ミッドレースアルファ・プロトタイプ 上
それの形状を一言で表現すれば……悪魔だった。
まるで悪魔を倒すゲームでボスとして出てきそうな見た目。住宅ほどの大きさと筋肉、角のように突き出た牙と本物の角、そして巨大なコウモリの翼。
いろいろな魔物を乱雑に混ぜたローレースアルファとは異なり、その巨大な悪魔は材質と色が少し混ざったけど形状は一貫していた。しかも感じられる魔力がローレースなどとは格が違って強大だった。
私には……いや、私の前世の記憶ではとても見慣れた姿だ。
ミッドレースアルファ・プロトタイプ。量産型兵士ラインナップのローレースとは違う真の精鋭キメラ。その最初の成功作だ。
「ふふふ……はははははは!! これが俺があの御方に選ばれた証拠だぜ! これをもらったのは俺だけだ! ははははは! 偉大な威容を存分に味わいながら死ね!」
奴を解放しただけで勝利に酔いしれたらしく、男が爆笑して私を指差した。しかしそのせいで彼は悪魔が自分を振り返ったことに気づかなかった。
巨大な腕が最も近い生命体を狙って……。
――天空流〈彗星描き〉
「あ……うおっ!?」
油断した男に全速力で突進して捕らえて、そのまま悪魔と距離を広げた。半拍子遅れて、巨大な腕が男がいた場所を攻撃した。床が激しく擦れて巨大な爪痕が残った。
「あんたバカなの? ローレースもまともにコントロールできないくせにミッドレースを呼んでおいてぼーっとするの?」
「き、貴様、急に何を……」
「寝ててね」
「うぐっ……すー……」
睡眠魔力を模写して男を寝かしつけ、拘束と保護を兼ねる結界を幾重にも重ねて隅に適当に打ち込んでおいた。別に助けてくれる義理はないけれど、末端でも一応は幹部である宝蛇だから逮捕すれば何でも少しは分かるだろう。
じゃ、あの大柄な悪魔の奴が問題なんだけど……。
「グオオオオオオオオーー!!」
その時、雄叫びと共に恐ろしい魔力波が私を襲った。
「きゃあ!」
【テリア! 大丈夫!?】
まるで音の壁が私を突き飛ばしたような衝撃と共に私の体が十メートル以上飛ばされで床に転がった。
危ない!
素早く体を起こして姿勢をとったけれど、悪魔は私に襲い掛かる気配がなかった。その前に動作があまりにも鈍くて遅いうえに、私を認識した様子さえなかった。さっき安息領の男を襲った時はとても早かったのに。
【あれ何か状態がおかしいんじゃないの?】
[そうよね。いや、そういえば……]
あの悪魔も『バルセイ』に登場したことがある。
いや、登場だけじゃない。あいつこそゲームを始めたプレイヤーに途方もない威圧感を与えたプロローグのチャプターボスだった。プロローグではあったけれど、ゲームの主人公であるアルカが他の人とパーティーを結成しても倒しに失敗して追い出すしかできなかった怪物だ。
ただ……あの『バルセイ』のストーリー、実は六年後に始まるんだよね。
その上、安息領は初の成功作であるあいつを完成させたことに止まらず、追加的な研究と実験を続けた。その結果、プロローグ時点では身体が不安定で寿命が短くなった代わりに、初めて作られた時より力と凶暴さがはるかに強くなった。
【つまり今は力と凶暴さが強くなる前の初期の状態だって?】
[そうだろうね。時期的にもぴったりだわ]
しかし、『バルセイ』での姿に比べて弱いとはいえ、ミッドレースらしくその魔力と力は十分に強かった。
[そもそもゲームのプロローグは年度で言うと六年後よ。六年足りないのはあいつだけじゃなくて私も同じよね。正直、ゲームのプロローグ時点のアルカよりは今の私がもっと強いけど、そもそもパーティーで挑戦したアルカとソロでしなきゃならない私は状況が違うわよ]
その上、あいつが出てきた以上、早く始末して去ることができなくなった。かなり強い相手でもあるし、魔道具だけ壊して逃げたらあいつが異空間を破って出てきて大きな被害を起こすこともあるから。
こうなると知っていたら、全力を尽くして男を瀕死の状態にしてでも早く終わらせるべきだったのかしら。
正直、ミッドレースアルファ・プロトタイプが完成したのは知っていたけれど、よりによってあの男が持っているとは思わなかった。でも『バルセイ』であの悪魔を管理したのはピエリだった。それを知っていながら予想できなかった私がバカとしか言えない。
【それでも少し期待してるみたいだけど?】
……否定はできないね。
私が今まで力を育ててきたのは全て『バルセイ』の悲劇を打破するためだ。すなわち『バルセイ』に出てくる敵は全部私が越えなければならない山だ。
こんな時じゃないってことを頭では分かってるけど、いろんな意味でウキウキすることだけはしょうがないわね。
[こうなった以上、今の私の力がどれくらいなのかテストしてみるわ]
【貴方そんな風に生きていれば結婚できないわよ】
[どうせできないはずなのよ]
適当に答えて魔力を高める。呪われた森で修練する時以外は一度も発揮したことのないレベルで。
まるで堤防が破裂してあふれ出る水のように莫大な魔力が全身を循環した。そして魔力の波動が爆発するように広がって、周りを蹂躙した。全身から魔力がパチパチして、右目から紫色の眼光が噴き出した。
――紫光技〈選別者〉
私の身体能力が驚異的なレベルに向上し、弱者は立っていられないほどの重圧感をまき散らした。
その名の通り、資格のない者は私の前に立つことさえ許さない特別な強化術。さっきの男くらいなら一秒も持ちこたえられなかっただろう。無論あの悪魔には通じない。
私が噴き出す魔力を感じた悪魔がついに私を振り返った。同時に私を脅威と認識したように悪魔の体内でも魔力が煮え立った。
クオオと咆哮した悪魔はこれまでの鈍重な動きが嘘のように激しい勢いで私に飛びかかった。巨大な拳が雷のように落ちた。
「ふっ!」
それに対抗して剣を振り回す。ドカンと激しい爆音が鳴って、悪魔の腕を弾き出す。衝突の余波で床が大きく壊れた。
跳ねかかる破片に乗って空中に。悪魔の目を眩惑しながら肩と頭頂部に斬撃を浴びせた。しかし硬い肌に防がれて特に成果はなく、むしろ怒った悪魔が私を狙って腕を振り回した。衝撃波だけで床や壁が発泡スチロールのように粉々になった。
でもその時、私はすでに悪魔の右脇腹に突っ込んでいた。
――天空流〈流星撃ち〉
「クオ!?」
悪魔の巨体が横に押し出された。傷は浅かったけれど、もう一度同じ部位に〈流星撃ち〉を撃つと血を噴き出した。
「ガオオオオ!」
「うっ!?」
魔力のこもった咆哮が私を襲った。今回は全方位ではなく、私だけを狙った音波砲だった。斬撃を飛ばしたけれど、まだ相殺できずに押し出されてしまった。
その間、悪魔は腕を伸ばして無数の魔弾を作り出した。ドドドドド、実に派手に降り注ぐ魔弾をあちこち避けて突進する。弾幕を通過した瞬間、巨大な拳が目の前に近づいてきた。
ナイスタイミング!
「グルァッ!?」
〈三日月描き〉の巨大な斬撃が悪魔の手を裂いた。腕が縦にズタズタれて血がポタポタとこぼれた。
その傷自体は急速に再生されたけど、その間私は悪魔の肩に乗っていた。そのまま首に向かって〈三日月描き〉を放った。
しかし今回は悪魔が魔力を爆発させた。轟音と共に斬撃が相殺されてしまった。それだけでなく、私自身も暴風に飛ばされてしまった。
【浄化神剣レプリカを持ってきたらよかったのに。それは魔物には特効でしょ】
[寮に置いてきたから仕方ないじゃない。どうせこうなったから、やりたいことがあるの]
悪魔の体のあちこちに魔力の光が宿った。奴はそのまま全身で私を押さえつけようとするように突進した。衝撃波が空間全体を襲った。でもそんな中、邪毒陣機動の魔道具だけはその破壊の怒濤から絶妙に外れていた。どうせなら一緒に壊してほしいわよ。
【バカなこと言わないで】
近づいてくる悪魔に〈紅炎〉の斬撃暴風をまき散らして魔力を剥がす。そのまま胴体まで斬って押し出して。傷は浅かったけれど悪魔がバランスを崩してフラフラした。
その隙に私は〈魔装作成〉で百本に達する魔剣を作り出した。すべての刃先は悪魔へ。
「照準いいし……発射!!」
――天空流〈ホシアメ〉
すべての魔剣が弾丸になって悪魔に降り注いだ。まるで星の光が雨になって降り注ぐような光景だった。
それに対抗して悪魔は魔弾をまき散らしてもがいた。うるさい音が鳴って、三割ほどの魔剣が砕け散った。破片の間に悪魔の血が散った。その隙に私は悪魔の足元に近づいた。そこに刺し立てられた魔剣を握った。
そのまま剣を抜いて〈フレア〉。閃光が閃いて、悪魔の首筋から血が噴き出した。同時に傷から電流がパチパチした。『万壊電』で放電が起きた。
「クオオ!」
悪魔が苦しんでいる間、反対側の手には『冬天』の魔剣を。
紫色の氷が悪魔の足を拘束した。そして『万壊電』の魔剣に追加で『火炎』の力を込めて雷と火の斬撃を放つ。
「バアアアアァァ!!」
怒った悪魔の咆哮が再び炸裂した。しかし、すでに予想していた私は悪魔の肩を越えて後ろに移動したところだった。
『万壊電』の魔剣を捨て、ちょうど奴の肩に刺さっていた魔剣を習得。切断に特化した『切削』の魔剣だった。その剣で飛ばした〈三日月描き〉でついに悪魔の片翼を完全に切り取った。怒った悪魔が吐き出した魔弾は『冬天』の盾で防いだ。
これが紫光技の真髄。多様な特性を模倣できるだけに多彩な活用ができる。それだけ習得することも、扱うこともとても難しい技術だけどね。
「グルル……!」
「どうしたの? ムカつくの?」
こっそり挑発を吐いてみる。言葉が聞き取れるはずはないけれど、私の話し方に込められた皮肉を感じたようだ。悪魔の魔力が大きく揺れ動いた。
【ね。そんなに余裕を見せたらひどい目に合うわよ】
[余裕を持っているんじゃないわよ]
そろそろ出る頃なんだけど。
ゲームで奴が使った能力を考えながら剣を握り直して姿勢を固めた。
悪魔は怒りで息を吐きながら私を睨みつけるだけで、飛びかかる気配がなかった。でも魔力だけは揺れ続け、次第に膨らんだ。そして一つ残った翼で魔力がますます集中して、翼が赤く染まり始めた。
来た。