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神の神殿

 呼び掛けの返事はすぐに来た。


 視界が歪んだ。目の前の光景すべてが歪んで、まるでガラスが壊れるように消えた。その代わり、目の前に現れたのは古くてほこりの積もった神殿の廃墟だった。むさ苦しいほこりが鼻を刺した。


 変わったのは目の前の光景だけじゃなかった。


 手を見下ろした。手も袖も地球の〝織部カリン〟のものじゃなかった。……私の本体の手。()が私の本体をここに呼び出したのだ。まぁ、もしカリンの肉体を召喚したら、私の方から本体で攻め込むつもりだったけど。


【久しぶりじゃのぅ、我が契約者よ】


 重厚な男の声だった。


 廃墟の一端、他の場所より高い壇上に古い玉座があった。その玉座に巨体の老紳士が座っていた。顔だけ老けただけの丈夫な肉体を果たして老人と呼べるかは分からないけれど。


 奴は私を見るやいなやニッコリと笑った。見るだけでもぞっとする不気味な笑みだった。


【なかなか面白かったのぅ。おかげで退屈じゃなかったのじゃ】


【貴様の楽しみのためにしたことじゃないよ】


【フハハ、気にすんな。そなたはただそなたのやりたいことをしていいのじゃ。わしが勝手に楽しむだけじゃのぅ】


 さすが狂人らしいね。私生活という概念がない。


 こいつはいつもこうだった。()()()()で邪毒神と呼ばれる存在の中では温厚な奴ではある。でもそれはただ奴の欲望が直接干渉するのじゃないからだけ。一応こいつは契約者に代価なしに力を貸してくれる。しかし決して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 切なる願いを持った者に近づき、何の代価もなく力を貸す。これだけ見ればとても有益な神のように見えるだろう。でも奴の本質は決してそんな良い神ではない。


 普通、神の力を借りれば、望むことを成し遂げることができると思う。しかし、奴はわざと望むことを成し遂げるには足りない程度の力だけを貸す。それを知らない契約者は神の力を活用して願いを叶えようとして……失敗する。そして奴の力でやり直してまた失敗する。そのように失敗が繰り返された末、期待と希望が絶望に変わる瞬間を見物することこそ奴の趣味だ。本当に悪趣味だよ。


 もちろん、借りた力を他のところに使うからといって干渉するのではない。一度貸した力を奪うこともない。だから奴の本質だけ分かれば利用するにはいい。ただ、ほとんどは奴の本質を知る前に破滅するだけ。


 しかもどれもこれも奴の気まぐれに依存するだけだ。もし奴が急に心変わりして害を及ぼそうと決心したら。もしそんな裏切りに自分の楽しみがあると思ったら迷わず実行するだろう。


 あの愉悦に満ちた嫌な笑いは新しい楽しみを期待していて……奴の嫌な本性を知りながらも、私の目的のために今まで無視してきた。


【それで? 今度は何が欲しいのじゃ?】


【貴様の権能が必要だよ】


【フハハ、本当に諦めを知らないんじゃのぅ。だから気に入ったのじゃ。そう、今度は何を……】


【それじゃない】


 奴の愉悦は気持ち悪かったけれど、私の役に立たなかったのじゃない。奴の力があったからこそ、私は数えることさえ忘れるほど多くの失敗を経験した。そしてその失敗は私の今の計画の基礎となった。地球には失敗は成功の母という格言があった。その通りだ。


 そしてその無数の失敗で積み上げた計画に〝奴の契約者〟という立場はもう要らない。


【どうせ貴様に頼んでも何の役にも立たないじゃない。私に必要なのは貴様の力と存在そのものだよ。だから持って行く。全部】


 奴は神々の中でもかなり古い者。当然、私が言ったことがどういう意味なのか知っている。けれど、長い歳月の間にこのような()()を受けたことはなかったのか、しばらく私の言葉を理解していないように反応がなかった。


 やがて理解した後は爆笑が起こった。


【フ、フハ、フハハハハ! 生意気じゃな! とても面白い、やはりわしの契約者じゃのぅ!】


【余裕あるのも今だけだよ】


【いいじゃ、いいじゃ、こんなに笑ってみたのは久しぶりじゃ! ただ、大丈夫なのかのぅ? わしは()()()()()なんかが狙える存在じゃないのじゃ】


【構わないよ。貴様の力は全部把握してるから】


 輝く聖剣が私の手に現れた。奴の唇と目つきが弓のように曲がり、ぞっとする笑みを作り出した。


 私はまだ神名のない神。神名がないということは、すなわち神の固有権能がないという意味だ。でも問題はない。そもそも私は神名を得ることができなかったのではなく、わざと得なかっただけだから。


 すべては、奴の力と存在を完全に奪うために。


【すべての歩みを見守る者よ。貴様を殺し、貴様の力と名前を私のものにする】


 私に必要なのは奴の完全な権能。しかし奴は決して自分の権能を完全に貸してくれない。今まで奴の愉悦のせいでどれだけ多くの失敗を、苦痛を経験してきたのか。個人的な恨みも十分ある。


 だから殺す。殺してその力を奪う。名もなき神が神名のある神に挑戦するのは本来なら自殺行為に他ならないけれど……計画のためなら、これ以上のとんでもないこともいくらでもできる。


 それに奴は他の神とは違う。十分勝てるよ。


【フハハ、いいのじゃ。じゃあ、わしを楽しませるのじゃ!】


 ――権能『時』専用技〈超越回想〉


 廃墟の神殿が消え、広々とした空が現れた。……いや、これを広々とした空と言えるだろうか。


 私の目の前に広がるのは空を隙間なく覆った飛空船の群れだった。空を飛びながら強力な兵器を搭載する飛行兵器。それも私の知る限りでは最も強い最新型モデルに、神の力まで加わった。それが空を覆い隠すほどびっしりと存在した。


【さあ、契約者よ。この神の軍勢を相手に――】


【くだらない】


 ――天空流奥義〈万象世界五行陣・木〉


 最後まで聞く価値もない。そう思った私は沸き立つ魔力を剣に込めて振り回した。


 極光の線が一筋、空を彩った。

読んでくださってありがとうございます!

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