名もなき神の力
空に線を刻む斬撃。そこから噴き出す恐ろしい魔力の衝撃波が空を荒した。その一撃だけで空の半分が開いた。飛空船の軍勢の半分が粉々に砕かれ、細かく砕かれた残骸が雨のように降り注いだ。
固まってしまったように動かない奴に嘲笑を送る。
【私はまだ人間の力しか使ってないよ。いつ頃私に本気を出させるつもり?】
【……面白いのじゃ。とても面白いのじゃ】
奴が指パッチンをした。あっという間に増える飛空船が空の隙間を埋めようとした。
この私に同じ手でずっとかかってくるなんて、私のことを本当になめるよね。
【木生火。木は火をもっと広める】
――天空流奥義〈五行陣・火〉
天空に刻まれた極光の線が爆発した。文字通り空全体が極光の光に染まった。その正体はあまりにも暴力的な魔力の奔流。その光が消えた時、飛空船軍団は跡形さえ残らなかった。破片でさえすべて蒸発した。
【貴様の『時』はすべての時間線と過去を観測し、存在したすべてを一時的に再現する能力。確かに強力だけれど、神でないものの再現にすぎないよ】
【……ほう。よく知ってたのぅ】
奴に向かって疾走する。しかし到達する直前、突然私の前に人の形が現れた。互いの剣がぶつかった。
現れたのは……〝私〟だった。
いや、正確には私だったというか。神になる前の私だった。それも一人ではなく五人。神になる前とはいえ、今の私はあの時代で外見はほとんど変わっていない。だからドッペルゲンガーに五人も会ったような気がした。
まぁ、似ているのは外見だけだけど。
――天空流奥義〈五行陣・木〉
五人の〝私〟が同時に斬撃を放った。先ほどの飛空船軍勢の半分を吹き飛ばしたその一撃だった。その向こうであいつが会心の笑みを浮かべていた。
【ふん】
――天空流奥義〈五行陣・金〉
目の前の光景が一変した。
外はそのまま。変わったのは私の目だった。まるでありのままの光景を分解して再構築するようだ。目の前のすべてを理解し、受け取れ、その向こうを見る。
【ここ】
五回の斬撃が五つの〈五行陣・木〉を粉砕した。極限まで圧縮された魔力の不安定な弱点を正確に刺したのだ。壊れた魔力の刃の破片が頬にかすめたけれど、止まるほどの脅威ではなかった。
〈五行陣・金〉はすべてを見抜いて分析した末に確率と可能性まで見通す究極の目。そして、見通した数え切れない可能性の中で望むことを強制的に確定する現実操作の力だ。実際には限界が多い能力だけど、この程度の戦闘なら問題ない。
斬撃は〈五行陣・木〉を粉砕するにとどまらず、五人の〝私〟のうち三人を始末した。でも二人はぎりぎりで斬撃を受け流した。
その二人も追撃して斬っちゃおうとしたけれど、その直前に〝私〟たちが口を開いた。
「また……」
私が振り回した剣を一人が止め、もう一人が横から私を奇襲した。魔力剣を作って奇襲を防いだ。両方で同時に口を開いた。
「また失敗した」
それを聞いた瞬間、私は動きを止めた。遠くから奴がニヤリと笑うのが見えた。
一度溢れ出た言葉は止まらなかった。
「どうして」
「千回」
「万回」
「いくら試してもだめだった」
「失敗した」
「いったいどうして」
「なんで救えないの?」
やっと私はこの〝私〟たちがどの時点の私なのかをわかった。奴が強いてこの時点を選んだ理由も。
彼女たちは私が神になる直前の私だった。必滅の生命として最も強い視点であり……必滅の生命としてのすべての失敗を経験して絶望した私。すべてを恨んで、いつも失敗ばかり繰り返す自分自身が憎らしくて耐えられなかった時代だった。私を見る彼女たちの目は憎しみと自己嫌悪を顕わにしていた。
まるで私を責めるように、〝私〟たちの剣が振り回され――。
【ふん】
迷いのない剣撃が私を切ろうとする刃を折って、私を叱咤する目を切ってしまった。悲鳴を上げる口まで裂いてしまうと彼女たちはもう動けなくなった。
遠くから私を見るあいつに向かって、本気の嘲笑を投げかける。
【今さら何? 私が崩れると思った? 私が神になってどれだけ長い年月が経ったか分からないの?】
確かに、私は神になる前に思い出したくないほど多くの失敗を経験した。でもそれは神になった後も同じだった。神になった後も以前ほど、いやひょっとしたら以前よりも多かったかもしれない。自分自身に絶望した時代なんて、もう遥か昔に過ぎない。今さらその時の感情に支配されることなんてないよ。
そしてそれが限界だから、奴は絶対に私に勝てない。
【貴様の『時』は過去のあらゆる可能性を見守り、再現することもできる。けれど、それはあくまでも世界の中の要素にすぎないよ。神になってからの私を複製するなんて、貴様にはできない。下手に再現神の権能を真似しても貴様の限界を越えることはできないよ】
【……生意気じゃのぅ】
奴が玉座から立ち上がった。不吉な魔力が奴を中心に渦巻いた。
【たかがおもちゃを壊したほどでわしの力の底を乗り越えたと思うと困るのじゃ】
今までは奴の言う通りおもちゃぐらいだったんだろう。そもそも神の力で強化したとはいえ、飛空船はあくまで人間の兵器に過ぎなかった。そして〝私〟を再現したのはただ私を感情的に絶望させたかったためだろうし。すなわち奴は今まで本気で臨まなかった。
でも、それは私も同じだよ。
【勘違いしたら困るよ】
私の体から湧き出た魔力が空間を震撼させた。奴の魔力と比べても全く引けを取らない魔力の渦だった。私たちの魔力は途中でぶつかり、激しい火花を散らした。
【神としての力を使わないのはこちらも同じだよ】
【名もなき神が神の力を論じるのかのぅ? バカげておるのじゃ】
【バカげたのはその名もなき神の剣に斬首される貴様の末路よ】
これ以上の挑発も、神経戦も必要ない。
私たちは沸き立つ魔力を顕わにして互いに突進した。
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