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イシリンと始祖

 二人の戦闘は順調だった。見ていた私が感心したくらいで。


 完成体からさらに改造された暴走体は予想通り強かった。プロローグのボスだったプロトタイプ暴走体もプロローグの時は討伐できずただ追い出しただけで、討伐したのは数チャプター後のことだった。討伐したのが高レベルの時点ではなかったけれど、本来なら今の時点の私たちが集まっていてもプロトタイプ暴走体を相手にするのも大変だったのだろう。


 完成体の暴走体の強さは感覚的にプロトタイプの二倍以上だった。でもジェリアとアルカは単独で一匹ずつ引き受けて優位に立っていた。圧倒するほどではなかったけれど、これだけでもすごい結果だろう。特にゲームのアルカは他の生徒たちの助けまで受けてやっとプロトタイプの暴走体を追い出しただけだったから。


 しかも、ずば抜けた結果は彼女たちに限った話ではない。


「あの二人すごいわね。『バルセイ』だったら中盤くらいになってやっとあれほど強くなったじゃないかしら?」


「そう言う貴方もすごいわよイシリン」


 私とロベルはすることがあまりなかった。生徒たちの保護と安息領の奴らの撃退、そのすべてをイシリンが担当していたから。しかも生徒たちも生徒たちで騎士科として自ら戦いたがっていたけれど、それさえ許さないほどイシリンは精密で徹底していた。


 彼女はまるでピアノを弾くかのように指を動かした。指が舞うたびに小さいけど複雑な魔法陣が現れて消えた。そのたびにローレースアルファの心臓と頭が爆発し、安息領の雑兵が魔力の鎖で束縛されたまま片方に隔離された。私が展開した結界に到達する奴が全然いなかった。奴らがそれなりの奇襲だとやることさえまともにする前に見抜かれた。


「……もし貴方が悪意を持って降臨していたら、五人の勇者もあっという間に殺せたんじゃないの?」


 思わず呟いた。イシリンが小さく鼻を鳴らした。


「さぁね、やったことがないから分からないわ。でも死んであげようとじっとしている時も、あの子たちがあまりにも遅くてウトウトしてあくびが出そうだったの。あの時私が絶望していなかったら本当にあくびをしてしまったはずよ」


 五人の勇者は今のバルメリア王国では半分神格化されているけれど。そんな彼らさえも本当の神だったイシリンにはあんな扱いなんだね。


 しかし、イシリンはすぐ苦笑いした。


「もちろん今の私なら一刀で殺されるけどね。あいつらは人間にしては異常に強かったの。特にテリア、貴方の祖先であるシエラ……始祖オステノヴァはいろんな意味でめちゃくちゃだったわ」


「そんなにだったの?」


「貴方も知ってるでしょ? 『万魔掌握』はこの世界の〝主人公〟、そして『浄潔世界』はこの世界の〝聖女〟。本来この世界の選ばれた者は二人よ。それを一人で独り占めしていたあいつがどれほどバケモノだったのかは貴方もよく知っているじゃない」


 ……そういう可能性もあるね。今まで思いもよらなかったけど。


『バルセイ』のアルカは私を殺して『浄潔世界』を手に入れた後もそこまで強くはならなかった。ただ〝聖女〟の特性を習得しただけで、〝聖女〟のすべての能力を奪ったわけではなかったから。アルカが〝主人公〟として強力な才能を持ったのと同じく、〝聖女〟である私も転生者のチートを除いても相当な才能を持っている。才能だけ言えば〝主人公〟のアルカの方がずば抜けているけれども。


 その二つを最初から持っていた始祖なら、確かにバケモノと呼ばれてもしょうがないだろう。


 オステノヴァの二つの始祖武装のうちの一つ、私が覚醒した『天上の鍵』は歴史を再現すること。過去の事物を召還したり事件を能力化して付与することも可能であり、過去の存在の能力そのものを憑依させることもできる。もちろん使用者である私の力量が足りなければ過去の力をそのまま複製することはできない。でも……それを利用すれば、始祖の格が違う力を一部でも使うこともできるのじゃないかしら。


 イシリンは私の考えを察したかのように微笑んだ。


「今の貴方ならありのままの力でも『バルセイ』の序盤の事件くらいはほとんど一人で処理できるはずよ。そんな貴方がシエラの力を一部でも使えたら、確かにすごいことになるわね」


「始祖様をすごく身近に呼んでるね」


「え? ……ああ。死ぬ時、あいつと少し話をしたの」


 それは初耳だけど?


 本当に初めて聞く話だ。『バルセイ』でも、我が家の歴史書にもそんな言及はなかったから。でもそんなことがあったと聞いた時、納得することはできた。


〝イシリン。一人寂しく消え失せた貴方がもし、この世界でも生きていくことを許してもらえるなら……〟


『バルセイ』の過去のシーンでも出てきたセリフであり、我が家の歴史書にも似た言葉が載っている。イシリンが死んだ時ではなかったけれど、始祖様が公爵家を起こした時そのような言葉を残したという。そしてそれはオステノヴァが王でも騎士でもない研究者の道を選んだ理由だと伝えられている。


 我が家の始祖様は五人の勇者のリーダーであり、力もリーダーシップも最も強かった存在だった。そもそも五人の勇者が建国する時も最初に王に推戴されたのは始祖様だった。しかし始祖様は王座を断った。それだけでなく、他の公爵家が始祖の武力を生かして武家の道を歩む時も始祖様は研究者の道に固執した。今のオステノヴァが四大公爵家の中で唯一武より文を重視するのもその影響だ。


 私とアルカは血族の性向ではイレギュラーだけど、始祖様の才能を分け合った存在たちという点ではむしろ始祖様の本来の力と最も近い子孫かもしれない。


 もし始祖様が研究者の道を選んだのがイシリンのためだったとしたら……二人だけの秘密のやり取りがあったとしてもおかしくはない。


 しかし、今はそれを聞く暇がない。


「テリア」


「ええ、私も感じたわ」


「準備します」


 ロベルも同じことを感じたようだ。私たちは同時に緊張を高めた。


 新しい気配が、敵が戦場に現れた。

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