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世界を越えて

 何も存在しない空間だった。


 いや、空間と呼ぶのも無理だろうか。それは本当に〝無〟だった。空気も、光も、時空間も存在しない〝何か〟。それにもかかわらず、その中でふわふわと浮かんでいるような感覚がはっきりと感じられた。本当に矛盾している所だ。


 ここがまさに……世界の隙間。


 世界を離れ、世界の間を隔てる無形の壁。その中に私がいた。正確に言うと本体はアルカたちと一緒に部屋にいて、世界の隙間を遊泳するこの肉体は本体とリンクした分身だけど。


 私が一ヶ月間瞑想しながら見つけたのは世界の壁を越える方法だった。〈五行陣〉は単なる武力の強さではなく、世界の法則と構造を切り裂く力。もちろんまだ私は〈五行陣〉に至っていないけれど、『隠された島の主人』が見せてくれたことを土台に世界に干渉する方法を見つけた。


 もちろんそれだけでは足りない。世界を切り裂き、世界から離れて異世界へ行く道を開くことがそれだけで可能なはずがない。けれども、『隠された島の主人』が露出した顔をまた隠そうとした時、奴は世界の外にある本体から魔力を供給された。その瞬間、魔力が世界の外から中に流れ込んできた気配をもとに、世界の外を認識することに成功した。


 そしてもう一つ信じたことがあるとしたら、それは……私の魂の記憶だった。


 世界間を行き来するのは大変なことだけど、私はすでに経験がある。私は地球から『バルセイ』の世界に渡ってきた異世界転生者なのだから。どのように転生したのかは覚えていないけど、私の魂が異世界転生をしたことは明白な事実。それで私は瞑想しながら自分の魂をのぞき込んだ。そして魂に残っていた痕跡を『隠された島の主人』の魔力供給と結びつけ、ついにヒントを得てしまった。


 ……自分で考えてみても、何かすごいことをやり遂げたような気がするけど。


 しかし、世界の外に出るのはただの過程に過ぎない。ここから私が望む所に行けなかったら意味がない。そのため、私はまた精神を集中させた。そして見つけた。


 まるで私の魂がどこかとつながったような感覚だった。綱でつながってるように。動かないとって思った瞬間、私の体は少しずつそっちに向かって流れ始めた。そんなにどのくらいの間進んだのだろうか。ついに目的地を見つけた。


 巨大な、あまりにも巨大な球体だった。大きさだけ除けば不透明な結界を展開したのと似ている。しかし、それは結界のような簡単なことじゃなかった。近づくほどその球体がとんでもないほど大きいことが分かった。手の届く距離になって直接触ってみると、ものすごく固いということも感じられた。物理的な意味だけでなく、魔力的にも。


 これは〝世界〟だ。


「はあっ!」


 剣で世界の表面を切り裂いた。以前の世界の空間を切って隙間を開けていたのと同じ要領で。ちっぽけに小さな傷がついた。そこに手を伸ばして触ってみると、世界の中の多くのものが感じられた。


「……多すぎ!」


 呆れちゃうほど多かった。確かに、それも当然だろう。世界というのは惑星一つぐらいじゃなくて、宇宙全体だから。宇宙全体のすべてを遠くから眺めるような感じである上に、感じられる宇宙が一つではなかった。いや、一つの宇宙のいろんな姿を見るような気がするというか。


 その数多くの〝一つの宇宙〟の中で、私の魂を引き寄せる宇宙は限られていた。私は〝一つの宇宙〟の様々な姿が何なのかに気づいた。


 これは()()だ。


 この宇宙が経験してきた過去。そのすべてを同時に見ているのだ。その中で私の魂を引き寄せる時間帯がいつなのかも理解した。


 私の転生と『隠された島の主人』の能力に対する推測をもとに考えてみると、世界の外では世界の過去に干渉できるかもしれない。確かではないけど。


 もう一度精神を集中する。宇宙全体といえば広すぎるけど、私の魂を引き寄せる時間帯に限れば場所も特定できた。広々とした宇宙でたった一つの惑星……本来なら宇宙全体の時点では全く見えないほど小さな一部だけど、今なら道しるべがある。


 私は分身を一時的に魔力に変え、世界表面の隙間に流し込んだ。




 ***




 目が覚めた時、私は懐かしい場所に立っていた。


 真っ白な部屋だった。非実用的な装飾など一つもなかった。あるのはベッドと簡素な家具、そして心臓の鼓動をチェックする機械と点滴をかけておくスタンドくらい。


 病室――前世の私が人生のほとんどを過ごした場所。いや、前世の私の人生そのものだった所だ。ドアの横の名札には、一人部屋であるここの唯一の患者の名前が書かれていた。


神崎(カンザキ)ミヤコ〟


 前世の私の名前。それを見た瞬間、私は実感した。


 ああ……帰ってきたんだ。


 ベッドの上に横たわっているのは他ならぬ前世の私。そして、その隣に座っている人は……。


「誰なの!?」


 その人が私を振り返った。


 肩まで下がってくる黒い髪は美しく、黒い瞳は宝石のように輝いていた。人種を言えば一応日本人だろうけど、芸能人も比べ物にならないほど美しい人だった。しかしその表情は険悪で、警戒心がはっきりしていた。


 織部カリン。たとえ実の姉妹ではなかったけれど、前世の私には実の姉妹以上に大切な存在だったお姉ちゃんだ。


 振り向く表情は険悪だったけれど、いざ彼女は私の顔を見た瞬間ぼうっとした顔になった。警戒心や険悪さなどは一気に吹き飛ばされた。


 ……一応挨拶をしてみようか。


「はじめま……」


 口を開いたけれど、半分も言えなかった。突然カリンお姉ちゃんが今にも泣きそうな表情をして、私に飛びついて抱きしめたのだ。彼女は女性にしてはかなり背の高い私の胸に顔を埋めた。横から見ると感動的といえる反応かもしれないけれど……その瞬間、私は冷静に確信した。


 カリンお姉ちゃんはただの地球人じゃない。

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