうこともある。こう思う私自身、まだ戦いの恐怖は残っているから。


 でもハンナも邪毒獣事件の濃密な戦いを経験した。そのおかげか、怖がる気持ちがありながらも逃げなかった。その姿を見るともっと守ってあげたいという気持ちになってしまった。……立場としては守られるのは私の方だけど。


「何か妙な感じがしますね。結界ではないようですが、この空間に何か細工が施されているようです」


 ケイン殿下が言った。


 正直、私がケイン殿下と一緒に行動するようになったこと自体が不本意である。リディアお姉さんほどではないけど、私もケイン殿下があまり好きじゃないから。でもひとまず同じ方面を担当するようになった以上、疎通に問題があってはならない。お姉様の志を叶えるために。


「魔力が断絶しているからでしょう」


 私が言うとケイン殿下は私を振り返った。


「どういう意味ですか?」


「その通りですよ。壁と天井と床に魔力の伝導を完全に遮断する細工が施されています。魔力が循環する時と停滞する時は感じが違うんですよ。多分そのせいで妙な感じを受けたんでしょうね」


『万魔掌握』は自然の魔力を思い通りに扱う力。その付加効果として周辺の魔力の状態を敏感に感知することができる。そんな私だからこそここの状態がすぐ分かった。……ここが私にとって非常に不利な場所だということも。


 でもそれを言おうとした瞬間、真ん中の床が輝き始めた。イシリンさんの魔法陣ということと似ていながらも違う文様を光が描き出し、真ん中から魔物が飛び出した。ミッドレースアルファのプロトタイプと体や見た目は似ているが、体のあちこちに魔道具が刺さっているタイプだった。


「魔道具に強化されたキメラらしいですね。私が前方を担当します」


 ケイン殿下が前に出た。王子である彼が一番前を引き受けようとするなんて、何かおかしい。


 私の疑問を察したかのように、ケイン殿下は苦笑いした。


「私の力は前方を担うのに適していますからね。そしてもともとバルメリア王家の徳目は前列で敵を圧倒し味方を守ることです」


「そうして王子様が亡くなったりしたら大変なことになるじゃないですか」


「そうならないように鍛えるのもバルメリア王家の徳目です」


 そこまで言うとこれ以上言うことがないね。実際、始祖バルメリア様はそういう方だったそうだし。


 その時、ハンナが前に出た。


「無礼を冒して申し上げます。ケイン王子殿下は確かに肉弾戦を得意としていますが、最も強力な手段は結界でしょうね? 私も前列に立つタイプなので、殿下は結界で補助してください。前は私が引き受けます」


 ハンナは十字架のネックレスをはがした。十字架はあっという間に巨大化し、彼女の背丈よりも長く重い漆黒の大剣となった。


 大きさを自由自在に調節でき、この世界最強の金属である絶望石で作られ非常に硬い魔道具『如意黒剣』。能力はそれだけだけど、身体強化が得意なハンナにとても似合う剣でもある。


 ……そういえばあれをハンナにあげたのもお姉様だった。


 お姉様の目に感心しながらも、私は動かないキメラをまた見た。

読んでくださってありがとうございます!

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