みんなの決定
黙って聞いていたケイン王子が口を開いた。
「そのテシリタという者と出くわす確率が高いと思いますか?」
「それだけは私にもわかりません。『バルセイ』ではその工場への攻撃が非常に重要な時点がありましたし、テシリタも工場を確実に守るためにその場にいたのですから。でも普段から閉じこもって研究するのが好きだという設定でしたので、研究のために工場に留まる可能性はありますわよ。個人研究室もそこに作っておいたんですの」
「あの者は貴方も相手にできないのですか?」
「申し上げたでしょ。テシリタはピエリより強いんですの。まだ私はピエリに勝てませんし、そのピエリよりも強い魔女ですわね。ボロスのような奴なら弱点を利用すればいいのですが、テシリタにはそれもできません」
テシリタに勝つほどの力があれば恐れる必要はない。いや、むしろ今テシリタを討伐することがより良い未来につながる。でもそれが不可能だから仕方ない。
「しかもあの工場でテシリタと正面対決するのは自殺行為ですわよ。あの工場にはテシリタに有利な環境と魔道具が備わっているんですもの」
前世のファンタジーで言えば、自分の工房で敵を迎えて戦う魔法使いのような状況と一緒だ。工場内で万全の態勢で戦うテシリタは準ラスボス級だ。だからテシリタが全力を尽くす事態だけは避けなければならない。まぁ、今の私たちはそもそもテシリタの全力を誘導することもできないんだけどね。
「そのテシリタという者がいるから、私たちをみんな呼んだんですか?」
今回はトリアの質問だった。私は頷いた。
「そうよ。百パーセントじゃないとしても、テシリタと会う可能性がある以上今回のことはとても危ないわよ。だから今回は志願してほしいわ」
「志願……欲しい者だけ連れて行かれるということですか?」
「ええ。テシリタについて私が知っていることは全部言ってあげる。私と一緒に工場を攻撃するか、残って万が一の襲撃に備えるかはその後に決まってもいいわよ」
私が行くのは決定事項だ。あの工場が今も稼働していることが分かった以上、そこを放置するという選択肢はない。そして私ならテシリタと出くわしても逃げることくらいはできる。
問題は私以外のみんながテシリタからの逃亡を確言できないってこと。油断しているときのテシリタは逃げる侵入者を追い上げて捕まえることにあまり意欲的じゃないので、逃げられる確率は意外と高い。でもテシリタが少しでも拘束する気になったら、私以外は絶対に逃げられない。実は安全を追求するのなら私一人で行くのが一番良い。
それでも誰かを連れて行くのはみんなが私のことを心配しているからでもあるけど……それ以上に、安息八賢人のナンバーツーがどんな存在なのかを見せたいからだ。
今は避けたとしても、結局いつか安息八賢人と戦うことになる。『バルセイ』でも最後まで正体が明らかになっていない筆頭を除いた残りの七人全員が中ボスになった。つまり、主人公たちと物理的に戦ったという意味だ。そして奴らが安息領の最高幹部である以上、安息領を討伐するためには結局奴らを倒さなければならない。だからいつか倒さなければならない敵がどんな存在なのか確認させてあげたい。
そしてテシリタとは別に、工場を確実に破壊し、そこにいる安息領の人材を拘束するためには人員が多い方が良い。
……と言っても、答えはすでに予想してるけど。
「行かないという選択肢なんかないぞ。ピエリ以外の安息八賢人にも興味があるしな」
「師匠と共闘するのはかなり久しぶりのようだね。楽しみだよ」
ジェリアは拳で手のひらを強く叩きながら好戦的な笑みを、ジェフィスは純粋に期待されているような笑みを見せた。
「お姉様の行かれる所ならどこでも行きますよ」
「この前は別々だったから今度はリディアも一緒に行く」
アルカとリディアは拳を握りしめながら決然と言った。
「お嬢様が死地に向かうのを見送るだけでは、お嬢様に説教した面目がないです」
「むしろ一人で行かれるとおっしゃったら叱りますよ」
「す、少し怖いんですけど……今回は私もお手伝いします」
……ロベルとトリアの眼差しが何か怖い。ハンナは怖がっていたけど、彼女の眼差しにも決意があった。
「最大のテロ組織のナンバーツーを直接見る機会を逃すわけにはいきませんね。王子として必要な情報です」
「面白そうだからついて行くよ。俺が出したアイデアでもあるし」
ケイン王子とシドはそれぞれの理由で同行を決めた。
「……みんなありがとう。本当にありがとうございます」
私は本当に、本当にいい人たちに囲まれているわね。一時は攻略対象者の一部を諦めるつもりだったけれど、何とかみんなと一緒にいられるようになった。この縁を失わないためにもミスをしてはいけない。しかし、失敗が怖くてもメリットを諦めたくない。
「よし。みんなで攻撃するわよ」
自分なりの決意を持ってそう宣言した。ところが、なぜかみんな表情が微妙だった。みんなどうしたんだろう?
「……勢いよく言ったが、まさか本当に皆と行くとは思わなかったな」
「正直お姉様なら何人かは残るっておっしゃると思いました」
ジェリアとアルカはみんなの心を代弁して言った。そういえば、いつもの私ならこんな決定はあまりしなかっただろうね。
しかし、その事実がかえってみんなの緊張を高めた。
「テリアがあんな風に言うくらいなら本当に危ないということだろう。覚悟しておかないと」
「絶対負けません」
「重要なのはそうじゃない。誰も死んではいけないの。死んじゃったらテリアが悲しむから」
どうせなら私のためじゃなく、自分自身のために生き残ってほしいのに。
そう思いながらも、私は嬉しい気持ちを抑えられず微笑んだ。相変わらず私にはこんなに愛される価値がないと思っているけど……だからといってみんなの好意と誠意を無視することはできない。
問題なく攻略できるように、みんな生き残れるように。私にできることは全部する。
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