疑いの問答
「ご存知ですわね」
「人間である貴方が世界を越えてくるにはそれだけ強力な道しるべが必要だから。見たところ本体ではないようだけど……そもそも貴方、自分がどれほどすごいことをしたか自覚はある?」
「それはどういう意味ですの?」
人間の身で世界を越えたことが相当なことだということは知っているけど、そう言うほどなのかしら? わからない。そもそも〝神崎ミヤコ〟というブイがなかったら世界の間で漂流していただろうし。
カリンお姉ちゃんは私の表情を見てため息をついた。
「まぁいいよ。本体で直接世界から抜け出せるようになれば分かるよ」
「何を言っているのかはわかりませんが、神の視点や知識について知っているような発言ですわね。ということは、貴方も一応邪毒神だということで理解してもいいですの?」
「……うわ。余計に鋭い。少し怖いね」
「貴方が作ったキャラなんでしょう?」
思わず眼差しが鋭くなったことを自覚する。
カリンお姉ちゃんは『バルセイ』を作った人だ。正確に言えば会社の社長であり、開発チームのトップ。この人が『隠された島の主人』かどうかは別に、『バルセイ』を作った人なら……もしかしたら、私が思ったよりずっとすごい存在かもしれない。世界の創造主とか。
でももし創造主でなければ……それはそれなりに推論の範囲を狭めることができるからいいわよ。
カリンお姉ちゃんは眉をひそめた。
「私は人間を作ったことはないよ。そもそも貴方は作られたキャラなんかじゃないよ」
「私のいる世界は『バルセイ』とは別世界だということですの?」
「さぁね。別というにはちょっと曖昧だけど……」
カリンお姉ちゃんはそこで話をやめてしまった。
うーん、もう飽きた。ずっとこんな風になったら私の方がタイムアウトになっちゃう。分身で異世界に干渉するなんて、永久に持続できるわけじゃないからね。
ここでは勝負をかけてみようか。
――紫光技特性模写『契約』
――『契約』専用技〈三問の円卓〉
魔力の輪が私とカリンお姉ちゃんを取り囲んだ。
必ず三つの問答をやり取りさせる『契約』の秘術の一つ。〈三問の円卓〉に帰属している間、質問には絶対に嘘をつくことはできない。もちろん相手の同意がなければ〈三問の円卓〉は破棄される。けれども、一度両者の同意が成立すれば、三問が終わるまでは絶対に破棄できない。もし無理に破棄しようとすると、命を落とすレベルのペナルティを受けることになる。
一方が遥かに上位の存在なら大きな被害なしに破棄できるけれど、おそらくここにいるカリンお姉ちゃんはその程度の力は使えないだろう。カリンお姉ちゃんが邪毒神だとしても、今ここにいる肉体は本体ではないはずだから。
……いや、邪毒神ってそもそも語弊があるのかしら。邪毒と邪毒神はあくまでも我が世界の概念に過ぎないから。
「〈三問の円卓〉なんて、必ず情報を得るということだね」
「せっかく世界を越えてここまで来ましたから。無駄足になっちゃうと我慢できません」
〈三問の円卓〉はいったん成立すれば強力だけど、あくまで両者の同意がなければ使用できない秘術。ここでカリンお姉ちゃんが同意しなければ終わりだ。ただしその場合、三問に同意しないこと自体が疑いを固める材料になるだろう。カリンお姉ちゃんも知ってると思う。
「いいよ。三問自体は同意できる。ただ条件を追加してほしい」
「どんな条件ですの?」
「もう返事を断った質問はしないで。そして各自一度ずつ、返事を拒否できる権利を付与してほしい」
「……いいですわ。それくらいなら」
一度の質問拒否権は〈三問の円卓〉でよく使われる手段だ。拒否権をどのように浪費させるかが重要な要素でもあるし。一方的に情報を得ようとする私に不利な条件ではあるけど、条件を拒否して〈三問の円卓〉の承諾を得なければ意味がない。
私は直ちに〈三問の円卓〉を加工し、カリンお姉ちゃんはそれを確認するやいなや契約に同意した。〈三問の円卓〉の魔力が私たちを縛った。
「最初の質問は私がしてもいい?」
「そうしましょう」
「ありがとう。じゃあ……今周りの人たちとの関係はどう? できるだけ詳しく」
「……は?」
一瞬、言葉が詰まった。大したことない質問だけど……小さすぎる質問なので、意図がつかめない。そんな雑談で三問の最初を無駄にするって?
意味不明すぎるので、ここに拒否権を使うべきかしばらく悩んだ。でも強いてそうする必要はなさそうだと考えを直した。
「いいですわ。『バルセイ』で私を暗殺しようとしたトリアは私の一番心強い味方で、私のせいで傷ついた人々も……」
できるだけ詳しくって求められたので、みんなとの関係のことを全部話した。どうせ隠すべきことでもないし。ただ……このように言葉で直接表現すると、今の私がどれほど祝福された人生を生きているかが如実に感じられた。私にこんな人生を生きる資格があるのか――という否定的な気持ちが頭をもたげたけれど、必死に抑えた。
カリンお姉ちゃんは満足そうに頷いた。
「……なぜそんなことを聞くのですの?」
「それは最初の質問?」
「そんなはずないじゃないですか。今の質問は取り消しますの」
危うくうっかり騙されるところだった。
ひょっとしたらそれが目的かも。どうせカリンお姉ちゃんの方で必要とする情報はあまりないはずだから、私の質問権を無駄にする作戦なら理解できる。
「最初の質問をしますわ。……貴方は『隠された島の主人』なんですの?」
カリンお姉ちゃんが眉をひそめた。
スタートからストレート。もし『隠された島の主人』でなければ、強いて返事を避ける必要はない。でも同じ存在なら悩むだろう。
『隠された島の主人』も今のカリンお姉ちゃんも、自分はただ自分だと主張している。つまり〝今の名前〟以外のことを明かさないようにしてるんだ。もしこの質問に正しいと答えるなら申し分なく、もし拒否権を使うなら……事実上認めるのと同然だ。
どうせ拒否権を使っても私の確信が強くなるだけだから、ここでは認めるのが戦略的には正しいだろうけど……さぁ、どうするの?
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