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討伐実習の直前

 森というには木が少なく、草原というには微妙に茂みのある場所だった。本来なら往来が少ない場所だけど、今はアカデミーの騎士科の生徒たちが集まっていた。人数は約五十人程度。アカデミー騎士科の教育課程の一つである魔物討伐実習のために集まったのだ。


 ここは王都タラス・メリアからそれほど遠くない。でも開発されていない山岳と近い場所なので往来が少ない。おまけに言えば、ケイン王子の視察で訪れた村がある山がこの近くにある。


 私の傍にはロベルとアルカとジェリアがいる。ジェフィスとリディアはアカデミーに残り、ケイン王子とシドは騎士科ではないので参加しなかった。トリアは私の護衛としてついてきたけれど、これは厳然と騎士科の実習なので今は遠くから私たちを見守っている。


 そしてイシリンは何をしているかというと。


「『バルセイ』のプロローグがこの討伐実習だったよね?」


「それはそうだけど、急にその姿は何なの?」


 イシリンは人間の姿で顕現していた。それはいいけど、今は騎士科の制服を着て生徒のふりをしていた。眩しいほど美しい顔つきが目を引いていた。


「顕現して傍にいるには自然な姿をとった方がいいからね」


「制服を着たからといってできるわけじゃないじゃない」


「当然認識を操作する魔法くらいは使っているわよ。貴方も同じことはできるじゃない?」


「……その魔法って、この世界でも平気で使うわね」


 この世界には魔力があって特殊な力を使うことができるけれど、それを魔法とは呼ばない。前世で言っていた魔法陣というのも……似たようなものがあるけど、全く同じではない。本当に魔法陣と同じ見た目と機能を持つのは邪毒陣程度。けれど邪毒陣は機能が完全に発揮されず、邪毒で世界を汚染させることに特化した傾向が強い。


 しかし、イシリンは平然としていた。


「今の私は権能をほとんど失ったけれど、もともと神だった身だから。本来魔法の法則は世界に刻まれたものだからこの世界では同じ魔法を使うことはできないわよ。でも神は存在自体で異能の法則を証明する存在なのよ。世界が魔法の法則を知らなくても、自分自身に基づいて魔法を使うことができるの。神ではないけど、時空亀裂から流入する異世界の魔物や邪毒獣たちも似たような原理で本来の力を使うわよ」


 本人がそう言うから私が言うことはないわね。まぁ、彼女が堂々と歩き回ることができる方が私にも役に立つし。


 アルカは目を輝かせて口を開いた。


「イシリンさんがいたら、私たちもその魔法って使えますか?」


「可能だけど、貴方なら私を経由して魔法を使うよりただ『万魔掌握』で直接具現した方が早くて効率的でしょ」


 まぁ、ゲームのアルカは邪毒の剣をある程度成長させた後は平気で異世界の魔法を使ったけどね。邪毒の剣を直接所有する者は異世界の魔法を自由に扱うことができるという設定だった。現世なら私はできるだろう。


 それより、重要なのはそんなことではない。


「それで? 何か聞こうとしたんじゃなかったの?」


「あ、そうだったわ。事前調査の結果はどうだったの?」


「まあまあだったわ。ここを襲撃しようとしている証拠はなかったけど、怪しい動きはちょっとあったの。安息領雑兵が何人か逮捕されたりもしたし。それでここに来ると仮定して動くことにしたわよ」


 もちろん別の目的かもしれない。あるいはいろんな事件を同時に起こしたり。ジェフィスとリディアが今回の実習に参加しなかったのもそのためだった。もちろん予期せぬ新たな可能性があるかもしれないけれど……そこまでは予測できないし。


「最初からここを省略して別の場所を狙う可能性は?」


「安息領の立場としてはここをあきらめるのはもったいないはずよ」


 私は実習に参加した生徒たちの面々を見た。


 私たちの他にもかなり有望な人材が多い。個人の能力でもそうだし、家の爵位でもそうだし。そもそも安息領がプロローグでここを襲撃した理由を考えれば、この場を無視することはできないだろう。


 基本的に安息領の行動原理は抱き込みとテロだ。ここにいる生徒の一部でも抱き込んで味方にすることができれば将来大きな力になる。そして抱き込まられない子たちを殺してなくせば王国の未来戦力減少にも寄与する。もちろん戦力減少の部分はあくまでおまけに過ぎないのだけど。


 それに私がいるということは、言い換えれば私の力がどの程度なのかを見極める機会という意味でもある。私だけでなく攻略対象者やアルカも同じ。今の安息領が私以外をどれくらい注目しているかは分からないけれど、私と一緒にいろいろしたからね。少なくとも年の割に圧倒的な力を持っていることは把握しているのだろう。


「みんな気をつけてね。もし安息領がここを襲撃したら、奴らの目的は私たちかもしれないわよ」


「ああ、そうだろうな。戦力もそうだが、そもそも権力の面でもボクらは皆が公爵家だからな」


「負けません! みんな強いですからね!」


 ジェリアは冷静に敵の動機を計算し、アルカは意欲満々だった。『バルセイ』のアルカはプロローグの時点ではすごく落ち込んでいたのだけど。あの姿を見ると本当に多くのことが変わったという実感がした。


「……とおっしゃっても、すぐに事件が起こる気配はありません」


 ロベルはあたりを見回していた。彼の『虚像満開』には単純な幻影を作るだけでなく、作り出した幻影に触れたものを自分の感覚で感じられる特別な機能がある。それを利用して今も周辺の情報を収集している。安息領が現れる気配が見えたら、ロベルが先に気づくだろう。


 ここにいる人はみんな騎士科の生徒なので、自分の体はある程度守ることができる。しかし、安息領が本格的な手段として来ればそれも断言できない。実際、ゲームのプロローグは生徒たちにはかなり手に負えなかった。


 みんなを守るためにも、今は気を引き締めて警戒しないと。

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