テシリタ
「みんな来てくれてありがとう」
感謝をして、集まった面々を見回した。
ほぼいつも計画を一緒にするメンバーはジェリア、アルカ、リディアの三人と私の専属であるロベルとトリア。いつもじゃないけど参加率の高いジェフィス。そして比較的頻度は低いけれどあれこれ役に立っているケイン殿下と、私たちの中では一番新参のシドまで。『バルセイ』と関係のある人はみんな集まった。しかもアルカの専属メイドであるハンナは普段はほとんど留守番だけど、今回はこの場に参加した。
ジェリアが真っ先に口を開いた。何か期待しているような表情だった。
「こんなにみんな集まったのは久しぶりだな。何か大きいことでもやってみるつもりか?」
「そういうつもりよ」
「お姉様が考えたことならきっとすごいでしょう!」
「リディアもそう思う」
なぜかアルカとリディアは偉そうに胸を張っていた。思わず苦笑いしてしまった。
「残念だけど、今回は私が思ったことじゃないわ。シド、ありがとう」
「何を、大したことじゃないよ」
今は私もシドに敬語を使ってない。シドは肩をすくめて微笑んだ。
今回集まったのはシドのアイデアである先制攻撃のため。昨日ロベルと話をした後もできるだけ情報を集めてみたけれど、有意義な追加情報はなかった。それでも今回の目的は明確だ。
そろそろ説明を始めようか。
「シドがロベルに言ったと聞いたわ。『バルセイ』に登場した安息領のアジトをこっちから先に攻撃しようってね」
「ほう? 今まで理由があってそうじゃなかったと思ったんだが」
ジェリアの言葉だった。表情を見ると、ケイン殿下も彼女に同意しているようだ。
「……残念だけど、今回は本当に発想が浮かばなかっただけなのよ」
「なるほど。だがこうやって集合させて話をしていることから、今すぐ攻撃できる所があるということか?」
「ええ。ローレースとミッドレースのアルファを製造する工場なのよ。レースシリーズに関連する工場の中でも一番大きくて重要な場所よね」
ジェリアは好戦的に微笑み、リディアも意欲的だった。決然とした顔で緊張した人はアルカとジェフィス。特にジェフィスはすぐ口を開いた。
「でも師匠。こんなに僕たちを全員呼び集めたということは、その工場が甘くないということだよね? 余裕で攻略できる場所だったらこの前のプロローグ事件のように人を分けたはずだから」
「……残念だけどその通りよ」
「師匠が慎重を期するほどだなんて、尋常じゃない気がするね。でも師匠の心配過剰の可能性もあるんじゃない?」
ジェフィスの言葉に苦笑いした。
私を何だと思っているのって言うつもりはない。私の力がどれくらいなのかは自覚しているから。多分よほどのことは私一人でもできるだろう。正直、前回の事件も慎重を期するために人員を投入しただけだ。実は実習場所を襲撃した安息領の軍勢程度は私一人でも殲滅することができた。
しかし、今回の工場は……工場の主人は違う。
「あの工場は安息八賢人が直接管理する場所よ」
そう言うやいなや空気が変わった。
安息八賢人。この世界最大のテロ集団である似非宗教の安息領、そこの最高幹部たち。彼らは単なる似非宗教のリーダーであるだけでなく、個々人の力も素晴らしい。あのピエリさえも安息八賢人の最強じゃないほど。
比較的相手しやすいボロスでさえ、一対一で制圧できるのは私だけだ。ピエリの王都テロ当時、アルカをはじめ数人でボロスを倒したけれど、その時は私のおかげでボロスが大きなペナルティを受けていた。万全の状態だったらむしろアルカたちが殺されただろう。
そして安息八賢人でも上位の強者は……今の私たちみんなが飛びかかっても倒せない。
「『崇拝する魔女』テシリタ。安息八賢人の真のリーダーは筆頭だけど、筆頭は普段は安息領にほとんど関与しないわよ。たまに八賢人たちに助言をする程度よね。だから筆頭の代わりに実質的に安息領を導く補佐がいるの」
「それがテシリタという奴か?」
「そう。テシリタは筆頭に次ぐ古い幹部なのよ。生きてきた月日も強さも安息八賢人の二位と言えば分かりやすいでしょ? ピエリさえもまともに戦えばテシリタに勝てないわよ」
今の私たちはピエリに勝てない。負けず膠着状態にする自信はあるけど、倒すことはできない。ところが、テシリタはそのピエリよりも強い。
「しかもテシリタには弱点がないわよ。あいつは万能型だから。ボロスとは正反対の技巧派だけど、破壊力も圧倒的なのよ。『バルセイ』で本気になったテシリタは他の八賢人の三人を一人で圧倒したわね」
その三人は八賢人の中では比較的弱い方で、ピエリはいなかった。けれど、ピエリが二人いてもテシリタに勝つことはできないだろう。禁断の力を手に入れてラスボスに覚醒したピエリはテシリタより強いけど、そのラスボスピエリさえもテシリタを圧倒するほどじゃなかった。
『バルセイ』のルートラスボスはみんな災いだった。その災いを相手にある程度相手ができるテシリタがどれほどのバケモノなのかは、直接見なければ想像もできない。
「その工場はテシリタが直接建設して研究まで手掛けていた場所よ。『バルセイ』ではその工場のステージボスがテシリタだったわ。今回もテシリタと会うとは断言できないけど、可能性はあるわよ」
「そのテシリタと出くわしたらどうすればいいのか?」
「知れたことでしょ。全力で逃げなさい。幸いなことに、テシリタは侵入者を殺害することに積極的じゃないわよ。多分私たちと出会ってもせいぜい遊びや暇つぶしくらいの感覚で相手するはず。だからテシリタが本気になる前に逃げるのがいいわよ」
テシリタは残酷だけど、自分とあまり関係のない弱者には関心がない。そのため、侵入者よりも侵入を阻止できなかった部下を粛清することを重視する。だからテシリタが本気になる前に逃げるのが一番有効だ。
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