表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

302/891

有り得ない顔

【まだ〈金〉と〈水〉は見せていなかったけど、この程度ならあえて必要もないね。今まで見せただけでもかなり大きなヒントにならなかった?】


 こっちは力比べで負けないよう必死だけれど、『隠された島の主人』は余裕を超えて楽しそうにさえ見えた。うぅ、憎らしい。


 でも奴の言葉通りある程度情報を得たのは事実だった。特に〈五行陣〉をどのように展開し、魔力をどのように扱うかについてはかなり参考にする部分が多かった。


 ……とはいえ、実際に〈五行陣〉に至るには依然として年単位の修練が必要だろうけれども。


 ――天空流奥義〈空に輝くたった一つの星〉


 左手に新しい魔剣を作り、下を奇襲した。しかし『隠された島の主人』は足で私の剣を蹴った。魔力の集中した足が剣を打ち砕いた。剣身が壊れ、残った柄を持った手だけが空を切った。


 ――天空流奥義〈大晦日〉


 壊れた破片と共に、周りの魔力を左手に集めた。再び刃が形成された。空を切っていた手に突然刃が現れたのが奇襲となり『隠された島の主人』の頬にそっとかすめた。


【なかなか機転の利いた応用だったね】


 しかし、奴は魔力を出して奇襲攻撃を弾き出した。そしてわざと双剣を一本だけ手から離せ、その手で今奇襲した剣を握った。恐ろしい握力が魔力剣を打ち砕いた。その一方で、力比べをしている方の手は微動だにしなかった。


 しかし、その時異変が起きた。


 魔力の制御も、身体的な技巧も『隠された島の主人』の方が遥かに上。でも魔力量だけは私が優れている。いくら極光技と〈五行陣〉が優越しても、魔力量の格差を完全にゼロにすることはできない。今までずっと私は劣勢だったけれど、『隠された島の主人』の方も分身体にあるわずかな魔力をかなり消耗したのだろう。


 そんな状態で私の剣が顔にかすめたからだろう。奴の姿を隠していた邪毒の陽炎が少し散り、邪毒そのもののようだった殻まで割れた。その隙間から奴の顔をちらっとのぞき見ることができた。


 のぞき見て、しまった。


「……え?」


 頭の中が真っ白になったまま固まってしまった。模擬戦も極光技も〈五行陣〉も、すべてが頭の中から飛んでしまった。


 人間の顔だった――それは特に驚かなかった。


 この世界の人間の外見ではなかった――それも同じだ。邪毒神だから。


 とてもきれいな顔だった――特に驚愕する理由ではない。


 それでも私が驚愕したのは……その顔が見覚えがあるからだった。


 ほんの一瞬、顔の全体でもない一部を見ただけ。それでも一目で分かるほど見慣れた顔だった。他の人ならともかく、あの顔を見間違えるはずがないと自信を持つほどでは。


 私は見たことのない顔だ。そもそも見られるはずがない。それでも私の記憶に鮮明に残っているのは……()()()()()()()()()()()()()だから。


「あんたは誰?」


 気がつくと、私は思わず奴の胸ぐらをつかんでいた。


「どうしてあんたがその顔を……あの人の顔を持っているの?」


「テリア? 急にどうしたの?」


「答えて!」


 イシリンが私を見て驚いたように話しかけてきたけれど、答えてくれる余裕もなかった。奴の顔をまた隠した邪毒の陽炎を取り払おうと手を伸ばした。でもさっきとは違って、邪毒の陽炎も体をシルエットのようにして隠す皮も全く剥がれなかった。


【……何を言っているのかわからないね。私は私だよ】


「どうしてあの人の顔で現れたの? 私を侮辱しようとしているの!?」


【言ったはずでしょ。私は私だよ。何を見たとしても、それは貴方の勘違いにすぎない。それとも偶然だったり】


「そんなはずないわ。貴方、顔が現れた瞬間に本体から魔力をもらってまた顔を隠したじゃない。私がわからないと思ったの?」


 分身体の顔がちらっと現れた瞬間、どことも言えない空間越しから魔力が流れ込み、奴の魔力を回復させた。異空間とはいえ、厳然とこの世界の内部であるここに、邪毒神が力を注ぐのは相当なことだ。邪毒神の方でも大きな力を消耗したり、体が弱くなる程度のペナルティを避けられないほど。


 ところが、そのペナルティをわずかに分身体の顔を隠すために甘受したということは、それだけの理由があるという意味だ。


【誰を考えていようが、それは私ではないよ。私はただ『隠された島の主人』にすぎない。過去もそうだったし、今もそうだったし、未来もいつまでも同じでしょ。それだけだよ】


「……言うつもりはないってことね」


【言うことなんか何もないから。そもそもこの分身の顔が誰に似ていようが、それを利用するつもりだったらとっくにやっていたはずよ】


『隠された島の主人』が指パッチンをした。異空間の結界が消え、会談をした部屋の光景が戻ってきた。


【私が降臨していられる時間は長くない。でもこの分身は、邪毒によって生み出された臨時肉体じゃないよ。異世界で使っていたものだけど、それなりに決心して作り出した人間の肉体よ。だからこの殻をこの世界に残しておくのは可能なのよ】


「それで?」


【分身体を世界に残しておけば、必要な時にちょっと降臨して話をすることくらいはできるよ。……まぁ、分身体とはいえ、私の意識が抜けている間誰かがこの肉体にいたずらをするのは嫌だから封印しておくけど。もし助けが必要だったり、話したいことがあるならここに来て。それではいつでも手伝ってあげるから。マルコの奴にももう話しておいたよ】


 邪毒神が自由に降臨できる分身だなんて。これを容認すべきかどうか。


 奴は自分の言うことばかり言ってすぐ姿を消した。この世界に分身体を残すと言ったから、完全に消滅したわけではないだろう。しかし、あえて姿を消したのは今日はこれ以上対話する意志がないという意味だと考えてもいいのだろう。


 ……気になることがたくさん増えてしまったわね。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ