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プロローグ 始まりの年

 ――テリア・マイティ・オステノヴァ、十八才




 私は十八才、アルカは十六才。『バルセイ』のストーリーが本格的に始まる時点だ。


 アルカは〝ある事情〟で遅れてアカデミーに編入した。学科は今と同じ騎士科だったけれど、今の彼女とは違ってゲームの彼女はなぜ騎士科に編入したのか疑問に思うほどか細いヒロインの印象が強かった。


 そうだった彼女が実はどんな人なのかが明確に明らかになり、周りの人々が彼女を見る視線が変わる事件――それが『バルセイ』のプロローグだ。


「お姉様、本当に同じ事件が起こるのでしょうか?」


 学園の敷地内を歩いている途中、アルカが心配そうな顔で質問した。


「さぁね、私も確信できないの。けれど事件が起こる可能性は十分だと思う」


「でもミッドレースアルファ・プロトタイプはお姉様が討伐されたじゃないですか」


 ミッドレースアルファ・プロトタイプ。私が一年生の時に討伐した奴がプロローグのボスだった。そのプロローグのボスがもう死んだから、事件が起きないんじゃないかと思うことも十分ありそう。


 しかし、私は首を横に振った。


「本質的にそれは安息領がアカデミーを襲撃した事件の一つにすぎないわよ。そしてプロローグのボスであるミッドレースアルファ・プロトタイプはただプロトタイプにあらゆる追加実験をして力を大きく強化しただけの暴走体だったの。ただ完成体アルファ一匹で同じことをすればいくらでも代役を準備できるはずよ。しかも暴走体でなくても、他の手段を使うことができるだろうし」


 むしろゲームよりも強い手段を使う可能性もある。なんといっても今アカデミーには()()()()()()


 わずか十一才でミッドレースアルファ・プロトタイプを討伐した。十五才の時は二匹のアルファ完成体を相手に優位を占め、一匹を単独討伐した。同年、安息八賢人の一員であるボロスに一対一で勝ち、ピエリを相手にもある程度善戦した。一六才には妹のアルカと二人きりで邪毒獣を討伐し、その時も一人でピエリをある程度は防いだ。


 これが私の戦績。私の口で言うには恥ずかしいけど、十代どころか騎士団の高位隊長格程度と肩を並べるほどの実績だ。当然だけど安息領もよく知っているだろうし、そんな私がいるアカデミーを攻撃するなら生半可な手段は使わないだろう。


 つまり、可能性は二つ。私を恐れて消極的に動いたり、私の存在を想定してもっと過激な手段を使ったり。安息領の特徴を考えれば、後者の可能性が圧倒的だ。


「仕方ないものですね。確かに私でも相手にお姉様のように恐ろしい人がいたら、それを克服するための手段を考えるでしょう」


「……うん、そうよね」


「……あっ! お姉様が怖いという意味じゃなくて! あくまで安息領の立場で……!」


「私も知ってるわよ」


 敵の立場としての推測とはいえ、アルカの口から私を恐ろしいと言うのを聞いて落ち込んでしまった。


 そんな私の傍でジェリアが苦笑いした。


「そんな面はまだ人間的だな」


「何よ、私が普段は人間らしくなかったように聞こえるけど?」


「君の耳は正確だな。良心をかけて考えてみろ。今まで君が成し遂げたことが人間的だったのか。十年、いや五年後に人間をはるかに超越した何かになっていてもボクは驚かないぞ」


 そこまでじゃないじゃん!?


 助けを求める気持ちでみんなに視線を向けた。でもロベルは苦笑いし、トリアは頷いた。アルカとリディアは何とも表現できない微妙な表情で私を見て、結局苦笑いして視線をそらしてしまった。


 もっと憂鬱になった私を見たジェリアはプッと笑った。


「君、前世の世界に分身を送ったんだって? それが平凡な人間に可能なことだと思うのか? 単純な戦闘力ならともかく、そのような超越的な行為は騎士団の万夫長や騎士団長さえも不可能だろう」


「私はいろいろ特殊な状況だっただけだったわよ」


 方法さえ分かれば、世界に隙間を作るのは私以外にも何人かは可能だろう。ただピンポイントで望む世界を追跡できないだけ。私は前世の私という魂の道しるべがあったおかげだし。


 しかもそんなことが可能だとしても、『バルセイ』の悲劇を防げるかは別問題なのだ。まだ私は騎士団の万夫長を相手に勝てない。……一生努力しても万夫長どころか、その下の千夫長ですらなれない人がほとんどだということを考えると、この年で万夫長を相手に勝負を論じること自体が超越的なことではあるけれど。


「それよりテリア。そろそろ安息領の気配が捉えられただろう? そうだろうと言ったのは君だったはずだ。執行部長として調べてみると言ったじゃないか」


「ああ、そうよ。いくつかあったわね」


 安息領は決して当日にいきなり突撃してこない。事前調査や下準備など、密かに進めるけれど気配は確かにある。そこで私は執行部長としてアカデミー周辺や王都の空気、あるいは怪しい者の目撃情報などを鋭意注視した。


 収集した情報を話すと、ジェリアは真剣な顔で頷いた。


「確かに何かありそうな感じだぞ。『バルセイ』の事件をそのまま起こそうとしているのかは分からないが、奴らが動いていると考えた方が安全だろう。ところで『バルセイ』のプロローグは王都の外で発生した事件だったはずだが?」


「そっちはうちの家の者を動かして調べているわ」


「いいぞ。情報が集まるたびに検証して備えればいいんだな」


 よし、順調だ。


 満足そうに笑っていると、今まで黙っていたイシリンが口を開いた。


「とっくに前世のことを明かしていたら、もう少し楽だったのに」


「……過ぎ去ったことはしょうがないでしょ」


 あえて今しなくてもいい指摘をしないで、本当にもう。


 とにかく、もうすぐ『バルセイ』の話が始まる。でもきっと『バルセイ』と同じ展開にはならないだろう。ミッドレースアルファ・プロトタイプの件はさておいても、安息領はすでに私の歩みに合わせてイレギュラーを起こした。これからはもっとひどくなるだろう。


 これからはもっと緊張しながら備えないと。

読んでくださってありがとうございます!

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