カリンとテリア
自分が作ったゲームのキャラが現実に現れたとすれば、普通このような反応は見られないだろう。そして私が神崎ミヤコの転生であることを知らなければ、今のこの反応は不自然だ。
つまり彼女は私が神崎ミヤコの転生であることを知っていたり……あるいは今の私と関連した事情を知っているのだろう。
それに今の私は平凡な地球人の目には見えないように魔力で私を隠蔽した。それでもそれをすぐに見抜いて私を直視することだけを見ても、単純なゲーム会社の社長ではない。
「……はじめまして。私はテリア・マイティ・オステノヴァと申しますわ」
改めて儀礼的な挨拶を切り出した。するとカリンお姉ちゃんは数歩後退した。涙のにじんだ目が私を眺めた。
「貴方、ミヤコでしょ?」
ストレートすぎるんじゃないの?
ベッドに横たわっている前世の私をちらりと見た。昏睡状態なのか寝ているのかは分からない。でも目を閉じたまま意識がなかった。あまりにも平穏で静かで、事情を知らなかったらすでに死んだように見えるほどだった。
「そう言う貴方は誰ですの?」
「……ミヤコじゃないの?」
「神崎ミヤコの記憶と感情を受け継いだのかと聞かれたら、答えは『はい』でしょう。けれど私はあくまでテリアですの。神崎ミヤコだったという自覚はありますけれど、この場にいるのは外見だけ変わった神崎ミヤコではありません」
さて、これからどうするかしら。
カリンお姉ちゃんが普通の人ではないことは分かった。まだ〝神崎ミヤコ〟は死んでもいないのに、突然現れた今の私を躊躇なくミヤコだと言い切ったのを見ると。
ただ、事情のすべてを知っているようではないわね。全部知っていたら、今さら今の私を見て涙声で泣いたり、ミヤコなのかともう一度聞く必要がないから。そのすべてが演技なら俳優に転向してもいいほどだろう。
「私は神崎ミヤコだったテリアですの。でも貴方が誰なのかはわかりませんね。少なくとも〝神崎ミヤコ〟が知っている織部カリンなら、今の私を見た途端ミヤコかって聞ける人ではないでしょうから」
「……そうね」
カリンお姉ちゃんは何か納得した表情で頷いた。いや、一人だけ納得しなくて質問に答えろって。
思わず眉間にしわを寄せると、カリンお姉ちゃんは苦笑いした。
「私は織部カリンだよ。この世界の私はそれだけ」
「異世界の貴方もいるという意味ですわね。正体は何ですの?」
「言ってあげることに意味があるかな? どうせ信じがたいのに」
「それをどう断言しますの?」
「それが私の知っている〝テリア〟なのだから」
涙はいつの間にか乾いていた。その代わり、その場を満たした感情は冷静な余裕と……多分、ちょっとした諦め。
「〝ミヤコ〟なら信じたはず。たとえ嘘だとしても、私が善意を持って何かをしたと主張すれば何の疑いもせずに微笑んでくれたはずよ。けれども、〝テリア〟は違う。ここまで来た時点で貴方は私を信じない。私の話に間違いがあるの?」
……ない。その言葉以外に思い出す反論がないというのが悔しいほど、カリンお姉ちゃんの言葉は正確だった。
前世の私なら、神崎ミヤコならカリンお姉ちゃんの言うことは何でも信じただろう。『隠された島の主人』の分身の顔がカリンお姉ちゃんのものだったのを見た時戸惑ったのも、半分以上は〝神崎ミヤコ〟の感情だった。だけど〝テリア〟である私は冷静に可能性を考え、奴を疑う心が強かった。
何でも疑い、誰でも生半可に信じない。しかし、それは単に不信感を抱いて受け入れないのではなく、確信を得るまで結論を保留すること。そして確信を得るだけの証拠を収集し、綿密に検討して結論を下す――それが『バルセイ』の私が恐ろしい中ボスだった理由であり、今の私の行動原理でもある。『バルセイ』の私と今の私はただ追求する方向性が違うだけ。
カリンお姉ちゃんは私の表情を見て悲しそうな笑みを浮かべた。
「貴方が何を見て経験したかは私もわからない。けれど……多分私を疑うだけの何かがあったはず。だから直接確認しに来たんだよね?」
「否定はしません。でも信じないからといって、言葉の価値がなくなるわけではありません。一応言ってみてください。信じるかどうかは聞いて決めるから」
「断るよ。言っちゃったら計画が狂いそうな気がする」
私は眉をひそめた。少しだけど失望感と裏切り感を感じてしまった。
「私に……〝神崎ミヤコ〟に近づいたこともすべて計画的なことでしたの? 私を騙したんですの?」
「それは違うよ。ミヤコに対する気持ちは全部本気だった。それだけは自信を持って言えるよ」
「何も話さずに、それだけは信じてほしいということですの? 無理がひどすぎますわよ」
「……ごめんね。これも全部貴方のためだと言ったら偽善としか見えないはずだって知っている。それでも私はこう言うしかない」
カリンお姉ちゃんの表情は本当に申し訳なさそうだった。あれが本気なのか、それとも外見だけの演技なのか分からない。
……このまま終わらせるのは気まずい。カリンお姉ちゃんに何か秘密がいることは知っていたけれど、それが何なのか全然わからない。その上、これだけではカリンお姉ちゃんが『隠された島の主人』なのか、それとも本人ではなくても何か関連があるのかもわからない。情報が少なすぎる。もう少しエサを投げてみようか。
「じゃあ、他のことを聞きましょう。『凍りついた深淵の暴君』や『息づく滅亡の太陽』という名前、ご存知ですの?」
「知らない。何それ? 形式を見れば邪毒神の名前のようだけど」
「本当に知らないんですの? 私はあいつらが貴方の仲間だと思ったのに」
「悪いけど本当にわからないよ。もしかしたら未来の私は知っているかもしれないけど、少なくとも今の私は知らない。本当だよ」
「『未来の私』?」
一瞬聞き返してしまったけど、すぐに自分で理解した。
私は神崎ミヤコの転生者だけれど、今ここは神崎ミヤコが生きている時点の地球だ。ここにいるカリンお姉ちゃんの立場から見れば、私は未来から来た人だろう。
カリンお姉ちゃんの次の言葉が私の考えを裏付けてくれた。
「貴方、ミヤコの魂を道しるべにして過去に来たんだよね?」
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