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警告

 あれは私とのやり取りを早く終わらせたくて言ったのではない。本当に〝あの御方〟……私たちの筆頭はつまらないことはしないという信頼から始まったのだ。


『崇拝する魔女』。テシリタの異名。それは文字通り彼女が他者を崇拝するから付けられたものである。その崇拝の対象が私たちの筆頭である。


 そもそもテシリタは安息領の教理に関心がない。邪毒神に仕える身だが、彼女は正確に一人の邪毒神に仕えるだけだ。邪毒神というカテゴリー自体を盲信する安息領の教理とは違う。そのため、彼女は安息領という団体にも興味がない。


 彼女がなぜ、いつから筆頭を崇拝してきたのかは分からない。しかしテシリタがあまり関心もない安息領で八賢人の筆頭補佐という職責まで引き受け、安息領を率いるのが筆頭のためだということは知っている。もし筆頭が気まぐれで安息領を皆殺しにしろという命令を下すならば、彼女は安息領の信者を最後の一人まで捜し出して殺してしまうだろう。そんな女だ。


 そして彼女が信じる筆頭の本質は万事を見抜き、すべてを完璧に按配する存在だ。私もその考えにある程度同意するが、テシリタはすでに信頼のレベルを超えた狂信だ。


「そう言うから本論を始めようか。あの御方の伝言だよ。『近いうちに君の工場に招かざる客が訪れるかもしれない。備えるようにしなさい』」


「招かざる客? 侵入者が発生するということか? いつだ?」


「そこまではわからない。聞いていないのではなく、あの御方も知らないそうだ」


「はぁ? あの御方はいつもすべてを知っていらっしゃる。貴様が覚えきれなかったんじゃないか?」


「もうここ数年、あの御方の指示は何度も失敗していたよ。たった一人の少女のせいで。忘れたんじゃないよね?」


「……それは貴様が無能だからだ」


 テシリタはそう言ったが、悔しそうな様子を見ると私の言う通りだと内心知っているだろう。筆頭は私以上の適任者がいないと言いながら私に仕事を任せたから。それに筆頭は私の失敗さえも予定通りだと言って笑った。皮肉なことに、筆頭の盲信者であるテシリタは筆頭がそのように言ったので私を過度に責めることはできないのだ。


「あの御方のお話はそれだけか?」


「本論は終わりだけど、おまけはもう少しあるよ。本来ならこの時期に攻撃なんてないはずだったけど、変数がたまって予定が変わることもあるんだってね」


「攻撃なんてないはずだった……か。そういえば、ここに侵入するということはここがどんな場所なのかを分かるということだろう。どうやって分かったんだ?」


 この工場は複雑な術式で隠蔽されている。決心して調べようとすればできないことはないが、そもそもその気にならないよう細かく隠蔽した。それでも筆頭は侵入者の発生可能性を高く見ていた。


 いや、ちょっと待って。そういえば。


「今回の伝言にかかわる話ではないが、あの御方が例の少女を面白い存在だと言ったことがあったんだね」


「あの御方の指示を壊したあの不埒な小娘のことか?」


「そう。まるで私の計画やこれから起こることをあらかじめ知っているような子だった。もしかしたら今度侵入者が来るというのもあの少女と関係があるのかもしれないね」


「……ほう。あの不埒な小娘が直接オレの所に来るということか。楽しみだな」


「一応言っておくが決定事項ではないよ」


「タワケ。あの御方が来るとおっしゃったら必ず来る。それが世界の摂理だ」


 そのあの御方が確信できない状況なのに。そう言いたい気持ちをぐっとこらえて微笑んだ。


「私も手伝ってあげようか?」


「は? いらない。また何か変なことをしようとしているのか?」


「人の好意を全く信じられない奴だね。貴様を助けようとするのではなく、あの少女に用事があるとしたら?」


「ロリコンの奴め」


「……そんな意味の用事じゃないよ、バカ」


 テシリタの奴も本気ではなかったのか、大きな感興のない様子でまた口を開いた。


「そういえば貴様はあの小娘を一刻も早く殺さなければならないと主張したんだな。結局こうなったことを見れば貴様の主張にも一理があったというのか」


「誰も同感してくれなかった意見に真っ先に同調してくれるのがよりによって貴様だなんて、気持ちがあまりよくはないね」


「で? あの小娘がここに入ってきたら今度こそ殺すってことか?」


「そうだね」


 テシリタは頭巾の中に手を入れた。多分あごに手をあてているんだろう。頭巾にかかった魔力の効果のために見えないが。少し考えている様子だったが、それが長くはなかった。


「断る。貴様がそんなに気にする小娘がどんな奴なのか直接見たくなった」


「貴様はダメだよ。確実に殺さないと思うんだから」


「貴様の考えなんか知ったことじゃない。用件が終わったら早くオレの工場から消えろ。勝手に介入することまであの御方の指示だったか?」


「……そうじゃないが」


 嘘をついてもテシリタにはすぐバレる。こいつが使う神妙な術法である〝神法〟というのはまだ不明な部分が多いが、その気になれば人間の本音なんて自分のもののように覗き見ることができるということは知っている。


「オレにあの小娘を本気で相手にさせるつもりなら、質問に答えろ。あの小娘には仲間がいると聞いたが、その仲間もあの小娘ほど強いのか?」


「いや、全然。正直、あの少女に比べれば相手にする価値もない子どもたちだ」


「そうか。それならあの小娘に集中すればいいんだな。貴様の望みはそれに代えるようにしよう。……もし今の答えが嘘なら、仕事が終わった後に貴様から殺す」


「本当ならご飯頼むよ」


「貴様と一緒に食事なんか吐き気がする。今お茶をもてなすのも最低限の礼儀に過ぎない。用件は今度こそ終わりか」


 私が頷くと、テシリタはすぐに席を立った。


「なら消えろ。オレは研究をしに行かなければならないんだ。こっそり隠れたりしたらすぐ見つけて殺してやる」


「そんなつもりはないよ」


 相変わらず殺伐とした奴だね。別に関係ないけど。


 どうしようもないのか。あの殺伐とした姿がテリアさんに向けられることを願うしかない。

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